「んんっ……くぅッ……」
鼻から甘い吐息を漏らしながら、ぐったりとミュリエルが僕の上に崩れ落ちてくる。
僕はその汗ばんだ体を優しく抱きとめ、首筋から顎にかけてゆっくりと舌を這わせながら、顔を上げてきたミュリエルの唇にそっとキスをする。
「ちょっと休憩……」
「僕はそろそろ終わりでもいいけど」
「ダメよ。あなた、こんなときでもないとなかなか顔を見せてくれないんだから」
ミュリエルがそう言いながらまた深くキスをしてきて、僕らはしばらく唾液の交換に夢中になる。
あれから僕たちはミュリエルの仕事が終わるのを待って再度合流し、その足で彼女の家に向かうことになった。
ミュリエルの家は王都の一等地にあるとんでもなくデカいお屋敷で、何でも研究所の知り合いから買い手のつかない物件を押しつけられたとのことである。
一人で住むにはあまりに広すぎる気もするが、家賃の半分は経費で落とせるようで、使用人もついているからそこまで悪い買いものではなかったというのがミュリエルの弁だ。
屋敷のほとんどの部屋は書斎になっているそうで、普段はあまり読まない書物をコレクションするための倉庫として使われている側面も強いらしい。
何にせよ、ミュリエルの家に招待された僕たちは、さっそく専属の料理人が用意してくれた美味しい料理でもてなされた。
ファリンなどは生まれて初めて見る豪華な料理と高級な酒の数々に舌鼓を打っており、欲望の赴くままに喰らい尽くしてあっという間にベッドで爆睡しはじめてしまった次第である。
そして、そうなれば、残された僕たちがやるべきことなどは自然と定まってくる。
「あなた、前からすごかったけど、今日はいつにも増してすごいわ。何度か気を失いそうになったもの」
ミュリエルは僕の上になったまま、未だその奥底に情念を秘めた瞳でじっと僕の顔を見つめてくる。
「いつだって天国に連れていけるよう努力はしてるよ」
「このままじゃ、本当に死んじゃうかも。でも、これだけいい思いをしながら死ねるなら、それはそれでありかしらね」
「そんなに褒められると、逆に恐縮しちゃうな」
「あら、お世辞じゃないわよ。久しぶりだからそう感じるのかもしれないけど、本当にレベルが下がってるのか疑わしいくらい」
「こういうのとレベルはさすがに関係ないんじゃない?」
「そうなんだけどね。でも、初めてのときからずっと気持ちよかったし、あなたにかぎってはレベルが関係してるんじゃないかって少し疑ってたの。周りから聞かされてた話とは随分違ったんだもの」
ミュリエルとこういう関係になったのはもう何年も前の話だが、僕たちがそうなったとき、彼女はまだ未経験だった。当時はまだ世界中を渡り歩いてる旅の最中で、ミュリエルとはその際に行動を共にしていた時期があるのだ。
「今のレベル、見てみる? 笑っちゃうよ」
何の気なしに、僕はステータスボードを表示する。
最後にミュリエルと会ったのは三ヶ月ほど前だが、そのときのレベルは『62』だった。それが今や——。
「……あれ?」
「ほんとだわ。50も下がってる」
おかしい。レベルが『12』に上がっている。
以前にファリンと初めて寝たときも知らぬ間にレベルが上がっていたが、これはどういうことだろう。まさか本当に女を抱くことでレベルが上がる能力でも得てしまったのか。
「……あら? この刻印……」
ふと、ミュリエルの表情が変わる。
その目が僕の《加護》を示す刻印に釘づけになっていた。
「どういうこと? これ、勇者の刻印じゃないわ」
「あ、やっぱり?」
「やっぱりって……前から変化してたってこと?」
「うん。正確にいつからかは分からないけど、気づいたら微妙に変わってて」
「本当にあなたの身にはいろいろ起こるわね。一度、神託の神殿で見てもらったほうがいいんじゃない?」
「イヤだよ。呪いの刻印とかで異端者扱いでもされたら怖いし」
「うーん、さすがにそんなことはないと思うけど……まあ、絶対にないとは言い切れないわね。最近は神殿の運営陣にも色々と変な噂が増えてきてるし」
「触らぬ神に祟りなしだよ」
僕が言うと、ミュリエルは呆れたように小さく溜息をついた。
「解呪ができそうかは、明日ちゃんと調べてみるわ。刻印についてもね。あとで少し血を分けてちょうだい。それから、出なくなる前にこっちのほうも」
そう言いながら、ミュリエルが僕の下半身にその冷たい手を忍ばせてくる。
「そろそろ弾切れだよ」
「あら、本当? 嘘を言ってないか、まずはこっちで試し撃ちをしてもらおうかしら」
どうやらそろそろ休憩の時間は終わりらしい。
ミュリエルは蠱惑的に笑ってそっと僕の唇に口づけをすると、そのままゆっくりとそれに手を添えながら腰を持ち上げた。