(――相手の精神世界に入り込める。そこからどうするかは其方次第じゃ)
神樹の説明は受けたけれど、実際にどうなるかはやってみるまで分からない。とりあえず、ユグラルの外に出ることにした。
侵入するときは大変だったけれど、出るのはすごく簡単だ。この神樹から滑空するだけでいい。翼を広げるだけだから魔力の消費も少ない。何より、黄金のリンゴを食べたことで魔力が回復している。
もうこの町に用はない。次に来るときは、リンゴを奪いに来るときか、この町を支配しに来るときだろう。
神樹のくれた装備は素晴らしいものばかりだった。外套は軽いし、呪文を唱えれば周りの景色にカモフラージュしてくれる。ウエストポーチには水筒やグローブのほかにもいろいろ入っていた。さすがに寝袋が入っていたことには驚いたけれど、ほかにも日用品がたくさん入っていた。見た目と中身の量がかみ合わないので、空間を広げる何かしらの魔法がかかっているのだろう。
入っていた寝袋は素晴らしく寝心地がよかった。あったかいし、綿がたくさん詰まっているので背中が痛くない!外套と同じくカモフラージュの魔法がかかっているので安心して眠れた。
翌日。流石に食料は入っていなかったけれど、魔族は魔力さえあれば死にはしない。もちろん食べ物から栄養を取ったほうがいいが、この先何があるかわからないのでお金は使いたく無い。親の遺産の半分以上が王族と四大貴族に取られたのでそんなに残らなかった。収入が期待できない今は必要最低限のものしか買えない。
外套を纏い、瞑想をしていると馬の足音がだんだん近づいてきた。商人だ。どうせ来るだろうと思って町の入り口付近で待っていてよかった。この場所は木の陰になっていて衛兵からは見えないだろうし、チャンスだ。
「
魔法が届くぎりぎりの距離で呪文を唱える。引き寄せられ妖精の首根っこをつかむ。見えない手につかまれて暴れるエルフを茂みへ放り投げる。魔族は妖精よりも力があるので簡単だった。
「ここは……?」
目を開けるとそこは知らない場所だった。目の前には壁に飾られた一つの写真がある。額縁に書かれた題名は「4月7日 入学式」だった。額縁の中には、校門の前でさっき刺した妖精とその妻らしき人と子供が笑っている写真が描かれていた。
ただただ不快だった。なぜこいつが、こいつの家族は幸せなのだ。なぜこいつらが幸せになれて私の家族はなれなかったのだ。怒りに任せ写真にナイフを突き立てると額縁ごと写真が消えた。
「は?どういうこと?」
額縁ごと消えるという訳の分からない出来事に戸惑いつつも冷静さを取り戻す。深呼吸の後、あたりを見渡すとさっきのような写真が飾られた廊下がずっと先まで続いている。
とりあえず、一番奥まで行ってみるっことにした。出口がないので行くしかなかったというほうが正しいかもしれない。
一番奥には豪壮な扉と、「深層」と書かれた看板があった。ここから先が深層ということはここは表層心理ということだろうか。ほかに道はないので進むしかない。
深層は先ほどのお城の廊下のような雰囲気とは異なり、水族館のようだった。全体的に暗くて、ところどころにある水槽に単語が浮かんでは消えていた。「金」「女」「地位」「家族」「権力」などの人の欲望をそのまま言葉にしたような言葉しか見当たらない。深層心理なんて案外この程度なのかもしれない。奥に進むにつれて多少の変化はあったけれど大差はなかった。
変化があったのは100メートルほど歩いた後だった。水槽の中に出てくるのが言葉ではなく、表層にあったような思い出のワンシーンに変化した。
人間の芯の部分は「思い出」なのだろうか。もしそうなら私の芯の「思い出」は何だろう。家が焼かれたあの日だろうか、それとも、家族との幸せの日々?
答えのわからない疑問について考えているとまた先ほどの扉にたどり着いた。