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第137話 京都攻略編⑭~安倍一族~

 俺はギルド長と安倍一族の方々を京都から逃がすために車を運転している。

 今日の夕方、安倍一族全員が【神託】を受けた。


 内容は、【安倍一族は京都の中心であるギルドへ集結せよ。しなければ京都は崩壊する】というものだ。


 安倍の血が流れる者全員に神託が下されたため、特に血の濃い本家の方々は1人だけを残して京都から【逃げる】という判断をした。


 そんなことを思い出していたら、後ろからギルド長が安倍家の当主へごまをするような話が聞こえてきた。


「皆様は安倍家の中でも特別な方々、今代の巫女以外が京都を離れるというのは流石の判断です」

「私たちはなんとしても生き残らなければならない……」

「そうですとも!!」


 聞いていて反吐が出るような話をしていた。

 俺はハンドルを握りしめて、ギルドに残った分家の方々や巫女様のことを思ってしまう。


(巫女様はまだ12歳だぞ!? どうしてこの人たちは簡単に切り捨てるようなことができるんだ!?)


 俺には車の中で口を開く権利がない。

 俺の怒りを胸に秘めたまま車を運転する。

 バックミラーに映る当主が、中年の男性へ笑いかけた。


「お前がめかけに子供を作らせたおかげで、一族は生き延びられた。あの子のことは忘れなさい」

あかりは育ててやった恩を感じているのか、自ら行きましたよ」


 巫女様の父親と思われる中年の男性も当主へ上機嫌で話をしている。


 車に乗っている10人弱の本家の方々もそれに同意するような声を出していた。

 特にその父親の子供である男の子は、大きな声ではしゃいでいた。


「あいつは特に【力】が強いからって天狗になっていたから居なくなって清々するよ!」

「最近は人1人も満足に探してくれませんからね!」


 ギルド長が得意げな顔をして男の子の発言に賛同している。

 そんな時、車の無線へ荒々しい声で連絡が入ってきた。


「現在モンスターが街を侵攻中!! 現在はきっ!?」


 爆音と共に無線が途切れてしまう。

 俺はなにが起こったのか心配になる。


 確認をするために、車を路肩へ停車させてから無線を手に取る。

 ギルド長が運転席の俺へ叱責をしてきた。


「何をやっているんだ!! 早く駅へ向かわないか!!」

「ギルド長! 街で何か起こっているようです!!」

「なんだと……」


 俺が無線を手にしていたら、当主が体を震わせ始めた。

 他の本家の方々が当主を心配するように身を寄せている。

 その様子を見ていたら、無線での連絡を忘れてしまう。


「終わりだ……終わりがやってきている……」


 当主の言葉を聞いたギルド長が顔を赤くして俺へ声を張る。


「無線を止めて、早く車を出せ!!」

「わかりました!」


 車を急発進させて、京都駅へ向かい始めた。

 途中、信号で停車しようとしたら、車に乗っている人が一斉に声を出してきた。


「「進め!!」」


 命令通りに信号を無視して、交差点に進入してしまった。

 交差点で走り始めていた車などからクラクションを鳴らされてしまい、心の中で謝りながらアクセルを踏む。


「灰色のマイクロバスの運転手! すぐに停車しなさい!!」


 何度か信号を無視していたら、後ろからパトカーに呼び止められ始めてしまう。

 俺は観念して路肩へ車を寄せようとしたら、後ろからギルド長がハンドルを掴んできた。


「止まるとしても京都駅まで走れ。そこで私たちを降ろしてからお前だけ捕まれ」

「は!?」


 ギルド長の目は血走っており、正気を失っているように思えた。

 ここでギルド長に逆らったら何をされるかわからないため、俺はアクセルを踏み続ける判断をする。


 制止を振り切りながら走り続けると、パトカーの台数が増えていく。

 車の中は人の怒号が入り混じり、騒音でまともに話が聞こえない。


 しかし、京都駅が見えてきたら、パトカーのサイレンが消えた。

 ギルド長と中年の男性が車の後ろを見ながら歓喜の声を上げる。


「警察がいなくなりましたね!!」

「神が私たちへ逃げろと助けてくれんだ!!」


 京都駅の前へ着くと、全員がすぐに出ようと準備を始める。

 ギルド長も立ち上がって、安心させるように声をかけようとしていた。


「皆様、もうにげられまひゅ!?」


 バックミラーで後ろの様子をうかがっていたら、車の天井から何かが突き刺さる。

 ギルド長の真上から板のようなものが車の天井から現れていた。


 天井から刺されたものが引き抜かれたら、ギルド長の体が縦半分に割られている。

 次の瞬間、車全体が震えるような振動を感じた。


「す、すぐに逃げろ!! ひっ!?」


 当主が扉を見たまま血の気が引いていき、俺も顔を向けたら息を飲んだ。

 黒いドラゴンが扉の前に立っている。


(ドラゴンに乗るドラゴン!!??)


 俺がそれを見た瞬間、何かが振り払われて、車の窓が割れる音と共に車の天井部分がなくなった。


 車の中からドラゴンの姿が全部見えるようになる。

 その姿は絶望を体現したかのように、圧倒的な存在感を与えてくる。


 中年の男性が黒いドラゴンに向かって、手を向けていた。


「神よ我らを守りたまえ! 我々は京都の守護を司るいちぞぎゅ!!??」


 その声が聞き入られることはなく、男性が最後まで言い終わる前に切り捨てられ、その後も俺以外の阿倍家の人が切り殺された。


 その後も、安倍家の一族は全員とどめを刺すように何度も切られ、確実に殺すまで切り刻まれている。


 俺は運転席で身を隠しながら震え、剣を持ったドラゴンが俺へ剣を向けたが、攻撃されることはなかった。


 そのドラゴンは剣を掲げて、京都の街へ向かって走り去ってしまう。


 まだかろうじて通じていた無線から、京都の街が大量のモンスターに襲撃を受けて、街の機能が停止していると連絡が流れてきた。

 俺は目の前の惨劇を伝えるために無線を手に取る。


「こちら安倍家護送車、俺以外の乗員……安倍家の方々はモンスターに殺されました……」


 何度も内容を確認するような無線が飛んできたが、目の前で起こったことを繰り返し口にする。


 俺の前方では剣を持った黒いドラゴンが建物を破壊していた。


(ここが地獄か……)

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