―――ところで、
オレの週末レポートを興味深そうに聞いてくれていたワカ
オレが、「うん、まあ、それはボチボチね……」と言葉を濁すと、叔母は聞いてもいない話を勝手に進める。
―――自己犠牲の精神を発揮して送りバントを決めることも大事だけどさ……ベンチに帰ってきて、『ナイスバント!』って、ハイタッチをしてくれる人間ばかりじゃないから、そのあたりは、肝に命じておいたほうがイイよ。
などと、野球ファンにしか理解できない例えを語りながら、我が叔母は、一人で納得しているのだが……。
地域柄なのか、それとも、トラさんチームの熱狂的なファンであるウチのジイさんの影響を受けたのか、ワカ
閑話休題――――――。
野球には、それほど詳しくないオレだが、自分の行動が、送りバントとして、誰かの次のステップにつながるのであれば、そのことを嬉しく感じる。それは、オレが保育園の年長組のときに演じた『泣き虫なケモノのおはなし』という絵本の内容にも通じるからだ。
「まあ、オレのしたことが誰かの役に立つのなら、嬉しいと思うよ」
―――ふ〜ん、えらく殊勝なことを言うじゃん。まあ、良きかな良きかな……アンタが
「いや、そんな大したことはしてないと思うんだけど……」
―――いやいや! そうして、対人関係における経験値を積んでおくことは、あとの人生で絶対に役に立つよ!
「その経験値ってさ……ドラクエみたいに、貯めれば、レベルアップできるモンなの?」
―――うん! 当然、目には見えないけどね……ただ、私が生まれる前の時代なら、年齢には肩書と社会的地位が比例してたから、まさに、ドラクエの経験値理論が当てはまってたんだけど……。
「あぁ、いまでも、年齢 = レベルアップみたいな感じで、誕生日が来たらSNSに投稿してる芸能人が居るもんな〜。誰とは言わんけど……」
―――まあ、あの芸能人の言っていることも、大きく間違っちゃいない。昔は、受験・就職・会社での出世、もしくは、恋愛・結婚・育児って感じで、人生のステージも年齢を上がるごとに迫ってきただろうし……これを中ボス・大ボス・ラスボスの順番に倒して、クリアして行くのも、年齢に比例する経験値だけで、対応できる場合が多かっただろうからね
「念のために聞くけど、やっぱり、いまは、そうじゃないの?」
―――そうだね〜。男性だけが主な働き手で、終身雇用と賃金のベースアップが保証されているなんて時代は、バブル崩壊とともに消し飛んじゃったし……すべてのヒトが、
「じゃあ、みんな、どんなことを目標にして生きていけばイイのさ?」
―――うん、そこで、私は、人生ドラクエ説じゃなくて、人生ポケモン説を唱えたいね!
「人生ポケモン説?」
―――そう! いまの世の中、ヒトの一生は、ひとつのストーリーをなぞって、道を外れないように進めていく『ドラクエ』のようなモノから、好きなポケモンを集めて育てるようなモノに変わってきた、ってこと。ポケモン的な人生は自由度が高いから、何をゴールに設定するのか……それは、プレーヤーの数だけ答えがあるってこと。
「いや……それってさぁ……もう明確な答えが無いってことと同じじゃないの?」
―――まあ、たしかに、そう言えるかもね〜(笑)だけど、受験・就職・会社での出世、恋愛・結婚・育児だけが人生のすべてでは無い……年齢に合わせて『
「そう、なんだ……」
―――これだけ世の中の動きが変わっても、いまの社会は、ドラクエ的な価値観から抜け出せていない部分も多いし、ポケモン的な生き方は、お手本となる先輩の事例……これをロールモデルって言うんだけど……自分に相応しい先例を見つけるのが難しいから、困難な道のりでもあるけどね。
「そっか……じゃあさ、ワカ
―――おっ、なかなか鋭いところを突くじゃん? まあ、そこまで、カッコつけた決断って訳でもないけどさ。
「けど、そんな考え方もありかな、ってのは少しだけ思った……オレも、ワカ
―――ん〜、どうだろう? ただ、ポケモン的人生を歩もうと思ったら、ドラクエ的な人生よりも、コミュニケーション能力は、重要だよ。フリーランスな生き方は、ヒトとのつながりが全てだからね! そのためにも、いまのうちから、対人関係の経験値は積んどきな。お気に入りのポケモンがあらわれたとき、キチンとゲットできるようにね!
そう言って、ワカ
コミュニケーション能力が重要なら、「自分には、ポケモン的な人生の方が向いている」と言ったことは撤回した方が良いのかも知れない。
こんな話題になったのも、テスト前の学生なら誰もが考える、
(テストで良い点を取ったところで、人生のなんの役に立つんだ?)
という目前の現実から目を背けようとする考えが頭の片隅でグルグルと回っているからだろう。
ただ、それでも――――――。
ワカ
そして、オレは、「いまのうちから、対人関係の経験値は積んどきな」というワカ
(これから、仲間として活動していくのに相応しい相手は、誰なんだろう―――?)
ということを否応なく考えさせられることになった。