「あ、今の人……」
遠慮がちに、目つきの悪い上長に視線を向ける。
「どっちだ」
落ち着きのない私の様子に、彼の綺麗な顔が険しくなった。
「えーと、あの、両方です」
「そこの二人、止まれ」
「えっ! いや、ほら、通行証はこの通り」
上長が再び鋭い目をこちらに向ける。これは、「説明せよ」という意味だ。
「そちらの茶色い髪の方は……指名手配番号265番、アルス・カタルシア、出身地はカルカタ。歳は35、強盗の罪で登録されています。もう一方の方も指名手配犯で、番号は301番、サミー・エスタス、出身地はサンダルエッジ、歳は27。こちらも強盗の罪で登録されています。備考欄に、最近は集団で活動しているとの表記がありました。荷物に仲間を紛れ込ませている場合があるので気をつけよと……」
「荷物をあらためろ!」
私が言い切る前に、大柄な彼は衛兵に指示を出した。
この人はせっかちなので、だいたい最後まで人の話を聞いてはくれない。
「セイラ、もう少し簡潔にならんのか。年齢とか出身地とか、そこまで必要ない」
形の良い金色の眉を顰めながら、うんざりとした表情でそう言われ、私は小さくなった。威圧的な態度はやめてほしい。
彼の青い制服は綺麗にシワが伸ばされていて、銀糸の刺繍が今日も光っている。同じ制服でも、ヨレヨレの私のものとは大違いだ。王都の入り口の顔である「門番」を示すこの制服が、ただでさえ顔の怖い彼の圧を増長させている感じがする。
「は……はい……すみません。スーさんの言う通りにやろうとはしてるんですけど」
「あと、これも何度も言っていることだが、そのスーさんって呼び名、なんとかならんのか。俺にはスティーヴィーという名前があるんだが」
「長い名前、覚えるの苦手なんで。何かしらの登録番号を教えてくだされば、セットで覚えられると思うんですけど」
「もういい」
スーさんはぷい、と私から顔を背け、「次!」と大きな声で最前列の方に向けて手招きをしている。私も前に向き直り、怪しい人物がいないか目をこらす。
(あっ)
いた。二番列、女性、確か指名手配の登録番号は……。
慌ててスーさんの袖を引くと、彼は再び不機嫌そうな緑の瞳で私を見た。
「あの! あの、二番列の!」
「そこの女、とまれ!」
それだけ言うと、私の顔を覗き込み、スーさんは憎らしげに言う。
「お前は首都で一番大きな門に勤める門番だろうが。子どもが親の袖引くみたいなやり方で、異変を知らせるのはやめろ」
「す、すんません……」
おずおずと体を丸める私の頭上からは、またもスーさんのため息が落ちてきた。
––––
運命の歯車に巻き込まれ、私は今、異世界の王国で「門の番人」をしています。