「ほれ見ろ。俺からの着信とメールいっぱいだろ?」
「悪かった。出来るだけ持ち歩くようにする」
「出来るだけかよ」
ロケットベーカリーの裏口、つまり我が家の玄関側に回るのは少し面倒だ。商店街の裏道に出るのにほんのちょっぴり遠回りだから。
だから店の入り口から入って厨房を通り抜け、バックヤードでガラケーを回収したところ。
十ほどの着信と、『いまどこだ?』って内容のメールがいくつもあった。確かに私が悪かった。すまん。
裏から出て、外階段を登ってようやく我が家だ。
ふぅ。なんか昨夜から色々あって疲れた。とにかく頭が疲れた。
「お疲れゲンちゃん」
うちの冷蔵庫からビールを二本持ってきて喜多も座る。またコンビニで六缶買おうとしたのを
「いや、喜多の方が疲れただろう。悪いな、手間かけさせる」
「へっ、ホントだぜ」
けれど、まぁ、そうなっちまったからにはそれもしょうがない。
ならば私はパンを焼くだけだ。私にはもうそれしか能がない。
「それで?
「そう、それだぜ」
喜多はそう言って、ビールを開けずに卓袱台に置いた。酔うとマズいと考えたからだろう。
しかし私は開ける。
喜多ほど弱くはないし、なんだか飲まずにはいられない気分なんだ。パシッと開けて喉を鳴らせば喜多がむくれた。
「ひでーなゲンちゃん」
「酷くない。続けてくれ」
ちぇっ、とひとつ舌打ちを挟んで喜多が話し始めた。
「繋がった、ってのの最初のピースは隣県のヤクザ。さらに
まぁそれはそうなんだろう。どう繋がるかは私には分からないが。
「まずゲンちゃんが会った
喜多の話じゃ双子って訳じゃあないらしいが、しかしやっぱり血縁だったらしい。
「美横
「あぁ、覚えてる」
「それが美横の弟、
――ちらちらとちゃぶ台の上の缶ビールに視線をやる喜多の説明はそこから少しとっちらかった。
簡単にまとめると、熊一のフリした熊二にヤクザは脅されてたんだと。
どう嗅ぎつけたのか、熊二は兄貴の仲間がヤクザに殺された事と、当時兄貴たちが請け負ってた仕事をネタに
「それが今夜予定していた殺しの相手、ってことか」
「そうなる。危うくロクでもない殺しを
ふーぅ、と額の汗を拭うフリをした喜多がビールに手を伸ばしてひと口飲みやがった。まぁ良い、ひと口だけだぞ。
「その女がやったっていう結婚詐欺がはっきりしなかった、ってのがもう一つのピース」
「なんだ、それもでっち上げか」
「水商売の女でよ。調べた限りじゃ確かにそれっぽい事はあったんだがな」
もの欲しそうにチラリとビールに目をやったものの、なんとか堪えて喜多が続ける。
「んで最後のピースはアイツだ」
「どいつだ?」
勿体つけるな。私にはひとっつも見当がついていないんだ。
「カラオケデブだ」
「カラオケ……デブ……? って、梅雨頃の?」
「そうだ。ゲンちゃんの最後の殺しのアイツだ」
んん? アイツが? 絡むのか?
「熊二の探してた知り合い、どうやらそれがカラオケデブらしい」