私には固有魔法を持っているけれど、近くのものを引き寄せる程度のことしかできないので復讐には使えない。
そのため、私はまず、四大貴族に復讐するための力を手に入れることから始めた。
幸運なことにこの世界には単純で簡単な力の手に入れ方がある。それは、世界樹の実を食らうことだ。あの樹はこの世界に生きる全ての生命の源だ。そのため、その樹がつける実はエネルギーの塊なのである。
その実でこの世界を維持していると聞いたことがあるけれど、さすがに予備の一つや二つあるだろう。最悪世界が滅んでも復讐は完遂されるから別にいい。そもそも、こんな世界は滅びてもいいんだ。それで、いいのだ。
後日。
私は変身の魔法は使えないので、あの高い壁を超えるしか方法はないのだけれどできるだろうか。妖精の羽と違い魔族の翼は魔力で生み出しているものだから、魔力がなくなれば重力になされるがまま地面と衝突する。
こんなところで死ぬわけにはいかない。けれど、方法はこれしかないのだ。できるだろうか。違う、やるんだ。ここで立ち止まるわけにはいかない。
周りの森の中でも一番高い木から飛ぶことにした。実行は妖精目の少ない夜。それまでに、瞑想をして魔力を高め続ける。今は少しでも魔力が欲しい。入る時、世界樹を登る時、出る時、と三回飛ばなければならない。
こんな短時間にこれほどの高低差を飛ぶのは今日が初めてだ。
ひたすら雑念を殺して、魔力をためていたらいつの間にか夜になっていた。決行の時間だ。木を登り、翼を広げる。覚悟を決める。目をつむり家族の姿を思い浮かべる。心優しい母を、尊大な父を、愛する弟を殺した世界に、貴族に復讐する。絶対に。
リンゴを盗むのは案外簡単だった。衛兵は一人もいないし、衛兵だけでなく、エルフも神もいなかった。人気のない夜の神樹は昼間の神々しさを失いすこし不気味だった。
木の実を探すために適当な枝に上ると、リンゴは目の前にあった。ここまで良いほうに物事が進むと少し不安になるけれど、覚悟は決めてきた。もう後には戻れない。目の前の果実を盗んで食べる。それだけだ。
リンゴをつかみ取る。普通のリンゴの数倍重い。神樹の力がずっしりと詰まっているからだろうか。まぁそんなことはどうでもいい。枝に腰を下ろし、右手の中にある美しく輝くリンゴにかぶりつく。
(貴様は……魔族か。何を望む?)
「あなたは、神樹?」
(そうだ。貴様は何が欲しい?何を欲してその実を食らうのだ)
「私は、私は――」
私はこの世界に復讐できるような力が欲しい。貴族を殺して、すべてを破壊できるような力が。
ほしいものは決まっているのに声が出ない。私は迷っているのだろうか。覚悟は決めてきたつもりだった。甘かったのだ。心のどこかで両親が望んだように、普通に生きたいと望んでいる私がいる。弟の分まで幸せになろうとしている私がいる。
(小娘……なぜ泣いている)
「えっ?」
左手を頬にやると、人差し指に液体が触れる。私は、泣いているのか。
「私は、私は……私は幸せになりたい。すべての人間からすべての幸せを奪いたい」
私は、私からすべてを奪ったこの世界からすべてを奪う。幸せも財産も、すべてを。
「だから、力をください。私が、復讐と革命を成し遂げられる力を」
(少女が修羅となるか……。わかった。力をやろう。すべてを変えられる力を)
満月の光が木の葉の間からあふれてくる。冷たい光が私を包み込む。
気づくと私は真っ黒の外套に身を包んでいた。腰にはナイフとウエストポーチがある。ポーチの中には水筒と黒のオペラグローブが入っている。服装も、Tシャツと短パンからカッターシャツとスラックスに変わっている。こんな服を着たのはいつぶりだろうか。
(そのナイフは『
いくらすごい力があってもただのナイフだ。これだけでは復讐も満足にできないではないか。
「このナイフだけで世界を変えろと?」
(黄金のリンゴを食らった其方にはわしの力が流れ込んでいる。いずれ様々な形で顕現するだろう)
「ほかにも力が……」
その力がどんなものかによるけれど案外何とかなるのかもしれない。まあ、成し遂げる以外にもう道はないのだ。