激しい雨の降る梅雨時。縁側に座る二人の間柄は、もう言葉さえもいらないような。そんな仲睦まじい夫婦の、ちょっと年寄り臭くも微笑ましい穏やかなひととき。
ページを捲ると、ほのかに漂い始める違和感。「あなた」の言葉が全部独り言かのような。それに30代の夫婦の記念にしては短すぎる「1年」という数字。
またページを捲る。確信に変わる違和感。やはりかみ合わない「私」と「あなた」
そしてページを捲ると、その答え合わせが・・・・・・。
真相を知った上で見返すと、「あなた」に会いたい一心で残ったのに話すことも、手を温めることも、一緒にアールグレイを飲むことも、視線を交わせることすらもできない二人の様がありありと伝わり、より一層切なさが増してきます。
せめて同じ方向を見させて。「あなた」の未来のためを思った、せめてもの願い。
からの・・・・・・「永遠に忘れないで」。この一言に「私」の全てが凝縮されているかのような、突き刺さるようなラストワード。綺麗事で蓋をして前を向くには、「あなた」への思いはあまりにも大きすぎたのでしょう。
短編小説としての構成力の高さに、思わず爪の垢とアールグレイを煎じて飲みたくなるような。そんな一作でございました。
余談ですが、紫陽花の花を赤くするのには卵の殻を使うといいそうですね。