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第3章~彼の幼馴染みと彼女が修羅場すぎる~第6話

 二枚つづりになっているカードの一枚目には、こう記されていた。


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 立花クンへ


 一昨日の話しの続きがしたいので、

 放課後に時間を作ってもらえない?

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 続いて、二枚目のカードには、冗談なのか本気なのか、こんなメッセージが書かれている。


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 尚、このカードは自動的に消滅する

 なんてことは無いので・・・


 確認したらゴミ箱に捨てておいてね

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(いつの時代のスパイ・ドラマだよ……!?)


 と、心のなかでツッコミを入れつつも、彼女の指示どおり、イロイロノートのカードを画面右下のゴミ箱のアイコンに移動させてたあと、オレからも返信しておく。


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 わかった。

 放課後に教室で待機しておく

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 そんなメッセージを相手に送り、二列となりに座る名和リッカの方にチラリと目を向けると、偶然なのか、相手の思惑どおりなのかはわからないが、四〜五メートルほど離れた位置の女子生徒と視線がかち合い、彼女は、フフと不敵に笑ったような気がした。


 そうして、迎えた放課後のこと――――――。


 週末であることに加えて、月曜日からは定期テストが始まることから、いつも以上に教室から生徒が下校して行くのは早かった。


「それじゃ、また月曜日にね! ムネリン!」


 別れの挨拶をする塚口つかぐちまことに、「おう、また月曜にな」と返答し、数少ない話し相手の男子生徒を見送ると、教室内には、自分たちだけとなり、ようやく周囲に気を使う必要がなくなった、と判断したのか、名和リッカがオレの席にやって来る。


「昨日は、ずいぶんと暗い顔をしてたのに、今日は少し元気そうね? 中間テストの試験勉強は問題ナシってこと?」


「試験勉強については不安しかないが、昨日の放課後までに比べれば、いくらか気持ちが楽になっているってところだな。後ろの席の男子だけじゃなくて、こうして、オレのことを心配してくれる女子がいることもわかったし」


 澄ました顔でそう言うと、彼女は珍しく、一瞬だけ間の抜けたような表情を見せたあと、あきれたような顔つきで、諭すように語りかけてくる。


「思い上がっているところ申し訳ないんだけど、心配してもらっているなんて勘違いしてると、『信じていた女子に裏切られた!』って、根拠のない逆恨みをするようになっちゃうから、気をつけたほうが良いよ?」


 前日放課後のまこととの会話で、少し気持ちに余裕が生まれていたオレは、相手の挑発的な発言にも動揺することはなかった。


「そうだな、陰キャぼっちが勘違いしないように、せいぜい気をつけることにするよ。ところで、今日はどんな話しをするんだ? オレのことが心配で声をかけたって訳じゃないんだろ?」


 なるべく余裕があると見られるよう意識しながら、本題に入るようにうながそうと返答したのだが、名和リッカは、こちらの表情を気に留めるようすもなく言葉を返してくる。


「そうね……テスト期間に入る前に、あなたに確認しておきたいことがあったの。立花クン、あなたはどうして、四葉ちゃんに葉月と大成クンのことを相談しようとしたの? あの二人のことなんて、あなたには何の関係もないことでしょう?」


 なるほど、本題はそれか……。


 たしかに、一昨日、目の前の女子と話したときには、オレが四葉ちゃんに相談を持ちかけた動機について語ってはいなかった。


 また、オレの前で、現在の交際相手とは「告白よけに付き合っている」と発言したとは言え、上坂部葉月と久々知大成の仲を進展させようとするオレの行為は、名和リッカからすれば、目障りであることに間違いはないだろう。


「そうだな……たしかに、オレのしていることは、余計なお世話かも知れない。それだけじゃなく、上坂部本人にも迷惑をかけてしまいかねない結果になっているからな。その点は、反省してる。だけどな、オレにもって事情があるんだ」


 オレが、そう答えると、「約束、ってなんのこと……?」と、名和リッカは、怪訝な顔つきでつぶやく。

 そして、その答えは、オレ自身にとっても、これまでおぼろげで明確な理由を認識できていないことでもあった。


 ただ、前日の塚口まこととの会話で、幼い頃の記憶が思い返していたオレには、ハッキリと自覚できたことがある。


「迷惑をかけてしまう代わり……にはならないかも知れないが、アンタにだけは理由を伝えておくよ。オレが、上坂部たちに肩入れする理由は、保育園の頃に離れ離れになった同じクラスの女の子との約束があるからなんだ。『いつか、キミみたいに誰かを笑顔に出来るようになるから!』って約束をしたんからだ。陰キャのオレには、これまで、そんな機会はなかったけど……今回は、その機会が来たと感じたんだ」


 転校してきて、ひと月あまりの上に、つい先日までは、「なんて性格の悪いヤツだ……」と思っていた相手に、自分語りをするようになるとは思わなかったが、一昨日の会話やクラスメートの浜小春はまこはるを信じてみようと思ったのだ。


 ただ、オレの楽観的な気持ちとは異なり、


「小さい頃の約束……? あんなことで――――――」


と、つぶやいた名和リッカの表情は、とても険しいもののように見えた。

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