心配性……。
そうだな、過保護よりも心配性がしっくりくるな。
「なにか理由があるのか? というか理由が分かったのか?」
いくら喜多でもそんな個人情報を覗いてこれるものなのか?
私の疑問は当然だと思うのだが、私の疑問顔を気にすることなく喜多が言い放った。
「分かった――というかな、半分は『思い出した』が正しいな」
「思い出した……? おい、順を追って説明してくれ」
昼ピーも過ぎ、カオルさんが戻ってくるまでおよそ五〇分。疎らに訪れるお客を捌きつつ喜多の話に耳を傾ける。
「ゲンちゃんも覚えてるだろう。四年前、隣の県で組織の連中数人で行なった
…………隣県で……四年前……。
ああ、覚えてる。
全体像は知らされていないが、私が殺したのは確かヤクザ手前のチンピラに毛の生えた様な男……だったかな。
「ゲンちゃんが
嫌な間を取るなよ。ロクでもない話なんだろうけどよ。
「その内の一人の名が
…………。
はぁ――。
そうか……そんな偶然が……
カウンターに隠れる様にしゃがんでキャップを取り、膝に肘を乗せて髪をぐしゃぐしゃと――かき混ぜようとして思い
まだ夕方ピーク用のパン焼きと明日以降のパンの仕込みがある。
髪なんて触って指を汚している場合ではない。
「ゲンちゃんは美横を殺った訳じゃねえ、気にすんな。つってもよ、殺ってても気にしなくても良いぞ」
だから勿体つける話し方は止せ。とっとと喋れ。
「美横の奴はよ、クソみたいな旦那だったらしい。カオルちゃんや野々にとってもよ」
「……どういう意味だ?」
「そこらへんは当時の下調べで簡単に分かってたんだが思い出せなかったんだ。すまん」
それは良いから早く続けてくれ。
「クソDV野郎だ。野々はともかくカオルちゃんは相当やられたみたいだ。これはさっき野々に聞いたんだが……カオルちゃんは元々、めちゃくちゃ男運悪いんだとよ」
時折りからんころんとドアベルを鳴らして訪れるお客を捌いては、また喜多の話に耳を傾けた。幸いイートインに座るお客は居ない。
「んで、
時計は二時を指している。勿体つけるな、もう一五分ほどでカオルさんが戻ってくるぞ。
「カオルちゃんと美横は、民放七七〇条一項三号『三年以上の生死不明』を理由に離婚が成立してるから繋がりはないんだが、問題はカオルちゃんが、
なる……ほど、な。
カオルさんは野々花さんが一人の時に元旦那が舞い戻って来ないか心配しているのが原因な訳か……。
「なら元旦那が死んでる事をさりげなく教えれば解決――」
「そうもいかねえのよ、コレが」
――なぜだ? 私の疑問顔に喜多は即答した。
「死んでねえのよアイツら全員」
そんなことあるか。少なくとも私は間違いなく殺した筈だ。
「ただの失踪者だな、法的には」
あの時の依頼内容……確かヤクザ絡み……依頼人がヤクザの組だったか。
そうか、こないだのカラオケボックスと違って、連中の死体は組の方で処理したから明るみに出てないのか。
「それによ、そんなこと俺らが知ってるってバレるのがマズいだろうが」
……もっともだ。
そこで喜多の奴がスッと時計を指し示し、それにコクリと頷き黙る。
そしてドアベルが鳴る。
「戻りましたー!」
「お帰りなさいカオルさん」
「カオルちゃんコーヒー淹れてくれよ。いつもの薄いやつをよ!」
しれっといつも通りの喜多に戻ってコーヒーを頼みやがった。しかも野々花さんを手招いてイートインに座りやがる。
……まぁ良い。野々花さんも少し嬉しそうだしな。