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第19話 めでたしめでたし?

「いや、何もかもめでたくねぇよ!!!!!」


俺たちは一斉にツッコんだが、ヴァレリアは満足そうに頷いている。

いやいやいや、めでたくねぇし?????


「フフン♡ みんながやる気を取り戻したし、アザゼルもスヤスヤ眠れてるし、完璧じゃない?♡」


「いや、そういう問題じゃねぇだろ……」


鬼塚が額を押さえながらため息をつく。


俺も同意見だった。


「結局、アザゼルを倒したっていうか、ただ殴って寝かせただけじゃねぇか……」


「結果オーライよ♡」


ヴァレリアは胸を張る。


――まあ、確かに結果としては解決したように見える。


アザゼルの黒いオーラは消え、辺りの空気も元に戻っていた。


「……まあ、悪くないですね」


セリーヌも少し驚いた顔をしながら、肩をすくめた。

この姿も美しいというか美しい超えて神々しい。


「ただ、これで本当に終わったの?」


「さあね♡ でも少なくとも、アザゼルはしばらく起きないんじゃない?」


ヴァレリアがアザゼルの寝顔を覗き込みながら言う。


「すぅ……すぅ……」


アザゼルは気持ちよさそうに寝息を立てている。


まるで、何百年も溜めていた疲れが一気に抜けたかのように。


「……まあ、俺たちが倒すより、こっちの方が平和的ではあるか」


俺は腕を組んで納得することにした。


鬼塚やセリーヌも、呆れつつも同意しているようだった。


「それにしても、ヴァレリア……お前、マジで何者なんだよ」


鬼塚が改めてヴァレリアをまじまじと見つめる。


「フフン♡ ただの愛の伝道師よ♡」


「絶対ただのヤツじゃねぇ……」


鬼塚はジト目になった。


俺も同じ気持ちだった。


――まあとりあえず、俺たちは無事に帰れそうだ。


そんなことを考えていると、突然――


「……ん?」


空気が変わった。


「ちょっと待ってください……」


セリーヌが何かを感じ取ったように眉をひそめる。


そして――


「フフフ……さすがに驚いたよ」


「!?」


――アザゼルの声だ。


俺たちは一斉に振り向いた。


「え……寝たんじゃ……」


ヴァレリアがきょとんとした顔をする。


しかし――


アザゼルは、ゆっくりと立ち上がっていた。


「すぅ……はぁ……なるほど……実にいい眠りだった……」


「ま、マジかよ……」


鬼塚が身構える。


「おいおい、ふざけんなよ……もう寝てろよ……」


俺も警戒しながら言う。


「フフフ……確かに、お前たちの力は侮れなかった……」


アザゼルは軽く首を回しながら、薄く微笑んだ。


「特にお前……ヴァレリアと言ったな?」


「ん?♡ なぁに?」


ヴァレリアは相変わらずの調子だ。

そしてきもい。


「まさか、あの力で私の怠惰のオーラを押し返すとはな……」


アザゼルの目が鋭く光る。


「いや、もう戦う気はないんだけど?」


俺は念のため釘を刺しておくが――


「フフ……いや、違うさ」


アザゼルは笑った。


そして――


「私は……このまま、少し旅に出ることにする」


「……は?」


俺たちは一瞬、聞き間違えたのかと思った。


「私の怠惰の力が、完全に消えたわけではない。だが――」


アザゼルは夜空を見上げる。


「久しぶりに、目が覚めた気分だよ」


「……お、おい……どういうことだ?」


鬼塚が警戒を解かないまま問う。


「ふむ……お前たちと戦って、私は気づいたのさ」


アザゼルは口元に笑みを浮かべる。


「このまま、永遠に怠惰を貫くのも悪くはなかった。だが……お前たちの“熱”を浴びて、少しだけ興味が湧いた」


「興味……?」


「そう、世界というものに……な」


アザゼルはゆっくりと歩き出す。


「私は少し、旅をしてみることにしよう。お前たちのように熱い連中がいるのなら……少しくらい動いてみるのも悪くはない」


「……マジかよ」


鬼塚が呆れたように言う。


「まあ……いいんじゃない?」


ヴァレリアがケラケラ笑う。


「うん♡ せっかく目が覚めたなら、たくさん動いてたくさん遊びなさい♡」


「フフ……そうさせてもらおう」


アザゼルは静かに頷くと、闇の中へと消えていった。


――こうして、俺たちの戦いは終わった。


いや……戦いというか、なんというか……


「……結局、アザゼルは寝て、起きて、旅に出ただけじゃねぇか?」


鬼塚がぼそっと呟く。


「結果オーライ♡」


ヴァレリアはにっこり微笑んだ。


「お前、そればっかりだな……」


俺は苦笑しながら、ようやく肩の力を抜いた。


そして、堕落ポイントが増えていた。


増えていた。


「どういうことだ…?」


「悪魔を1匹倒したらポイントが下がるのよ♡」


ヴァレリアが説明してくれた。


「よっしゃぁぁぁ!!!これで悪魔と契約せずに済むぜ!!!」


「おら普通に生きれるべ!!!」


すでに普通じゃないけどな。


こうして――


俺たちはようやく、平穏な時間を取り戻したのだった。


【完】

――と思った、その時。


「ちょっと待って!!!!!」


「!?」


突如、空から何かが降ってきた。


ドシャアァァァァン!!!!


「ぐぼっ!?」


俺たちの目の前に、謎の人物が倒れ込んできた。


「な、なんだ!? 今度は何だよ!?」


鬼塚が叫ぶ。


俺も驚いて目を見開く。


すると、その人物がゆっくりと顔を上げた。


「ハァ……ハァ……あなたたちが……“あの”アザゼルを倒したというのね……?アザゼルの眠りが悪魔界に波紋を...」


「え?」


よく見ると、そいつは――


天使だった。


「な、なんで天使がここに……!?」


俺たちは混乱する。


そして、その天使は震える声で言った。


「ヤツが目覚めたことで……“彼”も動き出した……!!」


「“彼”……?」


俺たちはごくりと息を呑んだ。


「まさか……“堕天の王”ルシファーが……!!!」


「……は?」


――俺たちの戦いは、まだ終わらないらしい。


堕落するまであと94ポイント。

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