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第3話 「Hit《殺し》」


 翌日19時半、店の後片付けも済ませて指定通りの時間にカラオケボックスへと出向いた。

 店の入り口手前、ごく簡単な変装の喜多がすれ違いざままとの部屋ナンバーを呟いてそのまま去る。


 今日の仕事も喜多のアシスト。

 この数分だけは店の防犯カメラは止まっている筈だし、従業員には何らかの急用が発生している筈だ。


 誰もいないエントランスから堂々と店に入り、そのまま非常階段で目的の部屋へ。


 ガチャリとドアを開けると、一人カラオケで必死になって歌うまと

 その背後に忍び寄り、頸椎を指で摘んで捻る。三番と四番をズラすのが最適だ。

 そしてズラす向きは真後ろから前へ。


 ズレて飛び出した第四頸椎が首から下の神経を圧迫し、さらに食道ごと気道を塞ぐ。


 すると的は脱力し、がくりとソファにもたれ込んでぱくぱくと口を動かす。

 どれほど苦しかろうとまとは声一つ上げることも、指一つ動かすことも出来やしない。全身の自由は奪ってある。


 ――数十秒だけそのまま待つ。


 息絶えたのを確認し、ズラした頸椎を再び捻って元に戻す。

 一応言っとくが、ちびっこは真似すんなよ。


 と言っても私の指は特別製だ、当然真似できるような奴は居ないと思うがな。



 鳴り止まないやかましい演奏の中、グラスに指を突っ込み氷を一つ摘んで的の口へ。

 そして速やかに引き上げる。


 喜多のメモに従い、脱いだキャップをコンビニのゴミ箱へ捨てて駅前の雑貨屋へ、小振りな黒板と何色かのチョークを買いに立ち寄った。


 買い物はわざわざ駅前まで歩いて来た理由付けだそうだ。

 パンの焼き上がり予定時間をカオルさんに書いてもらって店頭に出す用の黒板とチョークを買いに来た、というていなんだとさ。


 パン屋の方は喜多に心配して貰わなくても良いんだが、カオルさんがチョーク持って黒板に向き合ってるのは想像するだけで素敵だ。良い。


 だからメモに従い速やかに購入。

 よく行く定食屋で夕食をとり、ウキウキと帰宅後、毎夜のルーティンをこなして明日に想いを馳せる。


 ――早く明日にならないかな。


 ふっ――。我ながら笑ってしまう。

 毎晩がすっかり『遠足前日の小学生』みたいなおじさんなんだもんな。



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