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第13話 モヤモヤ

(ああ、やっぱり気になる……!)


 一度は頭の隅に押し込んだものの、やはり性格上一度気になったものはどうしても「気にしない」ようにすることができず、帰ってからもモヤモヤとした気分が抜けなかった。自室のベッドに勢いよくダイブし、ゴロゴロとしながらスーさんとの会話を思いだす。


 やっぱりスーさんは、私が指摘しようとした事項について意図的に話を逸らした感じがする。そういえばマツゲさんが言っていた。スーさんは上と民衆の板挟みになっていると。


 きっと私が気づいたことは、仕事場の人間の前で話すのが躊躇われる話題だったのだ。


「ううう、気になってしょうがない……こういう時はゲーム! ってないんだよねえ〜」


 門番として働き始めて、ある程度懐が潤ってから、この国にも似たような娯楽がないかと探してみたが、残念ながらなかった。結果部屋に引き篭もることが減っていて、強制的に外の世界に目を引かれるようになってきている。


「それ自体はいいことなのかもしれないけど。うううう、落ち着かない! だめだ、もう。これは本人にもう一度突撃するしかない!」


 私はベッドに腰をかけ、思考をめぐらせ始める。

 仕事中に聞けば、またはぐらかされる可能性がある。誠実なスーさんのことならば、仕事関係の人間がいないところで、真正面からぶつかっていけば、答えてくれるような気がする。


(でも、静かに話ができて、二人きりになれるところってどこよ?)


 社会経験が少なく、おまけにこの世界の風俗にも明るくない私には思い当たる場所がない。


(レストラン……は、周りに人いるし。ロッテンベルグ門の近くなら誰に聞かれているかわかんないし。門番長室も人の出入りが結構あるし)


 不本意だが、これは人の手を借りるしかない。

 そう結論づけて、私はどうにかして眠りについたのだった。


 ◇◇◇



「門番長と二人きりになれる場所を知りたいぃ?」


 翌朝。私は出勤してきたマツゲさんを捕まえ、門に向かう道すがら相談を持ちかけていた。


「うーわ、やっぱりセイラちゃん、目覚めちゃった感じ? ついに門番長に告白?」


「違います」


 真面目な顔でそう言えば、マツゲさんはつまらなそうな顔をする。本当はもっとしっかりした大人に相談したかったのだが、コミュ障の私に知り合いは少ない。マツゲさんと食堂のおばちゃんくらい。そして後者は話した瞬間歪曲して受け取られ、色々なところに情報が撒き散らされる可能性があったので却下した。


「ええ、じゃあどうして」


「どうしても聞きたいことがあって。でも公の場だとはぐらかされそうなもので」


「仕事関係ってことね」


 マツゲさんは腕を組み、しばし考えたあと、ふ、と頬を緩めて口を開いた。


「あるある。食事もできつつ、個人的な話もできる場所。日程が決まったら予約は僕がしておくから。門番長をうまく誘えたら教えて」


 私に向けてウインクをすると、何かいいことでもあったかのようにマツゲさんは楽しげに持ち場に向かっていく。


「……信用して大丈夫、だよね?」


 不安になりつつも、今は彼に頼るしかない。


「遅い! たらたら歩いてるんじゃない!」


 セルリアン塔からから出て、見張り台が見える位置にきたところで、スーさんの怒号が飛んできて我にかえる。


「はい、今行きます! 走ります!」


 話す場所の目処が立ったことで、少しだけスッキリした。


(さあ、お仕事を頑張りますかね)


 朝日が眩しい。ロッテンベルグ門の開門を待つ人々の列は、今日も長く長く伸びていた。


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