「お疲れさま野々花さん。勉強頑張って」
「はい! 行ってきます!」
「すみませんが野々のことよろしくお願いします」
「良いって良いって、俺も図書館大好きだからよ!」
まだ少し眠そうな目つきの喜多が元気に言い放つ。空元気なのは一目瞭然だな。
「喜多」
「なんだゲンちゃ――げふんっ! げふっ! ごほんうほうほ……わりぃ、
もううほうほは諦めたからゲンゾウでもゲンちゃんでもどっちでも良いんだがな。
「悪いが頼む。ウトウトしてゾ□リによだれ垂らすんじゃねぇぞ」
「垂らさねえよーだ!」
木曜、約束通りに顔を出した眠そうな喜多はと言うと、カオルさんにコーヒーを淹れてもらって少し復活したらしい。
私の普通に濃いコーヒーの方が良いと思ったがそれは喜多に断られた。
そして昼ピーク前に二人を図書館へと送り出すと、なんだか久しぶりにカオルさんと二人っきりだ。
なんかちょっと……ソワソワする。
何故かって?
カオルさんもソワソワしてる様に見えるからだよ。
もしかしてアレか……?
二人っきりだと『ゲンゾウさん』呼びになるとか……
「
「――はいっ! なんでしょっ!?」
しまった。不埒な事を考えてたから
ぷーっ、と吹き出しケラケラ笑うカオルさん。可愛い。
「もう、店長ってば面白いんだから」
「いやいや申し訳ない。ぼんやりしてたもんだから。それでどうかしたんですか?」
カオルさんは少し小首を傾げ、あぁそうだ、と続きを口にした。
「久しぶりに二人っきりでなんかソワソワしますね!」
「え――……それは……?」
なんだどういう意味だ? ほんとにゲンゾウ呼びに……
「この何日か野々が中心だったじゃないですか。お店のこととか雑談とかも」
「そう言われればそうですね。二人で話すのも久しぶりです」
カオルさんはともかく四十も近い
「なんかちょっと、逆に新鮮で良いですね!」
「ええ、ほんとに」
ほんの少し良い雰囲気の私たちの間を切り裂く様に、からんころんとドアベルが鳴る。
さぁ、昼ピークのスタートだ。
……おいおい。これはまた引っ切りなしにお客が来やがる。
野々花さんが居ないと聞いて肩を落とすお客までいる。
これは商店街でも噂になってるかも知れないな、野々花さんのこと。
商店街中に顔がきく千地球のママにでも伝えて少しセーブして貰おうか。
……そのせいで全然お客が来なくなるなんてことは……ないよな?
「ちょっと……疲れましたね……」
「やっぱりいつもよりお客が多かったですし、野々花さんいませんからね」
「野々がいる方が楽になるとは思わなかったですね……」
正直言って、カオルさんはとても仕事が出来る。贔屓目でなく。
てきぱきとパンを袋詰めし、レジを打ち、焼き上がったパンを棚に並べ、さらにお客からの問いかけにも笑顔で対応できる。
そのカオルさんに近い動きを野々花さんも
ゆくゆくは二人と凛子ちゃんを加えて無敵のスリートップを…………そうだ、凛子ちゃんの事も考えておかなきゃな。
「店長はお昼どうします?」
「そうですね……パンじゃなくてナポリタンお願いします」
「良いですね! あたしもそうしよ! かしこまりーん♪」
千地球へ向かうカオルさんの背を微笑みと共に見送ってカウンターに出る。
この一時間弱だけ、私が接客することを許してくれお客。おっさんですまん。
そしてドアベルを鳴らして現れた男は……どこかで見た気がする顔だった。