「そんな、浩二さんが・・・」
中学の出会いから交際が始まり、由花子と交際は六年の大恋愛の末に結ばれた。しかし、祝言の日に召集令状が届き、初夜から七日で引き裂かれた。
「子供もいないし、やはり・・出ていくべきよね」
わずかな着換えを包み、由花子は高岡家を出た。かと言って、由花子には帰る家も行く宛もない。
優しい夫の思い出を胸に、霧雨の中で途方にくれていた。
〈由花子?〉
それは、浩二の友人のジェイドだった。
〈ジェイドさん〉
〈どうしたんです?こんな雨の日に、こんなに冷たくなって〉
由花子は涙を零した。
〈浩二が、死んだんですか?ホントに、あの優しい浩二が?〉
ありえないと、ジェイドは首を振る。
〈私、もう居た堪れなくて。だって、子供も居ないし居る価値なんて〉
〈日本人のおかしなトコです、なぜ子供が出来ないと妻の・・パートナーの権利がなくなるのでしょう?〉
「・・・」
ジェイドは由花子の肩を掴み、抱き寄せた。
「アメリカに、私の故郷に参りましょう。穏やかに、暮らすんです」
ジェイドの日本語は、とても優しく流暢だった。
「ジェイド。私をアメリカに・・あなたの国に、連れて行って下さい」
閉じた瞼から幾筋もの涙がこぼれ、ジェイドは由花子にキスをした。
「・・・・」
何度も上り詰め、由花子は余韻に震えた。ジェイドのペニスは、浩二との情事では届かない場所に届き、由花子は初めて絶頂を迎えた。
「由花子」
震える由花子の背中にキスをし、ジェイドは自身を引き抜いた。
「も、だめ」
「もう、これ以上はしません」
久しぶりの情事に、由花子はその快楽に溺れた。寂しさも悲しみも忘れたい、由花子はジェイドとの行為を受け入れた。
「んぅ、やっ・・・なに」
水と、錠剤が流し込まれる。
「避妊薬です」
「あ」
由花子はジェイドに、何度も注がれたコトを思い出す。
「愛しています、由花子。いずれ、私の子供を産んで下さい」
「はい」
二人は何度も抱き合った。
「由花子」
それは、由花子が十七の春だった。浩二は留学生のジェイドを、由花子に紹介した。
「うちの大学に来た、交換留学生のジェイド。ジェイド、彼女は由花子と言って僕の恋人だ」
頰を染める由花子を、ジェイドは一目で恋してしまった。
(親友の愛する女性を、私は愛してしまった。浩二を大切な友人と思うからこそ、私は気持ちを封印しました)
戦争が始まり、ジェイドは母国に帰った。浩二には召集令状が届き、彼の両親はやっと結婚を赦したのだ。
「由花子、愛している」
「私も、です」
性的なことに皆無な浩二との情事は、快楽より幸福を満たすものだった。
しかし、ジェイドとの交わりに得られる快楽に、由花子は溺れた。自分の腕ほどある太く長いペニスで犯される快楽は、浩二とは桁違いだった。
「由花子、大丈夫ですか?」
翌朝、心配そうにジェイドに訊ねられ、由花子は「はい」と頷いた。
「朝食を済ませたら、渡航の手続きに入ります。そこから、三十日の船旅となります」
「三十日・・・やっぱり、アメリカは遠いんですね」
由花子の顔に、悲しみはなかった。ジェイドに愛され、少し心が回復したのだ。
(浩二さん、さよなら)
心の中で、由花子は夫に別れを告げた。