「レベルを吸収したり返したりするには、いちいちこういうことをしないといけないの?」
「はい。お師匠さまがそのようにおつくりになられた呪術ですので」
あの師匠にしてこの弟子ありというか、シキルについてもなかなかの性豪だった。
ただ、イヴリースと比べればシキルはまだ行為に対して受け身なほうだったので、ペースだけで言えば僕のほうが主導的な立場だったのではないかと思う。
どちらかというと問題なのは彼女が折りにつけて飲ませてくる血液のほうで、舌先に触れるだけで媚薬のように頭を蕩かせた上で無理やり精力を高めてくるその効力には、本当に命を削られる思いだった。
一度や二度ならまだ純粋に愉しめたのかもしれないが、あいにくとその程度で満足してくれるほどシキルも生優しい相手ではない。きっとこの師弟は死の呪いとは無関係に僕を殺そうとしている。
「この呪いって、イヴリースが作ったの?」
僕が訊くと、シキルは僕の胸に顔を埋めるようにしながらコクンと頷いた。
「はい。お師匠さまはこの世のありとあらゆる術に精通しておられる方なので、自ら望んだ術を作りだすことも可能なのだとか」
「なんでわざわざそんな術にしたんだろ……」
「そうですね……肉体的呪術的な繋がりを持つ上で最も確実であることと、何より勇者さまの気質にあっておられるからかと」
「それを言われると言い返せないけど……」
とはいえ、他者のレベルを奪い取る呪いなんてものを自作して、さらにそれを弟子に使えるようにしてしまうなんて、常識で考えればとんでもない話ではある。
そこまで呪術に詳しいなら呪いに苦しんでいるという国王さまを助けることだって容易な気もするが、どうしてこんなところで引きこもっているのだろう。
予言などというまわりくどい方法でアリスをこの地に導いてみたり、いざやってきてみればそこで彼女の役目は終わりだと言ってみたり、その狙いはいまいち判然としない。
「それより、レベルを確認いたしましょう。ちゃんと戻っていますか?」
だが、思案にくれる僕のことなど知った様子もなく、シキルが僕の胸の上に顎を乗せながら言ってくる。
彼女の顔の前には自身のステータスボードが浮かび上がっていて、そこには彼女の『イストリエ』という表向きの名と付呪師であることを示す《加護》の刻印、それからすでに『1』となったレベルが表示されていた。
僕もステータスボードを表示してみると——なんとレベルが『86』に上昇している。
「なんかめっちゃ上がってるけど……」
「よいことではありませんか。わたくしは人間のレベルについて詳しく存じ上げませんが、初めて愛を囁き合ったあの夜ですら勇者さまのレベルは《加護》を授かった者たちの中でも群を抜いていると聞き及んでおりしまたし」
「というか、シキルは悪魔っていうか、魔物なんだよね? 魔物でもレベルとかってあるの?」
「いいえ。わたしはレベルという概念をこの身に宿すため、人に扮して《加護》を授かったに過ぎません。どうやら人のつくりし『神託』なるシステムは人間も魔物もその区別をしないようですので」
「……どういうこと?」
「ふふっ……どういうことでしょうね?」
シキルが悪戯っぽく笑い、そのまま僕の唇にキスをしてくる。その瞬間、頭の芯が痺れるような感覚がして、僕は反射的に顔を離した。目の前では蠱惑的な笑みを浮かべたシキルはペロリと舌を見せており、その舌先にじんわりと血が滲んでいる。
「さあ、無事にレベルの譲渡は相成りました。ここから先は、呪いなど関係のない愛ゆえの営みをいたしましょう」
甘く囁きながら僕の頭を優しく抱き寄せ、すっかり脳を溶かされた僕の唇に改めて愛おしげにキスをする。
「ああ、ああ、勇者さま……これにてわたくしの役目は終わりますれど、せめて今だけは心ゆくまでわたくしを愛してくださいませ……」