「なんだよありゃあ。ゲンゾウ、迷惑メール送ってくんなよ」
時刻は十七時を少し回ったところ。本日も無事完売だ。
閉店作業を進めていたところに、野々花さんと連れ立って戻ってきた喜多の第一声がそれだ。
迷惑メールとは失礼な。私はちゃんと伝わる様に送ったぞ。
それを無視して視線で喜多を制し、野々花さんへ話題を振る。
「喜多のやつ図書館で寝てなかった?」
「寝てましたよ。ヨダレ垂らして」
「ちょ、バカ、野々、黙ってりゃ分かんねえっての」
ちゃんとゾ□リは
「カオルさんはいま着替えてるよ。もう出てくると思――」
「おかえり野々花。ちゃんと勉強できた?」
私服姿に着替えたカオルさんが出てきた。カオルさんはいつも通りにズボン――最近はパンツって言うのかな――、たまにはスカート姿も見てみたいが、スラっとしたカオルさんにはズボンも良く似合ってる。
「ちゃんと出来たよ。さ、ら、に――コレ借りちゃった」
ごそごそと鞄から取り出したのはハードカバーの本。
「あ、良い本だよ、それ。
野々花さんの手には『パンの科学』という本。確か私も……野々花さんと同じ小四くらいで読んだんだったかな。はっきり言って小学生には難しいけど、雰囲気だけで読んだ私にも良い本だった。
「読書感想文もこれでバッチリ」
抜け目ない。さすがカオルさんの娘だけある。
すでに私服姿だが、カオルさんに二つコーヒーを淹れて貰ってから二人を見送った。
イートインに喜多と腰掛け、あの
「――ちょっと待てゲンちゃん」
「おう、待つ」
美横に似た男が来店した件。男が言った内容をだいたい洗いざらい喜多に伝えると、喜多が目蓋の裏を見詰めるようにして思案顔。
「いくつか確認したい」
「おう」
「まず、美横本人ではなかったんだな?」
「間違いない」
頷く私に喜多も頷く。
喜多に渡された美横の写真は燃やして捨てたが、ちゃんと自慢の指でなぞって記憶したからな。
「知り合いに会いに……しばらくこの街にいる、っつったんだな?」
「あぁ」
「
「そうだ」
喜多は上の空で少しコーヒーを啜って思いの
数分間、私がコーヒーを啜る音だけが店内に響く。
喜多はゆっくりと、捻っていた首を元に戻して言った。
「よし……なんとなく……繋がってきたぞ」
「いけそうか?」
「まだ分かんねえけどな」
ちらりと壁の時計を見遣った喜多が続ける。
「木曜の五時半か……今週の残りはこっちには来れそうにない。平気かゲンちゃん?」
「あぁ、こっちは平気だ。そっちを任せる」
普段の――表の顔の喜多は
私にはどことどこが繋がったのかさっぱりだが、喜多に任せておくしかないし、喜多に任せておくのが一番なのは間違いない。
「ゲンゾウ、日曜深夜の件も一旦保留だ」
「……ん? そこも繋がるのか?」
「可能性の話だが、充分にあり得る。メールするからガラケーちゃんとチェックしろよ」
「おう、分かった」
依頼元は隣県のヤクザだったな。
そうか、ははーん…………
……冗談だ、私にはさっぱり分からん。