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第3章~彼の幼馴染みと彼女が修羅場すぎる~第1話

 二年生になってから、最初の定期テストまで残り4日となった平日の放課後―――。


「ねぇ、立花くん。あなたに話したいことがあるんだけど……ちょっと、葉月と一緒に残ってくれない? あのコの了解は、もう取ってるから」


 帰り支度をして、席を立とうとしたところに、意外な人物から声をかけられた。

 声の主は、上坂部葉月・復縁(?)計画の最大の障壁とも言える存在、名和リッカだった。


 先週末から、この転校生の動向を気にしながら会話をすることが多かったので、当の本人から、指名を受けたことに動揺を隠しきれない自分がいる。


「な、なんだよ? オレと上坂部に、なにか用があるのか?」


 自分でも、声が裏返っていたのではないかと感じるくらい、緊張しながら返答すると、フッと笑みを見せた彼女は、


「とつぜん話しかけられて動揺するところは相変わらずね……」


と、ポツリと一言もらしたあと、


「そんなに緊張しなくても大丈夫よ、ちょっと、があるだけだから」


と言って、教室に残っている上坂部とオレに向かって交互に視線を送る。


「確認したいことって、なにかなリッカ?」


 笑顔で取り繕いながら、クラスメートにたずねる上坂部に対して、名和リッカは意味深長な笑みを浮かべながら答えた。


「それは、三人だけになってから、ね……」


 オレたちの会話は、放課後の教室内の喧騒にまぎれて、他の生徒たちには聞こえないのだろうか、上坂部やオレの動揺に気づく生徒はおらず、教室内の廊下側で他の男子たちと談笑していた久々知大成は、こちらに向かって、屈託のない表情で声をかけてくる。


「じゃあ、今日は先に帰るから! また明日な!」


「「うん、また明日ね!」」


 二人の女子生徒の声がハモったあと、久々知たちは教室から出ていき、程なくして、教室内に残っているはオレたち三人だけになった。


(三日続けて、女子と放課後に語り合うなんて、オレもいよいよリア充の仲間入りだな……)


 緊張をまぎらわせようと、わざと自分の立場を皮肉るように考えを巡らせていると、女子生徒がオレに声をかける。


「どうしたの? 放課後に女子といっしょに教室に残るオレってリア充だな、とか非モテ男子っぽいことでも考えてるの?」


 そう言って、名和リッカがクスクスと笑う。


(オレの思考を勝手にトレースするんじゃねぇ!)


 苦虫を噛み潰したような表情で、相手に視線を向けると、彼女は、「ゴメンね図星だった?」と言いながら、悪びれるようすもなく、澄ました表情のままだ。


 そして、戸惑ったような顔の上坂部を見据え、名和リッカは宣言する。


「葉月、今日、立花くんといっしょに残ってもらったのは、あなた達ふたりに確認したいことがあるからなの」


 その一言に、オレは、固い唾を飲み込む。


「ねぇ、葉月……月曜日から、ずいぶんと雰囲気が変わったよね? ?」


 名和リッカの口から放たれた決定的なその言葉は、オレと上坂部の動揺を誘うのに、十分な威力を発揮した。

 二の句が継げず、お互いの顔を見合わせるオレとクラス委員の反応を確かめた転校生は、ことの成り行きをお見通しだと言わんばかりに続けて告げる。


「そのようすだと、やっぱり、立花くんも絡んでいるのね」


 そうして、しばらく、沈黙が続いたあと、意を決したように上坂部葉月が口を開いた。


「立花くんは関係ないよ! これは、私が決めたことだから! リッカの言うように、私は大成のことを諦めたくない! 今さら遅いって思うかも知れないけど、やっぱり、いまでも、大成のことが好きだから!」


 そんなクラス委員の意志表明に、久々知大成の現在の交際相手である転校生は、「そう……」と、つぶやいたあと、またも不敵な笑みを浮かべ、


「きちんと、あなたの気持ちを聞くことができてよかったわ……そう言うことなら――――――」


と、少し間を取ったあと、こう告げた。


「私から、大成を奪ってみなさい!」


 その一言は、第三者の自分でさえも、至近距離に雷が落ちたのかと感じられるくらい衝撃的な一言だった。

 二人の間には、バチバチと見えない火花が散る。


「リッカ、その言葉は宣戦布告と受け取って良いんだね?」


 上坂部が問い返すと、彼女が見据える相手は、鷹揚という言葉がピッタリと当てはまるように、ゆったりと余裕を見せる表情で返答する。


「えぇ、そう取ってもらって、構わない」


「そう……リッカの気持ちはわかった」


 静かに言葉を返すクラス委員の表情は、穏やかながら、その瞳は、明らかに燃えるような熱が宿っていた。

 そう感じたのは、オレだけじゃなかったようで、上坂部と対峙する名和リッカは、その情熱を受け止めるように、ふたたびフッと笑みをもらす。


 そうして、「いい表情ね、葉月」と、つぶやいたあと、転校生は、教室後方の掲示板を差して、一言添える。


「彼の気を引こうとする努力は認めるけど、こういうことにも気を配った方が良いんじゃない?」


 彼女が指差した先には、


 ・知ってください その香り 困っている人もいます


というキャッチコピーや険しい顔つきをするキャラクターとともに、


「柔軟剤などの香りで頭痛や吐き気がするという相談があります。自分にとって快適な香りでも、困っている人もいることをご理解ください。」


「香りの感じ方には個人差があります。」


「香り付き製品の使用にあたっては、周囲の方にもご配慮ください。」


と、文言が添えられていて、いわゆる香害こうがいを啓発するポスターが貼られていた。


 そのポスターのキャッチコピーが目に入ったのだろう、これまで、平静さを保っていたクラス委員の頬はみるみる紅潮していく。


 そして、


「た、大成は、『なんだか、いい香りだな!』って言ってくれたもん!」


という台詞を残して、通学カバンを手にとり、走って教室を出ていく。


 彼女が去ったあとには、ジャスミンとバニラを混ぜ合わせたような濃厚な香りが残っていた。

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