「オペラ、ですか?」
それは、夕食の席だった。同席したスミス夫妻が、由花子を観劇に誘った。
「ええ、シアターホールがあるのはご存知よね?あそこで、毎日違う演目で歌劇があるの」
「オペラかぁ、なんか高額のイメージで」
「大丈夫、代金はチケットに組まれてるの。レストランやカフェも支払い済みなの。ご主人、お財布を持ち歩かないでしょ?」
あ!
「利用しないと損だよ。乗船代だけでは、ちょっと高いからね」
「知りませんでした」
「行ってくるといい、私はちょっと所用がある」
この船には、ジェイドと同じ職業の人間が何人か乗船していた。
「おや、由花子。今日は一人ですか?」
声をかけたのは、ジェイドの同僚のトマスだ。
「いいえ、スミスさんと観劇に。ジェイドさんは所用があるとか」
「たしかに。彼は責任ある立場ですから。ま、上から船代がでるから、ある意味役得ですがね」
「ほんと。こんな豪華客船、普通は乗れませんよね?」
(飛行機と船、好きな方を選べるけど。なぜジェイドさんが船を選んだか、理解できる気がしていた)
「本国に戻れば、旅行どころじゃありませんからね。今のうちに、休暇をとらせてもらいました」
やれやれ、とジェイドは日本人のようなボヤキを呟いていた。
「では、観劇を楽しんで」
「はい」
由花子はこの、トマスという青年が嫌いではなかった。おそらく、それはジェイドも同じだろう。
「さて、報告書はこれで完成。あとは、・・・」
それは、ある密売人の手配書だ。銀髪にアイスブルーの、美しい女が微笑んでいる。
「シャロンか、男か女か・・場面で変化する。ヤツに手籠めにされた被害者は数しれず―――か」
日本に潜伏していると情報があり、ジェイドとトマスや多くのアメリカ兵が日本に入国した。
しかし、三ヶ月の滞在で目立った成果はなく、帰国の時を迎えてしまった。
「二時か。そろそろオペラが終わるな、由花子を迎えに行くか」
書類をケースに入れ、ジェイドは客室を出た。
「楽しかったです」
「でしょ?また、お誘いして?」
「はい、喜んで!」
スミス夫妻とは、突き当りの通路で別れた。また、夕食の時にと手を振り、由花子は部屋に向かった。
『hello』
美しい発音に、由花子は振り向く。そこには、在りし日の浩二が立っていた。
「浩二さん」
優しい笑顔に、由花子は泣き笑いになる。その笑顔を、何度・・恋しく思ったか。
「すみません、あなた・・日本の方ですね?」
「はい」
「僕、誰かに似ていますか?」
ドキリと、心臓がはねる。
「・・・んぅ」
深い口づけに、由花子は身を捩る。
(違う、浩二さんじゃない。浩二さんは、こんな激しく口づけない)
膝がガクガクと震える。何度もジェイドに仕込まれた身体は、拒絶する心を裏切り蜜であふれる。
やぁ・・ジェイドさん!
物置きのような場所で、ブラウスが裂かれる。下着に手を入れられ、性器を弄られる。
助けて、ジェイドさん
「凄いね、ぐちょぐちょ」
濡れて光る指から、滴る蜜に死にたくなる。
「ジェイドさ、ごめんなさ」
――っく
気がつけば、由花子はバスルームにいた。
「由花子?」
破かれた服のまま、由花子は湯に打たれていた。
「―――イヤ、こないで」
見ないで!
泣き叫ぶ声が、室内に響いた。