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幕間〜泣き虫なケモノのおはなし〜その1

 むかしむかし、とある山の中に、白くて毛むくじゃらのケモノが住んでいました。

 そのケモノは、絵本に出てくる悪いケモノとは違って、とても大人しい性格で、人間の言葉を理解し、話すことが出来ました。


 だけど、やっぱり、目は大きくギョロギョロしていて、頭には曲がったツノもついています。

 それでは、やっぱり、油断のできない怪しいケモノだと人々は思うでしょう。


 ところが、そうではありません。

 むしろ、優しい素直な気持ちを持ったケモノです。


 ケモノは、まだ若かったので、とても強い力を持っていました。

 けれども、仲間のケモノをいじめたことはありません。


 心は優しいけれど、友だちの少ないケモノは、ずっと人間と仲良くなりたいと思っていました。


 そこで、自分の家の前に、こんな看板を立てました。


 心のやさしいケモノの家です。

 どなたでもお越しください。

 おいしいお菓子がありますよ。

 あたたかいお茶もありますよ。


 次の日、一人の村人が、ケモノの家の前で立ち止まり、看板に目をとめました。


「おや、こんなところに看板が……」


 村人は、さっそく看板の字を読んでみて、とても不思議そうに首をひねりました。


「この看板は、なんだろう?」


 なんども首をひねった村人は、そのまま、山の細い道を急いで降りて行きました。


 また、次の日、二人の狩人が家の前をとおり、看板に目をとめました。

 狩人は、お互い不思議そうな顔で、話し合いました。


「おかしな看板だな」


「どなたでもお越しください、だって」


「でも、なんだかひっそりしているな」


「なんだか、薄気味が悪いなぁ」


「さては、オレたちをだまして食ってしまうつもりじゃないか?」


「なるほどな。あぶない、あぶない」


 家の中から、ケモノはだまって二人の話しを聞いていました。


 ケモノは、とても悲しみ、信用してもらえないことを悔しがり、終いには腹を立て、せっかく立てた看板を引き抜いて壊してしまい、ワンワン、オンオンと大声で泣きました。

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