彼女の提案した手伝いは思いのほか大変だった。
渡された作業着に腕を通し、
こんなにたくさんの仕事を彼女は毎日しているのか……。
「いつも一人でやっているの?」
「昔はお兄がいたんだけどね、
「そう、お兄さんが……。ごめんね」
なくなったお兄さんのことを思い出させてしまった。辛い思いをさせてしまったかもしれない。
「いいの。悔やんでも仕方ないし、お兄の分まで
私はまだ家族の死を受け入れられないのに、彼女は受け止めて進んでいる。
「強いね。うらやましいよ」
思ったことがつい口からこぼれてしまった。
「そんなことないわ。今でもたまに泣いてしまうもの。あ、まだ名前言ってなかったわね。私はミユ。手伝ってくれてありがと」
「助けてもらったお礼だよ。気にしなくていい。私はノア。よろしくね」
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その日の夜はミユの家族と一緒にご飯を食べた。私が
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私の目的は子供に
ナイフを手に取り、窓からでたその時。どこからか泣く声が聞こえた。誰のかわからない泣き声など正直どうでもよいのだが、なぜ引っかかり声の主を探すことにした。
声は村の外の森のほうから聞こえる。声に近づくにつれ、木々の隙間から光が漏れてくる。声の主はミユだった。月と星々がそこにあるような波のない湖のほとりに彼女はいた。後ろに立つ私に気づかないほどだった。
今なら刺せる。理想より少し年上だけれど彼女は使える。絶好のチャンスだけれど、刺す気にはなれなかった。
「お兄さんのこと?」
隣に腰を下ろしながら質問する。昼間の話からして私がお兄さんのことを思い出させてしまったせいだろう。
私に気が付くと、服の裾で涙をぬぐった。真っ赤になった目で私を
「うん。私のお兄さんはね、賢くて、強くて勇敢だった。私の、家族の誇りだった。困っている人には迷わず手を差し伸べたし、剣術も魔法も誰よりできた。そんなお兄ちゃんは……」
言葉が止まったミユの目には再び涙があふれ出していた。
「大丈夫だよ。隣には私がいるし、つらいなら無理しなくていいよ」
彼女の背中をさする。彼女の背中は驚くほど冷たかった。夜風にさらされ続けているのも一因だろうけれど、兄の死は彼女にとってよっぽど辛いものなのだろう。
「ありがとう。でも大丈夫。ちゃんと話したいの。自分の口で。それに、もう泣くことしかできないのは嫌だ」
そういった彼女の目は遠い星空を映していた。