鬼塚がジョンの魔導書を奪い取ろうと暴れる中、俺はふと気づいた。
「……ところで、ジョン。お前、何しに来たんだ?」
「フハハハハ!!! よくぞ聞いた!! 我がここに現れたのは、ある重要な情報を伝えるため……!!」
ジョンはマントを翻し、神妙な顔を作る。
うぜえ。
「重要な情報……?」
セリーヌが首をかしげると、ジョンは腕を組んで頷いた。
「ヴィゼは退いたが、これは終わりではない。次なる試練がすでに始まっているのだ!!!」
「……え?」
俺が眉をひそめると、ジョンは手を掲げ、魔法陣を展開した。
「桜木よ、貴様は知らぬだろう……『堕落の宴』が間近に迫っていることを!!!!」
「だ、堕落の宴……?」
「なんだそりゃ?」
鬼塚がまだ息を荒げながら聞くと、ジョンは得意げに語り始めた。
オタク特有の口調で。
「『堕落の宴』とは、悪魔界において定期的に開かれる一大イベント……すべての悪魔見習いが己の『堕落ポイント』を競い合い、名声と力を手に入れる場なのだ!!!」
「な、何ですって……!?」
セリーヌが驚きに目を見開く。
「ちょ、待てよ。ってことは、また悪魔共が俺たちの前に現れるってことか?」
「その通り!!!!」
ジョンはビシィッと指をさす。
「そしてなんと、次なる試練はすでに決まっている……!! それは――『堕落の使徒』との対決!!!!」
「堕落の使徒……?」
俺が反応すると、ジョンは重々しく頷いた。
「ヴィゼに次ぐ実力を持つ四天王の一角……それが『堕落の使徒』。奴らはそれぞれ異なる堕落の力を極めし者たち……」
「つまり、俺たちの前に四天王の誰かが現れるってことか?」
「まさしく!!! しかも、すでに第一の使徒がこの世界に降り立ったとの報告がある……!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!
不穏な空気が周囲に満ちていく。
「おいおいおい、冗談だろ……」
鬼塚が拳を握りしめる。
「ど、どうしましょう……!」
セリーヌの声も震えている。
だが、ジョンはさらに畳みかけるように続けた。
「……そして、ここからが最も重要な情報だ。第一の使徒は、すでにこの学校内に紛れ込んでいる!!!!」
「なっ……!?」
その瞬間、俺たちの周囲に張り詰めた空気が走る。
「……どういうことだ?」
「つまり、すでに敵はこの学校内に潜んでいるのだ!!」
「ちょ、ちょっと待て!! それじゃあ、誰がその使徒なのかも分かってねぇってことか!?」
「フフフ……それが……分かっているのだよ。」
ジョンはニヤリと笑い、俺たちを見回した。
「第一の使徒……その名は――
『不眠のアザゼル』!!!!」
「不眠……?」
鬼塚が眉をひそめた。
「なんだそりゃ?」
「アザゼルは『怠惰』の堕落を極めし悪魔!! だが、その力が行き過ぎた結果、もはや一睡もできぬ存在となったのだ!!!」
「一睡も……!?」
「そう!!!! 奴は『寝ることができない怠惰』を極めた存在!!!」
「……それ、もう怠惰じゃなくね?」
鬼塚が鋭いツッコミを入れるが、ジョンは真剣な顔を崩さない。
響いてねえんだな。
ある意味すげえわ、こいつ。
「問題はそこではない!! アザゼルの力はすさまじく、周囲の者にまで『不眠』を強制するという厄介極まりない能力を持つのだ!!」
「……まさか……」
俺は思い当たることがあった。
「ここ最近、やたらとクラスの奴らが『眠れない』って言ってたのは……!」
「まさしく!!!! すでにアザゼルの影響が出始めているのだ!!!」
ジョンが力強く頷く。
「くっ……そりゃヤベェな……」
鬼塚が腕を組む。
「ということは、近いうちに奴が姿を現すってことですね……!」
セリーヌが警戒の目を光らせる。
「……いや、違う。」
ジョンは不敵に笑った。
「奴はすでにここにいる。」
「!!!」
その瞬間、教室のドアがギィィ……と音を立てて開いた。
そこに立っていたのは――
無気力そうな目をした一人の男だった。
「……はぁ。やっと授業終わったのか……? もう眠れねぇの、しんどすぎんだろ……」
その男は欠伸をしながら、俺たちを見た。
「うわぁ……お前ら、すげぇ元気そうだな……。こっちはずっと眠れてねぇっつーのに……。マジで、ムカつくわぁ……」
「ま、まさか……」
セリーヌが息をのむ。
ジョンが叫ぶ。
「そう!!! こいつこそが――
第一の使徒、『不眠のアザゼル』!!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
「……頼むから、寝かせてくれよぉ……」
――戦いの幕が上がる。
堕落するまであと91ポイント。