『堕落の宴』 第四競技:『快楽の階段』
悪魔の司会者が、ニヤリと笑いながら次のゲームの内容を告げた。
「さて、次の競技は……『快楽の階段』!」
「このゲームは、ペアになった悪魔と人間が協力し、"快楽の階段"を登っていくものだ」
「階段の途中には、"堕落の誘惑"が待ち受けている」
「一歩進むごとに、快楽に溺れそうになればなるほどポイントが加算される……逆に、耐え抜けばポイントはそのまま」
「そして、階段を登り切ることができなければ、そのペアは失格!」
「つまり……桜木、お前がこの階段を登りきれなければ、お前の仲間二人は即100ポイントで堕落確定ってわけだ!」
桜木の顔が険しくなる。
(……つまり、俺が堕落しなかったら、鬼塚と飯田が終わるってことか)
鬼塚と飯田の表情が凍りつく。
「そ、そんなのって……」
「お、おらたちは……もう持たねぇだ……」
残りたった3ポイントの二人に、耐えられる余裕はない。
悪魔たちが歓声を上げる。
「さぁ、楽しませてもらおうか!」
「人間の意志の力なんざ、大したことねぇんだ!」
「快楽に溺れてしまえ!」
桜木は拳を握りしめた。
「……行くぞ」
「ふふ、楽しみね♡」
セリーヌが妖艶に微笑む。
***
第一の階段:「怠惰」
階段を登り始めた瞬間、桜木の体がずしりと重くなった。
(……これは)
「この階段は、"怠惰"の誘惑を与えるの」
セリーヌがクスクスと笑う。
「ほら、眠くなってきたでしょ?」
たしかに、体の奥から甘い倦怠感が広がってくる。
「もう頑張らなくてもいいんです……すべてを投げ出して、ただ眠ってしまえばいいんです……」
桜木の目蓋が重くなる。
(……ヤバい)
「ほら、膝枕してあげるわ」
セリーヌが微笑み、桜木の腕を引いた。
「安心して……私の膝の上で、少しだけ休んでいいんですよ」
ふわりと甘い香りが漂う。
──もしここで眠れば、確実にポイントが加算される。
(……クソッ、眠るわけにはいかねぇ)
桜木は拳を握りしめ、自分の頬を思い切りぶった。
「っ……!!!」
バチンッ!!
鋭い痛みが走り、意識がはっきりする。
「ふふ、痛いことするんですねぇ」
セリーヌが楽しそうに微笑んだ。
桜木は歯を食いしばりながら、第一の階段を突破した。
***
第二の階段:「暴食」
次の階段に足を踏み入れた途端、桜木の前にご馳走が広がった。
豪華なステーキ、甘くてとろけるチョコレート、芳醇な香りのワイン……。
(……くっ、これが"暴食"の誘惑か)
「ほら、食べなさい?」
セリーヌが桜木の口元に、極上のステーキを差し出す。
「たった一口でも食べれば、幸せになれますよ?」
桜木の胃が、ぐぅ、と鳴った。
──空腹が限界に達する。
(……ダメだ、これを食ったら、俺は……!)
セリーヌがニヤリと笑う。
「ほら、一口……♡」
桜木は拳を握りしめ、深呼吸した。
(……目を閉じろ)
──意識を食欲から逸らし、桜木は無理やり次の階段へ足を踏み出した。
「チッ……また耐えたか」
セリーヌが舌打ちをする。
***
第三の階段:「色欲」
最後の階段に辿り着いた瞬間、桜木の体がふわりと温かくなった。
(……これは)
「ようこそ、最後の階段へ」
セリーヌが、そっと桜木の耳元に囁いた。
「ここは"色欲"の階段……あなたの理性を蕩けさせる場所です」
──突然、桜木の脳裏に、セリーヌの姿が焼き付いた。
普段の妖艶な微笑み。
優雅な仕草。
少し挑発的な視線……。
──この女が、もし俺のものになったら?
(…………っ!!)
桜木は、反射的に目を閉じた。
(やばい……考えが支配される)
セリーヌが、そっと桜木の手を握る。
「どう? 私に溺れてみませんか?」
「…………」
桜木は、そっと息を吐いた。
──そして。
「……俺は、お前のことを、何とも思ってねぇよ」
セリーヌの顔が、一瞬固まった。
「……え?」
桜木は、一歩前に踏み出した。
「お前は、"誘惑する"ことしかできねぇんだよな?」
「…………」
「だったら……俺は、お前に何の価値も感じねぇよ」
セリーヌの顔が歪んだ。
「……フフ、フフフ……」
「おもしろいことを言うんですね」
桜木は、そのまま最後の階段を登り切った。
***
結果発表
悪魔の司会者が、悔しそうに叫んだ。
「クソッ……桜木、堕落ポイント81のまま!」
鬼塚と飯田が、その場に崩れ落ちる。
「た、助かった……」
「お、おら、もうダメかと思っただ……」
悪魔たちは、悔しそうに叫んだ。
「ちっ……まさか、"快楽の階段"を一切のポイント加算なしで突破するとはな……!」
桜木は、息を吐いた。
(……危なかった)
だが、まだ終わりではない。
「……次の競技で、必ずお前を堕落させてやる」
ジョンが、ニヤリと笑った。
堕落するまであと81ポイント。