喜多の奴はチャラい中にも真面目さが窺える様な、そんな爽やかな二枚目だ。実際のとこはあんなキャラだけどな。
対して
今のカオルさんのイメージには全く合わないが、野々花さんが十歳なのを考えればハタチほどで結婚したことになる、今とはまた違うイメージだったんだろう。
対して私。
自分の認識では二
がっしりした体にゴツゴツした顔面。線の細い二人とは真逆だ……
「店長〜」
「……え? なに凛子ちゃん、呼んだ?」
しまった、仕事中だった。
「さっきから手ぇ止まってますよ、良いんすか?」
ちらりと時計を見ると十時半。日曜の昼ピークは平日に比べると少し前後する。ぼんやりしている場合じゃない。
「ありがとう。助かったよ」
「なら良かったっす。そんで店長」
「なに?」
「ここんとこあの男前こないっすね」
男前……? お客か?
誰のことだか分からないが、凛子ちゃんもやっぱり二枚目がお好みか。
「だれのこと?」
「あの、ほら、キタとかいう店長のツレの」
ちっ、喜多はどこ行っても二枚目だとかハンサムだとか男前だとか。忌々しい奴だ。
「あぁ、平日にはちょこちょこ顔を見せるんだよ。昨日も来てウチで呑んだから……まだ私の部屋で寝てるんじゃないかな」
天井のそのまた上、二階の部屋を指差しながらそう言った。
「え! そうなんすか!? 店長んちのカギ貸してくださいすぐ戻るっすから!」
「なに言ってんの貸さないよ」
ちぇー、なんて言いながら凛子ちゃんがパチンと指を鳴らす。私の部屋に入って一体なにをどうしたいのか、興味が湧いた。
「部屋入ってなにするつもり?」
「なんもしねぇっす。ただ男前の寝顔を見るだけっす」
「……? それ、楽しいの?」
「なに言ってんすか! 楽しいに決まってるっしょ!」
そ、そういうものか。そりゃまぁ、私だってカオルさんの寝顔が見れるならば楽しいに決まってるな。
「凛子ちゃんもしかして、喜多が好きなのか?」
「ん? いや全然、ちっともっす」
……目が点になっちまうな、凛子ちゃんと話してると。
「男前は見るだけが良いんす。花みたいなもんすよ。花屋の綺麗な花っす」
……なるほど、深い気がする。
「なら凛子ちゃんは、その花屋さんでどんなの買う派?」
「オレの部屋に置いとくんならサボテンとか多肉植物が良いっす。男前じゃなくて良いんで、でこぼこでゴツゴツした、強そうな
………………
――え? ちょ――、まっ……
いや違う違う。岩ってのは私の私による自己評価な訳であって凛子ちゃんのはまた何か別の比喩表現とかなんかそうい――
「店長みたいな岩っぽいのがタイプっす」
……さすがにそんなことはないだろう。
凛子ちゃんは二十五歳、私はもうすぐ四十歳。どこからどう見ても美人のお嬢さま(
「タイプ、なんて言ったっすけど、結構真剣に好きっす。また、返事――下さい――っす」
頬を赤くしてそう言い切った凛子ちゃんは背を向けてカウンター業務に戻っていった。
いや、もう喜多なんて目じゃない。
……凛子ちゃんこそ男前だよ。