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第3章~彼の幼馴染みと彼女が修羅場すぎる~第13話

 金曜日の夜に大島睦月おおしまむつき浜小春はまこはるとの会談(?)を終えたオレは、もう一度、頭の中身を整理してから、二人のクラスメートに連絡を取ることにした。


 一人は、教室の後ろの席で、オレによく話しかけてくる男子生徒。

 もう一人は、今回の問題の当事者であるクラス委員の女子生徒だ。


 塚口つかぐちまこととは、土曜日のうちに会うことができた。

 そこで、大島たちとの話し合いが終わったあと、自宅に戻ってから、一晩かけて考えたアイデアを語り、チカラを貸してもらえないか、と要請すると、気の良いクラスメートは、


「わかった! ボクは、久々知くんに、そのことを伝えるだけで良いんだね? 『泣き虫なケモノのおはなし』みたいで、ちょっと面白そうだし、ムネリンに協力するよ!」


と、オレの誘いに快く応じてくれた。


 あとは、上坂部葉月本人の意志を確認するだけだ。

 というわけで、日曜日の午後にあらためて、その張本人と会うことになった。


 彼女自身が、「相談に乗ってもらっているのは、私だから……」と申し出てくれたので、今回もオレの自宅から近いヨネダ珈琲・武甲之荘店に来てもらうことにした。


「悪いな、こっちの方まで来てもらって」


 少し後からやってきたクラスメートに声をかけると、


「ううん、立花くんには、ずっと私の話しを聞いてもらっているから……それに、また、ヨネダのホワイトノワールも食べたかったしね」


と言いながら、上坂部は微笑む。

 もしかすると、この店を選んだのは、オレに気を使ったのではなくて、後者の方の理由なのではないか、とも感じたのだが、そのことは口にしないことにした。


「こうして話すのは、テスト前のとき以来だな。あのあと、名和めいわに呼び出されることになった訳だけど……どうだ、あれから心境の変化などはないか?」


 定期テストをはさんで、いまから10日ほど前、放課後の教室で、喫茶店の目の前に座るクラスメートは、幼なじみにて想い人の交際相手である転校生から、


『知ってください その香り 困っている人もいます』


と、いう教室に貼られているポスターを指さして、「香害こうがい」の発生源であることを指摘された。


 思春期の女子なら、それだけで、自宅に引きこもってしまいかねないショッキングな出来事ではないか、と勝手に想像していたのだが、(以前からも感じていたけど)上坂部葉月という女子生徒は、真面目な優等生的イメージとは異なり、かなり図太い性格なのかも知れない。


「リッカに、フレグランスのことを言われたときは、死にたくなるくらい恥ずかしかったけど……これくらいで、めげてちゃダメだよね。大成たいせいのことを諦めるわけにはいかないもん!」


 そう言って、握りこぶしを固める上坂部葉月の瞳には、炎が宿っているようにすら感じられる。

 また、オレの鼻が、あの濃厚な香りに慣れてしまったためだろうか、前回この店で語り合ったときや、その翌日に、二人揃って名和リッカに呼び出されたときに比べると、彼女の首筋あたりからただようジャスミンとバニラのような芳香は、かなり控えめな香りであうように思われた。


(うん! その意気やよし!!)


 と感じたオレは、まず、テスト明けから考えていたこと、大島や浜と話し合って気づいたことを中心にクラス委員に話すことにする。

 まずは、『彼女がいる男性が本命にしたい女性の特長』についての情報共有を行う。


 オレが、彼女がいる男性が本命にしたい女性の特長として


・聞き上手で癒し系

・自立していて魅力的

・家庭的な一面がある


の三点をあげると、上坂部はスマホを取り出して、熱心にメモを取り出した。

 こうした生真面目さは、普段の彼女のイメージ通りだ。


「この特長のうち、聞き上手なところや家庭的な面があるところは、上坂部自身の長所なんじゃないか、とオレは思う。だから、これからも、いまの良い部分を忘れないように久々知に接すれば良いんじゃないか、と考えているんだ」


 オレが、自分の考えをまとめて伝えると、クラスメートは、「ふんす!」と言わんばかりにドヤ顔を決め、


「ありがとう! 立花くんにそう言ってもらうと、なんだか、自信が湧いてくるよ」


と、感謝の言葉を述べる。


(いや、もう一つの特長では、名和リッカが勝っていそうなんだけどな……)


 という個人的な見解を伝えるのは、避けておいた。


 その次に、金曜日の夜、ドーナツ店で、浜小春が言っていた、現状の懸念点を正直に伝える。


「オトコが、交際相手に見切りをつけて、新しい相手を求めるときには、次の三つのパターンがあるそうだ。『彼女との関係がマンネリ化してる』『異性に刺激を求めるタイプであること』『自分に自身が持てないタイプであること』――――――。上坂部の視点から、久々知に当てはまっていそうな特長はあるか?」


 すると、さきほどドヤ顔を披露し、熱意と自信にあふれていた彼女の顔色が途端に曇ってしまった。


 そうして、悲しげにポツリとつぶやく。


「リッカとは付き合いはじめたばかりだし……大成の性格から考えても、あとの二つのパターンもあてはまってないかも……」


 それまで、スマホでメモを取るために動かしていた手が止まってしまった彼女を励ますために、オレは、口を開いた。

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