「遅いぞ喜多」
敢えて
「だってしょうがねえじゃねえか」
喜多の言い分はこうだ。
早々に図書館で野々花さんを見つけて声を掛けたが、「今日分の勉強が終わるまで待って下さい。急ぎますから」と言われた。
それももっともだ、と喜多は『かいけつゾ□リ』を手に取って読み始めたら面白くなって、「勉強終わりました」と言う野々花さんに「ちょっと待ってくれ。これとこれだけ読ませてくれ」と涙目で懇願し、読み終わって満足の喜多は野々花さんを伴いロケットベーカリーに戻るも昼のピーク時間。
「しゃあねえ、先にランチ行っちまうか」
と提案して千地球へ。
そして今、昼ピーもすっかり過ぎて一時半だ。
「とまぁ、商売の邪魔しちゃマズいと、俺ぁそう考えた訳。どうだ、文句あるか?」
「あるに決まってるだろ。オマエがゾ⬜︎リ読んでたせいじゃねえか」
昔ちょっとは読んだよ。確かに面白いけど普通は泣かねえと思うがな。
「でも喜多さん、ありがとうございました」
ぺこりと喜多に頭を下げてそう言うカオルさんが続けて言う。
「
「――う。喜多
少し照れる野々花さんは視線を逸らしそう言った。
すると、喜多がじとりと湿っぽい目を私に向ける。
……これは、まぁ、しょうがないか。
「おい喜多。ありがとう、助かった。でも遅くなるなら連絡は入れろよ」
「かしこまりーん!」
喜多がピースサインで片目を挟む様にポーズ。
……なんだそれは。流行ってんのかソレ?
「いや〜! ゲンちゃ――げふんっ! げふっ! ごほんうほうほ……わりぃ、
ちょっと久しぶりだな、オマエのうほうほ。
「――ゲンゾウ、オメエにお礼言われるなんて初めてじゃね!? 嬉しいなぁおい!」
そんな事はないだろう。いつも
……いや、言ってないな。感謝の気持ちがあったのは多分間違いないとは思うんだが。
「んんっ――、じゃ、じゃぁカオルさんはお昼して下さい」
空咳ひとつで誤魔化したが、喜多が要らんこと言うもんだから
「店長、今日はどうします?」
「そうですね……それじゃサンドイッチお願いします」
「かしこまりーん♪」
――なっ――!?
喜多と違ってなんと可愛らしい――……
「ゲンゾウ、おい。帰ってこい」
ぺんっ、と喜多に頭を
「おい、オマエはどうすんだ? カオルちゃんと一緒に行くか?」
「ママどこ行くの?」
「今日は千地球。お昼は千地球かロケットベーカリーのパンだから」
ウチと千地球は
なんと言っても
「俺と
――なにっ!? 喜多、お前……野々花さんのことを
「お腹いっぱいだけど、ママに付いてこっかなー」
「じゃ一緒に行こっか野々。喜多さんは?」
「ん? 親子水入らずで行ってきなよ。ゲンゾウと
喜多の軽口に、
どうして笑ったのかと思ったが、店を離れる二人の会話を私の耳が拾って理由が分かった。
仲良しだよねー店長と喜多さん、なんて言ってた。全然そんな事ないんだけどな。
「それで? 内緒話ってのはなんだ?」
「カオルちゃんが過保護……いや、心配性過ぎる理由について、だな」