「いや、何もかもめでたくねぇよ!!!!!」
俺たちは一斉にツッコんだが、ヴァレリアは満足そうに頷いている。
いやいやいや、めでたくねぇし?????
「フフン♡ みんながやる気を取り戻したし、アザゼルもスヤスヤ眠れてるし、完璧じゃない?♡」
「いや、そういう問題じゃねぇだろ……」
鬼塚が額を押さえながらため息をつく。
俺も同意見だった。
「結局、アザゼルを倒したっていうか、ただ殴って寝かせただけじゃねぇか……」
「結果オーライよ♡」
ヴァレリアは胸を張る。
――まあ、確かに結果としては解決したように見える。
アザゼルの黒いオーラは消え、辺りの空気も元に戻っていた。
「……まあ、悪くないですね」
セリーヌも少し驚いた顔をしながら、肩をすくめた。
この姿も美しいというか美しい超えて神々しい。
「ただ、これで本当に終わったの?」
「さあね♡ でも少なくとも、アザゼルはしばらく起きないんじゃない?」
ヴァレリアがアザゼルの寝顔を覗き込みながら言う。
「すぅ……すぅ……」
アザゼルは気持ちよさそうに寝息を立てている。
まるで、何百年も溜めていた疲れが一気に抜けたかのように。
「……まあ、俺たちが倒すより、こっちの方が平和的ではあるか」
俺は腕を組んで納得することにした。
鬼塚やセリーヌも、呆れつつも同意しているようだった。
「それにしても、ヴァレリア……お前、マジで何者なんだよ」
鬼塚が改めてヴァレリアをまじまじと見つめる。
「フフン♡ ただの愛の伝道師よ♡」
「絶対ただのヤツじゃねぇ……」
鬼塚はジト目になった。
俺も同じ気持ちだった。
――まあとりあえず、俺たちは無事に帰れそうだ。
そんなことを考えていると、突然――
「……ん?」
空気が変わった。
「ちょっと待ってください……」
セリーヌが何かを感じ取ったように眉をひそめる。
そして――
「フフフ……さすがに驚いたよ」
「!?」
――アザゼルの声だ。
俺たちは一斉に振り向いた。
「え……寝たんじゃ……」
ヴァレリアがきょとんとした顔をする。
しかし――
アザゼルは、ゆっくりと立ち上がっていた。
「すぅ……はぁ……なるほど……実にいい眠りだった……」
「ま、マジかよ……」
鬼塚が身構える。
「おいおい、ふざけんなよ……もう寝てろよ……」
俺も警戒しながら言う。
「フフフ……確かに、お前たちの力は侮れなかった……」
アザゼルは軽く首を回しながら、薄く微笑んだ。
「特にお前……ヴァレリアと言ったな?」
「ん?♡ なぁに?」
ヴァレリアは相変わらずの調子だ。
そしてきもい。
「まさか、あの力で私の怠惰のオーラを押し返すとはな……」
アザゼルの目が鋭く光る。
「いや、もう戦う気はないんだけど?」
俺は念のため釘を刺しておくが――
「フフ……いや、違うさ」
アザゼルは笑った。
そして――
「私は……このまま、少し旅に出ることにする」
「……は?」
俺たちは一瞬、聞き間違えたのかと思った。
「私の怠惰の力が、完全に消えたわけではない。だが――」
アザゼルは夜空を見上げる。
「久しぶりに、目が覚めた気分だよ」
「……お、おい……どういうことだ?」
鬼塚が警戒を解かないまま問う。
「ふむ……お前たちと戦って、私は気づいたのさ」
アザゼルは口元に笑みを浮かべる。
「このまま、永遠に怠惰を貫くのも悪くはなかった。だが……お前たちの“熱”を浴びて、少しだけ興味が湧いた」
「興味……?」
「そう、世界というものに……な」
アザゼルはゆっくりと歩き出す。
「私は少し、旅をしてみることにしよう。お前たちのように熱い連中がいるのなら……少しくらい動いてみるのも悪くはない」
「……マジかよ」
鬼塚が呆れたように言う。
「まあ……いいんじゃない?」
ヴァレリアがケラケラ笑う。
「うん♡ せっかく目が覚めたなら、たくさん動いてたくさん遊びなさい♡」
「フフ……そうさせてもらおう」
アザゼルは静かに頷くと、闇の中へと消えていった。
――こうして、俺たちの戦いは終わった。
いや……戦いというか、なんというか……
「……結局、アザゼルは寝て、起きて、旅に出ただけじゃねぇか?」
鬼塚がぼそっと呟く。
「結果オーライ♡」
ヴァレリアはにっこり微笑んだ。
「お前、そればっかりだな……」
俺は苦笑しながら、ようやく肩の力を抜いた。
そして、堕落ポイントが増えていた。
増えていた。
「どういうことだ…?」
「悪魔を1匹倒したらポイントが下がるのよ♡」
ヴァレリアが説明してくれた。
「よっしゃぁぁぁ!!!これで悪魔と契約せずに済むぜ!!!」
「おら普通に生きれるべ!!!」
すでに普通じゃないけどな。
こうして――
俺たちはようやく、平穏な時間を取り戻したのだった。
【完】
――と思った、その時。
「ちょっと待って!!!!!」
「!?」
突如、空から何かが降ってきた。
ドシャアァァァァン!!!!
「ぐぼっ!?」
俺たちの目の前に、謎の人物が倒れ込んできた。
「な、なんだ!? 今度は何だよ!?」
鬼塚が叫ぶ。
俺も驚いて目を見開く。
すると、その人物がゆっくりと顔を上げた。
「ハァ……ハァ……あなたたちが……“あの”アザゼルを倒したというのね……?アザゼルの眠りが悪魔界に波紋を...」
「え?」
よく見ると、そいつは――
天使だった。
「な、なんで天使がここに……!?」
俺たちは混乱する。
そして、その天使は震える声で言った。
「ヤツが目覚めたことで……“彼”も動き出した……!!」
「“彼”……?」
俺たちはごくりと息を呑んだ。
「まさか……“堕天の王”ルシファーが……!!!」
「……は?」
――俺たちの戦いは、まだ終わらないらしい。
堕落するまであと94ポイント。