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第15話 第一の使徒

鬼塚がジョンの魔導書を奪い取ろうと暴れる中、俺はふと気づいた。


「……ところで、ジョン。お前、何しに来たんだ?」


「フハハハハ!!! よくぞ聞いた!! 我がここに現れたのは、ある重要な情報を伝えるため……!!」


ジョンはマントを翻し、神妙な顔を作る。

うぜえ。


「重要な情報……?」


セリーヌが首をかしげると、ジョンは腕を組んで頷いた。


「ヴィゼは退いたが、これは終わりではない。次なる試練がすでに始まっているのだ!!!」


「……え?」


俺が眉をひそめると、ジョンは手を掲げ、魔法陣を展開した。


「桜木よ、貴様は知らぬだろう……『堕落の宴』が間近に迫っていることを!!!!」


「だ、堕落の宴……?」


「なんだそりゃ?」


鬼塚がまだ息を荒げながら聞くと、ジョンは得意げに語り始めた。

オタク特有の口調で。


「『堕落の宴』とは、悪魔界において定期的に開かれる一大イベント……すべての悪魔見習いが己の『堕落ポイント』を競い合い、名声と力を手に入れる場なのだ!!!」


「な、何ですって……!?」


セリーヌが驚きに目を見開く。


「ちょ、待てよ。ってことは、また悪魔共が俺たちの前に現れるってことか?」


「その通り!!!!」


ジョンはビシィッと指をさす。


「そしてなんと、次なる試練はすでに決まっている……!! それは――『堕落の使徒』との対決!!!!」


「堕落の使徒……?」


俺が反応すると、ジョンは重々しく頷いた。


「ヴィゼに次ぐ実力を持つ四天王の一角……それが『堕落の使徒』。奴らはそれぞれ異なる堕落の力を極めし者たち……」


「つまり、俺たちの前に四天王の誰かが現れるってことか?」


「まさしく!!! しかも、すでに第一の使徒がこの世界に降り立ったとの報告がある……!!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!


不穏な空気が周囲に満ちていく。


「おいおいおい、冗談だろ……」


鬼塚が拳を握りしめる。


「ど、どうしましょう……!」


セリーヌの声も震えている。


だが、ジョンはさらに畳みかけるように続けた。


「……そして、ここからが最も重要な情報だ。第一の使徒は、すでにこの学校内に紛れ込んでいる!!!!」


「なっ……!?」


その瞬間、俺たちの周囲に張り詰めた空気が走る。


「……どういうことだ?」


「つまり、すでに敵はこの学校内に潜んでいるのだ!!」


「ちょ、ちょっと待て!! それじゃあ、誰がその使徒なのかも分かってねぇってことか!?」


「フフフ……それが……分かっているのだよ。」


ジョンはニヤリと笑い、俺たちを見回した。


「第一の使徒……その名は――


『不眠のアザゼル』!!!!」


「不眠……?」


鬼塚が眉をひそめた。


「なんだそりゃ?」


「アザゼルは『怠惰』の堕落を極めし悪魔!! だが、その力が行き過ぎた結果、もはや一睡もできぬ存在となったのだ!!!」


「一睡も……!?」


「そう!!!! 奴は『寝ることができない怠惰』を極めた存在!!!」


「……それ、もう怠惰じゃなくね?」


鬼塚が鋭いツッコミを入れるが、ジョンは真剣な顔を崩さない。

響いてねえんだな。

ある意味すげえわ、こいつ。


「問題はそこではない!! アザゼルの力はすさまじく、周囲の者にまで『不眠』を強制するという厄介極まりない能力を持つのだ!!」


「……まさか……」


俺は思い当たることがあった。


「ここ最近、やたらとクラスの奴らが『眠れない』って言ってたのは……!」


「まさしく!!!! すでにアザゼルの影響が出始めているのだ!!!」


ジョンが力強く頷く。


「くっ……そりゃヤベェな……」


鬼塚が腕を組む。


「ということは、近いうちに奴が姿を現すってことですね……!」


セリーヌが警戒の目を光らせる。


「……いや、違う。」


ジョンは不敵に笑った。


「奴はすでにここにいる。」


「!!!」


その瞬間、教室のドアがギィィ……と音を立てて開いた。


そこに立っていたのは――


無気力そうな目をした一人の男だった。


「……はぁ。やっと授業終わったのか……? もう眠れねぇの、しんどすぎんだろ……」


その男は欠伸をしながら、俺たちを見た。


「うわぁ……お前ら、すげぇ元気そうだな……。こっちはずっと眠れてねぇっつーのに……。マジで、ムカつくわぁ……」


「ま、まさか……」


セリーヌが息をのむ。


ジョンが叫ぶ。


「そう!!! こいつこそが――


第一の使徒、『不眠のアザゼル』!!!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!


「……頼むから、寝かせてくれよぉ……」


――戦いの幕が上がる。


堕落するまであと91ポイント。

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