アリアとシンが分かり合い二つの世界が永久機関により持続可能となった翌日。
早すぎるかも知れないが守は二人をあるイベントに誘った。
「これがライブハウスか……」
アリアと共にライブハウスにやって来たシンは見た事のない光景に思わず辺りを見回してしまう。
「明日から色々手続きで忙しくなるから今日は思いっきり楽しんでね」
はしゃぐシンを微笑みながら見るアリア。
弟がこのように楽しめている様子を見ると胸に込み上げるものがある。
「あ、モモさーん!」
客席には既にモモの姿があった。
彼女が来る事は守から聞いていたので知っていた。
「アリアちゃん……!」
元気そうなアリアの姿を目にしたモモは守が果たした事を強く実感する。
無邪気な笑顔で駆け寄って来るアリアを強く受け止めて抱きしめる。
「あははっ、痛いですよっ」
アリアを抱きしめ続けるモモは彼女の肩に顔を埋めて少し震えている。
そしてしばらくしてから少し赤く腫れた目を見せてアリアとシンに告げた。
「さ、そろそろ始まるよ!」
そして暗くなる客席。
観客の小さな歓声が辺りから聞こえて来る。
遂にステージの幕が降り、最高の演奏が始まるのだった。
☆
ステージの中央にスポットライトが当てられる。
そこには右手のギプスもすっかり外れギターを構えながらマイクの前に立つ守の姿が。
「すぅぅ……」
深呼吸をした後、守はマイクに向かって語りかける。
その際、客席にいる大切な人々に目を配った。
『えー、今日はこのイベントに足を運んで下さりありがとうございます』
バックにバンドメンバーであるスグル達を従えながら客席のアリアやモモ、シンまでも見つめる。
『ありきたりなこと言いますが今俺がここに立ってるのは関わって来てくれた皆さんのお陰です』
そう言った際に見ていたのは客席の後ろの方で優しく見守ってくれている両親の姿。
彼らも守と向き合い今日この場に鑑賞に来たのだ。
『最近本当に色々あって落ち込んだりしましたけど……俺は幸せです、というよりずっとそこにあった幸せをつかめました』
そして客席だけでない、ライブハウスの楽屋から顔を覗かせている対バン相手のかつて守が所属していた陰キャバンドの面々も関心していた。
『えっとそんで……』
気持ちを思うがままに伝えているが言葉に詰まってしまう。
だからこそ早速音楽を始めようとした。
『あーやっぱ良いわ、伝えたい事は全部曲にノせてるので感じ取ってください!』
そしてギターを大きく掻き鳴らした。
それに合わせてメンバーも思い思いのフレーズを掻き鳴らし始める。
その中でスグルはずっと守を見つめていた。
「(ちゃんとギター返せて良かったよ……!)」
事情は知らないが守がこのまま居なくなってしまうような危うい予感はしていた。
しかしこうして帰って来てくれて預かっていたギターを返せた事が喜ばしい。
『じゃあ行くぜ、全てはここから始まった!』
そして遂に曲が始まる。
守がアリアとの旅で感じた全てを込めた曲が。
『ボーイミーツガール』
☆
優しくも激しい、まるで全てを包み込んでくれるようなロックが奏でられる。
今の守にしか作れない彼自身が篭った楽曲が始まった。
『青かった春はもう何処にもない』
彼自身を体現したような声で歌が始まる。
『辺り一面灰色になった今じゃ遅いよな』
歌を聴いているアリアの脳裏にはこれまでの旅がフラッシュバックしていく。
『ぷかぷかと浮かぶ瓦礫の上、背伸びして取り繕うだけ』
思えば守が体育祭でやったバンド演奏により全てが始まった。
これはあの時とデジャヴ、つまり新たな一歩が動き出すという事なのだ。
『見たくもない景色 両目を塞いでもすり抜ける瞼、意味なんてない』
モモや両親、かつてのバンドメンバー達も楽曲から守の成長を感じ取っていた。
『もういっそ何処からともなく雪崩で全部壊しておくれ』
そして曲はサビへ。
守とシンは一瞬だけ目が合った気がした。
その一瞬で、シンの瞳にも光が宿ったのだ。
『少年少女、罪を抱け もう後には戻れない』
初めは守の想いを感じていた観客の一同もサビに入ると共にノリ始める。
全てのしがらみを超え彼らは一つになっていた。
『不安だろう色を思えないだろう、だが確かに青かった春はそこにある』
一同の盛り上がりをシンも肌で感じ取っていた。
段々と彼の体もリズムに乗って来る。
『少年少女、自由とは 全てを成した後に着いてくる』
気がつくとシンは思い切り笑顔で踊っていた。
アリアもその姿を見て共に踊り出す。
『今までは全て無駄なんかじゃない、受け入れる覚悟が出来たなら』
その場にいる全員がお互いの顔を見合わせて共に守の想いに共鳴している。
そして曲は最後のフレーズへ。
『さぁ応えてくれ!』
これこそが守の伝えたかったメッセージ。
アリアと共に旅をして見つけた真理なのである。
アウトロでは演者と客が完全に一体化していた。
そして最後に守の盛大なギターソロによりこの曲は締め括られる。
『はぁ、はぁ……!』
演奏が終わった後、鳴り止まぬ歓声を浴びながら守は実感していた。
今まさに守の目の前に広がっている光景こそ。
守が、この世界が長年追い求めて来た自由なのである。
『ありがとぉぉーーーっ!!!』
Call Me ARIA. episode FINAL
終演