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第3章~彼の幼馴染みと彼女が修羅場すぎる~第9話

 忘れ物を取りに戻ってきたという浜と、彼女に付き添ってきた大島は、目的のものを回収すると、教室から去って行った。

 去り際に、大島が、


「小春、良かったね! 立花と話すことが出来て」


と、穏やかな表情で声をかけると、小柄な女子生徒は、はにかんだように、小さくうなずいていたことが印象に残っている。


 クラスメートの女子生徒を見送ったあと、オレも、荷物をまとめて帰宅することにした。


 色々なことがあった放課後をどうにかやり過ごして家に戻ると、LANEでメッセージを送る。


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 放課後、色んなことがあったので、

 時間があれば、話しを聞いてほしい

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 メッセージには、すぐに既読の表示がつき、返信が来た。


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 金曜だから、いつでも大丈夫よん!

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 そんなワカねえの言葉に甘えて、夕飯を食べ終えたあと、すぐに二階の自室に戻ったオレは、スマホを手にして通話アプリを起動する。


 発信から十秒もかからず、通話相手は応答してくれた。


「お疲れちゃん! 宗重、そろそろ中間テストの時期なんじゃないの?」


 ―――そう! 月曜から試験なんだ。だけど……


「そっか〜。ってことは、アンタの周りでよほど重大なナニかがあったってコトなんだね?」


 勘の良いガキは、国家公認の『綴命ていめいの錬金術士』に嫌われるらしいが、察しの良い叔母は、こういうときに頼りになる。

 オレは、週のはじめにクラス委員の女子と喫茶店で話し合ったことや、次の日の放課後、そのクラス委員の女子と転校生に呼び出され修羅場をもくげきする羽目になったこと、四葉ちゃんへの相談主として自ら名乗り出たこと、その件について、ふたたび転校生と言い合いになったこと、一方でオレのことを励ましてくれるクラスメートがいたことなどを時系列に沿って、報告した。


 客観的に見れば、取り留めのないオレの話しを、ワカねえはあきることもなく聞いてくれる。


 ―――ふむり、ふむり。いや〜、青春だね〜。幼馴染ちゃんや転校生ちゃんだけじゃなく、ツンデレちゃんや銀髪の小動物系美少女に、美形の少年キャラとまで仲良くなるなんて、宗重、いつから、ラブコメ漫画の主人公になったの?


「いや、その見解には、大いに問題がある!」


 オレが、ツッコミを入れたあと、学生時代を懐かしむような、あるいは苦笑いをするような口調で語る相手に対して、


「ワカねえにとっては、子どもっぽい悩みかもしれないけどさ……」


と、つぶやくと、その言葉には答えることなく、彼女は、こんなことを指摘してきた。


 ―――で、宗重は、なにを悩んでるの? ここまで聞いた話しじゃ、これまでの行動で、アンタに責任があるのは、幼馴染ちゃんに了解を取らずにYourTuberに相談を持ちかけたことくらいじゃない? 


「まあ、そうかも知れないけど、自分の行動が、まさか、上坂部に迷惑をかけることになるなんて思わなかったから、それが、申し訳なくて……」


 ―――まあ、済んだことは悔やんでも仕方ないじゃん? みんなの幼馴染ちゃんに対する誤解は解けてるみたいだし、テストが終わったら、そのことは、あらためて謝っておけばイイんじゃない? もっとも、これ以上、彼女たちの三角関係に肩入れするつもりなら、それだけじゃ済まなくなるけど……


「やっぱり、そう……なのかな……」


 ―――そりゃ、そうよ。どんな思惑があるにしても、転校生ちゃんにとって、アンタや幼馴染ちゃんはただのおじゃま虫だし。それに、幼馴染ちゃんだって、アンタがこれからも協力するなんて言ったら、かえって恐縮するんじゃない? そもそも、彼女の恋愛感情は、彼女自身のモノなんだから、誰かが責任を感じる必要はない。つい、この間まで、まともに話したことのない相手に対して、責任を背負おうとしてたら、身が持たないよ。


「そっか……」


 ワカねえの言うとおり、オレは、今日までのできごとを深刻にとらえすぎなのだろうか? 自分には、学内の人間との適切な距離の取り方が、いまだに良くわからないのだ。


 ―――まあ、普段は人間関係に無関心を装っているようで、ホントは、ものすごく他人のことを気にしているのも、宗重の良いところでもあるけどね。それは、から変わってないと思うし……でも、幼馴染ちゃんのことが気になるなら、彼女の次の恋を応援してあげるもひとつの方法だよ。


「いつの話しをしてるんだよ!……でも、ワカねえが、そう言うならちょっと考えてみるかも……」


 オレが、そう答えると、ワカねえは、それまでの諭すような言葉遣いから、一転して柔らかい口調になる。


 ―――それにしても、幼馴染ってのも厄介な存在ね〜。ウチの友だちの二人といい、幼馴染の男女ってのは、周囲に無駄な軋轢あつれきを生むからな〜。


「えっ、ワカねえの周りでもナニかあったの?」


 オレの疑問に対して、叔母は、大学生時代からの友人の男女について語ってくれた。

 ワカねえによれば、彼女の所属していた大学のゼミには、幼い頃から家族ぐるみの付き合いがあった男女二名が居たという。二人は、お互いに恋愛感情を抱くことはなかったと公言し、実際に、それぞれ別の相手と無事に結婚したのだが……男性の家族と幼なじみの女性の距離が近すぎ、男性の結婚相手は、そのことを交際していた頃から気にかけていたようだ。そして、男性の結婚式の当日、育児のために式に参加できなかった女性は、ビデオレターで、結婚相手に対して、


から、は、あなたが彼を支えてあげてね」


というメッセージを送ったらしい。

 式に参列していた、ワカねえをはじめ、同期のゼミ生は、その内容にドン引きし、式が終わったあと、すぐに、ビデオレターに出演した彼女にビデオ通話をして、友人一同で説教をしたという。


 ―――まあ、こんな風に、いくら友情を強調しても、男女の近すぎる関係ってのは、周りの人間に余計な摩擦を生んだりするのよ。だから、私は、アンタから聞いたクラスメートの話しでも、ちょっと、転校生ちゃんに同情してるんだけどね。


 ワカねえは、そう言って、彼女の見解を締めくくった。

 ここまで話しを聞いてもらったことで気が楽になったので、彼女には感謝したいのだが……。


「転校生ちゃんに同情してる」


 という一言だけは、まだ、すんなりと受け入れられない、という思いがある。

 名和リッカに対しては、色々と言いたいことがあるのだ。


 あれ以上、話しがこじれることを避けるために本人には反論しなかったが、あいつはオレがプレイしている恋愛シミュレーションゲーム『ナマガミ』のヒロインをディスりやがったのだ!

 これは、オタクのはしくれとして、見過ごすことはできない。


 もっとも、それ以上に、あの転校生が、幼なじみ的存在やキャラクターを敵視しているようにみえることに、疑問を感じるのだが……。


 そんなことを頭の片隅でツラツラと考えていると、ワカねえとの会話は、別の話題に移っていった。

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