母親がこちらを一目見て、あきれるようにため息をつく。
「ない……かな?」
「ないもなにも、ここに結果があるじゃない」
母親は立ち上がって、戸棚から青い封筒を取り出すとこちらへ渡してくる。
「入学ガイダンスの時に提出するから、失くさないでね」
「ありがとう、わかったよ」
俺が封筒を受け取る時に、母親は注意をするように言ってきてからまた椅子に座る。
【静岡第一地区中央病院 佐藤一也 様】
受け取った封筒を見ると、しっかりと俺の名前が書いてあった。
中身を見ると1枚の紙が入っている。
取り出すと、血液検査で行ったスキルの結果用紙だった。
◆
佐藤 一也 様
スキル一覧
体力回復力向上Lv2
剣熟練度Lv2
銃熟練度Lv1
以上
◆
(なんだこれは……これが今の俺の持っているスキル?)
こんなに低いものなのかと落胆しながら検査結果を見ていたら、父親がこちらへ近づいてきた。
「VRの設定終わったぞ」
「ありがとう……」
父親は俺の反応が予想外だったのか、驚いた様子でこちらをみている。
俺が再び結果を見始めると、横から父親が俺の持っている用紙を覗き込んできた。
「特訓の成果がよく出ている結果だな!」
「特訓?」
「父さんと一緒に剣の稽古をしたり、銃を撃ちに行ったからな。それに毎日走っていたから、体力回復力向上も上がっているな」
父親が誇らしげに言っているのをみて、これが俺の年齢で持っているスキルとしては決して低いものではないと思われる。
しかし、ゲームに置き換えると、スキルポイント5しかない。
レベルが1上がると1スキルポイントが付与されるので、俺のレベルは5ということになってしまう。
俺が黙っていると、父親がさらに話を続ける。
「中学受験のときも落ちるとは思っていなかったから、これからが楽しみだ!」
笑顔で俺にそう言うと、用紙を取られて封筒に戻された。
俺はまだ見て確認したかったのに、父親はゲームを見ながら俺へ笑いかけてくる。
「それよりも、設定が終わったからゲームをしてみよう」
「今日は遅いからもういいや……」
「なら、父さんが使うからな」
父親がVR装置へ喜んで向かっていくのを見送る。
スキルの結果に落胆しながら、俺は両親へおやすみと言ってから部屋に戻った。
ベッドにうつ伏せると、むなしさが心を占めてくる。
(モンスターがいてダンジョンもあって、スキルや魔法も使えるのに自分はこんなにも弱い……)
ゲームではスキル画面の矢印をタップするだけで上がるスキルも、現実では自由に上がらない。
そんなことを考えていると、紙に書いてあったスキルを思い出して、あることに気が付いた。
(剣熟練度と銃熟練度が混在している!?)
スキル構成がおかしいことに気が付いて、俺は身を起こして考え始めた。
(剣熟練度は剣士系の職業が選択できるスキルで、銃熟練度は剣士系では取得できないはずだ)
そのことに気が付くと、新たに調べたいことができたため、スマホを手に取った。
俺の考えが合っていたとすれば、この世界はとてつもなく魅力のある世界に見えてくる。
俺は一筋の希望を見いだし、思い通りであってくれと願いながら検索を行う。
検索中に俺は自分の考えに確信を持つことができた。
明日から行動するために準備をしてから寝ることにする。
これから生きていくための活力を見つけて、興奮してなかなか寝ることができなかった。