「……おい、マジかよ」
俺、桜木翔太は今、人生最大のピンチに立たされている。
目の前には、悪魔ベルゼブブが仕切る闇カジノのVIPルーム。
俺たちの目の前に広がるのは、豪華すぎるブラックジャックのテーブル。
そして――
「おやおや、これは面白いことになったね?」
ディーラー席には、ラミアという名の悪魔が座っていた。
透き通るような肌、妖艶な笑み、そして手元で滑らかに動くトランプ……。
「ルールは簡単。二回勝てばクリア。二回負ければ君の魂を頂く」
「は!? 魂!? ふざけんな!!」
俺が叫ぶと、隣で飯田がバンッとテーブルを叩いた。
「おいおい、こんな賭け聞いてねぇぞ!」
「俺たちは普通にポーカーやってただけだろ!」
ジョンも呆れたようにサングラスを外す。
そう、もともと俺たちはルシファーに会いに来たんだ。
まさか本物の悪魔の経営するカジノとは思わなかった……。
「おい翔太、どうすんだよ?」
「……やるしかねぇ」
「マジかよ!? ここで!? お前ギャンブル弱えだろ!!」
「うるせぇ! 言うな!!」
「ふふっ、面白いねぇ。では、ゲームスタートだ」
ベルゼブブが指を鳴らすと、ラミアがカードを配り始めた――。
俺の運命を賭けた「ルシファー・ゲーム」が、今、幕を開ける――!!
「さて、ゲームを始めようか」
妖艶な悪魔ディーラー、ラミアが微笑むと、ブラックジャックのカードが静かに配られた。
「さぁ、プレイヤーは賭け金を置いてくれ」
「……賭け金って、何?」
俺がビクビクしながら尋ねると、ラミアはくすくす笑いながら答えた。
「もちろん、魂だよ?」
「やっぱりそうか!!」
「おい翔太、マジでやるのか?」
飯田が真っ青になって俺の腕を引っ張る。
「いや、やらないって選択肢はねぇだろ!? 逃げたら魂を“即回収”って言われたし!」
「……クソッ、こんなことなら、せめて運ゲーじゃなくて実力勝負のゲームにしとくのだった」
ジョンがため息をつきながら言う。
「さぁ、ベットするか降りるか、決める時間だよ?」
「……やるしかねぇ」
俺は意を決して、魂の欠片をチップ代わりにテーブルへ置いた。
「ほう、おもしろい」
突然、背後から重厚な声が響いた。
「……ん?」
俺たちが振り向くと、そこには――
漆黒のスーツに身を包み、整った顔立ちに紅い瞳を持つ、圧倒的なカリスマを放つ男が立っていた。
「お、お前は……!!」
ラミアが珍しく動揺した様子で口を開く。
「ご無沙汰しているね、ラミア。君の小細工には興味がないが……人間を相手に魂を賭けさせるとは面白いことをする」
「ル、ルシファー様……!!」
「えっ、ルシファー!? あの堕天使のルシファー!?」
俺と飯田とジョンが同時に叫ぶ。
「フフッ、そう呼ばれることもあるね」
目の前にいるのは、悪魔界の頂点に君臨する王――ルシファー。
「ルシファー様、これはただの遊びで……」
「いやいや、構わないよ。むしろ、この人間がどこまでやれるのか見届けたい」
ルシファーは俺の方を向くと、ニヤリと笑った。
「桜木翔太。君はこの勝負に、どんな奇跡を見せてくれるのかね?」
「……奇跡って、俺、ギャンブル弱いんだけど……」
「ハハハ、それはいいハンデだ」
「ハンデ!? これハンデ戦だったのかよ!?」
「フフ、面白い……では、ゲーム続行だ」
ルシファーが指を鳴らすと、ラミアがカードを配り始めた。
魂を賭けた、絶対に負けられない「ルシファー・ゲーム」。
悪魔王が見守る中、俺の人生最大の勝負が今、始まる――!!
「それでは、ディーラーの私も勝負させてもらうわね?」
ラミアが妖艶に微笑みながらカードを配る。
俺の手札:8と3(合計11)
ラミアの見えているカード:7
「おおっ! これはダブルダウンのチャンスじゃないか!」
ジョンが目を輝かせて言った。
「ダブルダウン……?」
「掛け金を倍にして、もう一枚だけカードを引くんだ。11なら次に10を引けばブラックジャックでほぼ勝ち確だぞ!」
「そ、そうか! じゃあダブルダウンする!」
俺は魂の欠片をさらに追加し、緊張しながらカードを引く。
「では、追加のカードよ♪」
ラミアが微笑みながらカードを裏向きで置く。
「さあ、開けてごらんなさい?」
俺はごくりと唾を飲み込み、カードをめくった。
5
「16……微妙ッ!!」
「おい翔太、そりゃまずいぞ……!」
飯田が絶望的な顔をする。
「う、嘘だろ!? 10じゃないのかよ!」
「フフッ、運も実力のうちよ?」
ラミアが余裕の笑みを浮かべながら、ディーラーの2枚目のカードをめくる。
ラミアの手札:7と4(合計11)
「えっ……ヤバくね?」
「……フフッ、それでは、もう一枚引かせてもらうわね?」
ラミアは妖しく指を鳴らし、ゆっくりとカードを引いた。
10
「21。私の勝ちね♡」
「終わったあああああああ!!!」
俺は崩れ落ちる。
「はぁ……これで翔太の魂はラミアのものか……」
ジョンが肩を落とす。
「いや、まだ終わっていないよ」
ルシファーが余裕の笑みを浮かべながら言った。
「おや? ルシファー様、何か?」
「うん、ちょっとつまらないなと思ってね。だから、少し遊びを加えよう」
ルシファーが指を鳴らすと、俺の前にもう一枚カードが出現した。
「えっ!? これ、俺の追加カード!?」
「いや、これは俺からのサービスさ。受け取るかい?」
「ど、どういうこと?」
「このカードは、君の運命を変える可能性がある。しかし、開けるまで何が出るかわからない」
「……怪しすぎる!!」
「フフッ、選択は自由だよ?」
俺はカードを見つめる。
ここでルシファーのカードを受け取るのは正直怖い。
でも、このままだと俺の魂はラミアのものになってしまう……!!
「……わかった。受け取る!」
俺が意を決すると、ルシファーは満足げに笑った。
「良い決断だ」
俺は覚悟を決めてカードをめくる。
「???」
「えっ、何これ!? 文字が書いてないぞ!?」
「フフ……そのカードは、君が望む数字になるカードさ」
「……は?」
「つまり、君が『21』になりたいと思えば、それは10になり、負けたくないと思えば、相手の数字より1多くなる……そういう代物さ」
「そんな都合のいいカードあるかぁぁぁ!?」
「あるんだよ、ここは悪魔のカジノだからね」
ラミアが呆れたようにため息をつく。
「ま、まじか……!? ってことは、これを10にすれば……俺の勝ち!?」
「そういうことさ。さあ、どうする?」
ルシファーが微笑む。
「そりゃ決まってる! このカードを10にして、21にする!」
俺が叫ぶと、カードが眩しく輝き、文字が浮かび上がった。
「いけ〜〜〜!!!桜木〜!!!」
鬼塚が叫ぶ。
「10」
「は、はぁぁぁぁ!!??」
ラミアが驚愕する。
「おやおや、これは面白い」
ルシファーが楽しそうに笑う。
「ブラックジャック……桜木翔太の勝ちだ」
「や、やったあああああ!!!」
「おおっ、すげえぞ翔太!!」
飯田とジョンが歓声を上げる。
俺はほっとした。
「……クッ、仕方ないわね。今回は負けを認めるわ」
ラミアは悔しそうにしながらも、潔く手を引いた。
「さて、翔太。君はこのゲームで勝利したわけだが……」
ルシファーが俺の肩に手を置く。
「えっ?」
「当然、代償は払ってもらうよ?」
「え、ちょっ……待て待て待て! 俺、勝ったのに!?」
「フフ、悪魔のゲームに“タダ”はないのさ」
……俺、まさかとんでもない契約を結ばされたんじゃねぇか!?
やべえぞ…。
「当然、代償は払ってもらうよ?」
ルシファーがニヤリと笑うと、場の空気が一気に凍りついた。
「えっ、ちょっ……俺、勝ったんだよな!? なのになんで代償!?」
「フフ……翔太、君は確かに勝った。でも、最後に使ったカードは“俺からのサービス”だったよね?」
「……そうだけど?」
「つまり、それを使った時点で、俺と取引をしたということさ」
「そ、そんな詐欺みたいな話があるかぁぁぁ!!」
「あるんだよ、ここは悪魔のカジノだからね」
「お前もさっきそれ言ってたな!?」
「お、おいルシファー! うちの桜木を騙してんじゃねえぞ!!」
鬼塚が拳を鳴らしながら前に出る。
「翔太は勝ったんだから、それでチャラにしとけや!」
「鬼塚くん、さすがです!」
セリーヌが感動しながら拍手を送る。
「おいおい、そいつがどんな代償を払うかも聞かずに文句を言うのかい?」
ルシファーは余裕の表情で微笑んだ。
「そ、それもそうだべ……で、翔太の代償はなんだべ?」
飯田がゴクリと唾を飲み込む。
「うん、簡単な話さ」
ルシファーはゆっくりと指を鳴らした。
「俺の手伝いをしてもらうだけだよ?」
「……は?」
「手伝い、ですか?」
セリーヌが首をかしげる。
「そう。これから俺が開催する“ルシファー・ゲーム”に、君たちには参加してもらう。もちろん、途中でリタイアすることは許されないよ?」
「ルシファー・ゲーム……?」
ジョンが眼鏡をクイッと上げる。
うぜえ。
「それはまさか……古のゲーム“悪魔の三大試練”……!?」
「ジョン、なんで知ってんの!?」
「我、昔読んだ地獄のゲームマスター指南書に書いてあったのだ……!」
「そんなん読んでんじゃねぇよ!」
「くっ……どんな試練かは存じませんが、勝てば解放されるのですね!?」
セリーヌが気丈に言う。
「ええ、もちろん。ただし、負ければ……君たちは俺の忠実な部下になってもらうよ?」
「「「はぁぁぁぁぁぁ!?」」」
「部下って……まさか、悪魔になるってことか?」
鬼塚が鋭い目つきで睨む。
「そういうこと♡ どうする? 参加するかい?」
「……」
「やるしかねぇだろ!」
鬼塚が拳を握りしめる。
「ふふっ、鬼塚ったら相変わらず男らしいわねぇ♡ あたしも付き合うわ!」
ヴァレリアがウィンクしながら寄ってきた。
「おらも……桜木のダチだべ! 逃げるわけにはいかねぇべ!!」
飯田も拳を握りしめる。
「我もこの場にいるのならば、当然最後まで見届けよう」
ジョンが神妙な顔をして頷いた。
「桜木さんがいる限り、私もお供します!」
セリーヌも決意を固める。
「……みんな……」
俺は仲間たちを見渡し、深く息を吸い込んだ。
「……やってやるよ、ルシファー・ゲーム! 俺たち全員で勝って、絶対に生きて帰る!!」
「フフ……良い返事だ。それでは、ゲームの幕開けといこうか」
ルシファーが指を鳴らすと、俺たちの足元に魔法陣が現れた。
「ルシファー・ゲーム、開幕だ──!!!」
堕落するまであと91ポイント。