明けて水曜、本日もロケットベーカリーの開店だ。
昨日の野々花さんのパンは
まぁ、当然だ。
野々花さんの手で私が焼いたのと変わらないからな。
「いらっしゃいませおはようございまーす!」
開店直後のお客、いつもの様に千地球のママだ。
「おはよーカオルちゃんに野々ちゃん、ついでに鹿野さん」
春頃の一人で店をやっていた頃とは打って変わっていつの間にか私の扱いはそんなもんだ。まぁ別に構わない。
「今日も頑張ってね野々ちゃん」
「はい! 頑張ります!」
ちなみに最も頑張ってるのは私だ。もちろんそんな事は
けれど、それを察したのか厨房を向いたカオルさんが私と視線を合わせ、さらに手を合わせて私を拝む。そしてさらに笑顔でにこり。
……カオルさんは人たらし――いや、生粋の
たらされるのに一片の躊躇いもない。全力でたらされていくとしよう。
「昨日は来なかったけど、今日はお昼来る?」
「ええ。昨日は野々花さんが焼いたパンをみんなで食べたものですから――」
「なにそれ! 私だって野々ちゃんのパン食べたい! お金なら払うわよ!」
けれどいつものパンとそう大差ないが……ってのはこの際あまり関係ないよな。
「そんなに量は焼いてないんですよ。今度は多めに焼いてもらって持って行きますから」
絶対よ! 絶対だからね! そう言い残してママは店に戻っていった――かと思ったが再び顔を覗かせ言った。
「日曜に居たらしい美少年はいないの?」
美少年……? あぁ、タカオくんか。
ママぐらいから見れば高校生も少年だな。こないだママが来た時は厨房に居たから気付かなかったらしい。
「いませんよ。ちなみに今度いつ来るかは未定です」
「来る日わかったら教えてよ! 絶対よ!」
そしてようやく帰って行った……ふぅ、大変だなコレは。土日の売り上げアップで覚悟はしていたが、美少女と美青年がいるらしいというのはすでに噂になってるのか……?
気を取り直して、今日も頑張ろう。いま考えてもしょうがない。
「さて今日は」
「はい店長さん!」
「ひとりでパンを焼いてみようか」
「え――ひとりでですか!?」
「平気だよ。私は最初っからひとりで焼いてたし」
しかも小学校に上がる頃だったかな? 当然しばらくずっと味も見た目も酷いものだったがな。
昨日と同じロールパンの作り方を書き起こしたレシピを渡し、ちゃんと言い添える。
「今日は店の事は気にしなくて良いからね。それと工程ごとに声を掛けて。簡単にチェックするから」
「はい! よろしくお願いします!」
ほんと素直でいい子だよな。しかもカオルさんに似て可愛い。
六年生のなんとか君に求愛されるのも頷けるというものだ。