こんなこと言っちゃアレなんだが。
何故か殺しの仕事を済ませた翌日からの数日間、ロケットベーカリーの売り上げは伸びるんだ。
なんでだろうな?
なんとなく逆の気がしないか?
もちろん『昨日殺しの仕事
人を殺した男の手が焼いたパン、そんなもの食べたくないと思う人もいるだろう。しかし私はパンを焼くことと人を殺すことしか能のない男。
どちらかを辞めるとなれば……パン屋を辞める事になるのだろう。
しかし今はまだ、
「いらっしゃいませ、おはようございまーす!」
今日もカオルさんの『いらっしゃいませ』はすこぶる良い。素敵だ。
せっせせっせとパンを作りながらカオルさんの声を聞く。至福。
もうこのまま永遠にパンを焼いていたいくらいなんだ。
「ちょっとカオルちゃん聞いたぁ〜?」
「聞いたって何をです?」
もう声で分かる。大抵の場合、朝イチのお客さんは彼女。そう、商店街にある喫茶店『
なんと言っても彼女の店で出すパン系メニューのベースとなるパンはウチから買って頂いている。
喫茶店『千地球』とは、マスターの趣味で大小さまざまな九九九個の地球儀を店内に飾るおかしな店。
――なに? 千地球に一個足りないって? お客さん、アンタの足の下にゃ何がある? それが千個目だよ――
これがマスターの決め台詞。お洒落な台詞っぽい気はするが、特に深い意味はないらしいし実際よくわからない。ただ言いたいんだそうな。
ただこれだけは言っておきたい。
ウチのパンで作るマスターのサンドイッチやカスクートは絶品だ。だからウチでは作らない様にしているくらいなんだ。
「それがさぁ、こないだ駅前のカラオケボックスで喉に氷詰まらせて窒息死してたって人の事よ」
「あぁ、あの……カラオケボックスで溺れたとかどうとかの……」
噂に
息が出来ないって意味じゃ同じだが、窒息死と溺死じゃ全然違う。なんなら私がやった窒息死なら苦しいのは最初のほんの一、二秒だけ。
死ぬよりずいぶん前に意識を失うから苦しくない筈なんだとさ。
……溺死もそうかも知れないが、死んだことないから詳しいことは判らんな。
「なんかとんでもない奴だったんだって」
まぁ、そうだろうな。喜多はああ見えて下調べに抜かりが無い。アイツが『真っ黒』だと言えば真っ黒な筈だ。
「とんでもないって……どんな?」
「カオルちゃんにはちょっと言いにくいんだけどね、逆に言っとかなきゃって、ね?」
……あぁ、なるほど。――そっち系の、か。
「ママさんがそう言うって事は……子ども系……ですか?」
「そうなのよぉ。死んでたデブ、子ども連れ去って悪戯して写真撮ってどっか遠くで放り出す、って事ばっかしてたんですって! カオルちゃんも気つけなね!」
となると依頼人は被害者の父親とかそんなところかな。
『死んで償え』なんて大層な事は俺には言えないが、被害者が抱えちまった憎しみの一割でも一%でも、被害者の心が晴れてくれりゃめっけもん、ってなとこだな。
「
「娘ちゃん、いま四年生だっけ? 気を付けてあげなきゃね! 変なのいっぱいいるから!」
カオルさんの娘、
私はまだ会ったことはないが、カオルさんに似たのであれば美少女間違いなし。私も心配だ。
「ちょっと