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第五話

「オペラ、ですか?」

 それは、夕食の席だった。同席したスミス夫妻が、由花子を観劇に誘った。

「ええ、シアターホールがあるのはご存知よね?あそこで、毎日違う演目で歌劇があるの」

「オペラかぁ、なんか高額のイメージで」

「大丈夫、代金はチケットに組まれてるの。レストランやカフェも支払い済みなの。ご主人、お財布を持ち歩かないでしょ?」


 あ!


「利用しないと損だよ。乗船代だけでは、ちょっと高いからね」

「知りませんでした」

「行ってくるといい、私はちょっと所用がある」


 この船には、ジェイドと同じ職業の人間が何人か乗船していた。

「おや、由花子。今日は一人ですか?」

 声をかけたのは、ジェイドの同僚のトマスだ。

「いいえ、スミスさんと観劇に。ジェイドさんは所用があるとか」

「たしかに。彼は責任ある立場ですから。ま、上から船代がでるから、ある意味役得ですがね」

「ほんと。こんな豪華客船、普通は乗れませんよね?」


(飛行機と船、好きな方を選べるけど。なぜジェイドさんが船を選んだか、理解できる気がしていた)


「本国に戻れば、旅行どころじゃありませんからね。今のうちに、休暇をとらせてもらいました」

 やれやれ、とジェイドは日本人のようなボヤキを呟いていた。


「では、観劇を楽しんで」

「はい」

 由花子はこの、トマスという青年が嫌いではなかった。おそらく、それはジェイドも同じだろう。


「さて、報告書はこれで完成。あとは、・・・」

 それは、ある密売人の手配書だ。銀髪にアイスブルーの、美しい女が微笑んでいる。

「シャロンか、男か女か・・場面で変化する。ヤツに手籠めにされた被害者は数しれず―――か」


 日本に潜伏していると情報があり、ジェイドとトマスや多くのアメリカ兵が日本に入国した。

 しかし、三ヶ月の滞在で目立った成果はなく、帰国の時を迎えてしまった。

「二時か。そろそろオペラが終わるな、由花子を迎えに行くか」

 書類をケースに入れ、ジェイドは客室を出た。


「楽しかったです」

「でしょ?また、お誘いして?」

「はい、喜んで!」


 スミス夫妻とは、突き当りの通路で別れた。また、夕食の時にと手を振り、由花子は部屋に向かった。


『hello』


 美しい発音に、由花子は振り向く。そこには、在りし日の浩二が立っていた。


「浩二さん」

 優しい笑顔に、由花子は泣き笑いになる。その笑顔を、何度・・恋しく思ったか。

「すみません、あなた・・日本の方ですね?」

「はい」

「僕、誰かに似ていますか?」

 ドキリと、心臓がはねる。


「・・・んぅ」

 深い口づけに、由花子は身を捩る。

(違う、浩二さんじゃない。浩二さんは、こんな激しく口づけない)

 膝がガクガクと震える。何度もジェイドに仕込まれた身体は、拒絶する心を裏切り蜜であふれる。


 やぁ・・ジェイドさん!


 物置きのような場所で、ブラウスが裂かれる。下着に手を入れられ、性器を弄られる。


 助けて、ジェイドさん


「凄いね、ぐちょぐちょ」

 濡れて光る指から、滴る蜜に死にたくなる。

「ジェイドさ、ごめんなさ」


 ――っく


 気がつけば、由花子はバスルームにいた。

「由花子?」

 破かれた服のまま、由花子は湯に打たれていた。

「―――イヤ、こないで」


 見ないで!


 泣き叫ぶ声が、室内に響いた。


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