更に激化していく戦いの中でアリアは覚醒したシンに苦戦していた。
首根っこを掴まれ壁に叩き付けられては苦しむ事しか出来ていない。
『ぁがッ、シン……』
自身の首根っこを掴むシンの腕を優しく握るアリア。
するとシンも反応を見せる。
『どうした、今更命乞いでもするのか?』
冷たい反応を見せるシンに対してアリアは常に温かさを抱こうと必死である。
問題はそれがシンに伝わらない事なのだ。
『何で見てくれないのっ? 貴方を肯定してる人がここにいるのに……っ!』
まるで自分の事を指すように両手でシンの腕を掴みながら言うアリア。
首を絞められ声は上手く出せないが魂は叫んでいた。
『何を言ってる、お前は俺を否定しているだろ……っ!』
それでもシンには届かない。
いや、むしろ彼は拒絶しているのである。
『ようやく肯定してくれる存在に出会えるんだ、それを止めようとするお前は……!』
拒絶と否定を続けるシンにアリアはとうとう力を振り絞り想いをぶつける。
『必要ないよ! だってここにも居るから、ちゃんと貴方を見てる人が!』
『っ⁈』
『私は罪の権化じゃない本当の貴方を見てる、それにお母さんだって……!』
母の話題を出した途端シンの力が弱まった気がした。
その隙を突いてアリアはシンの首に足を掛け投げ飛ばす。
『ぐっ……』
そして起き上がった両者は互角の戦いを繰り広げながら想いを吐露していくのだ。
『何故ここで母が出てくる⁈ ヤツこそ俺を否定した、そんなヤツが肯定しているだと⁈』
『確かにお母さんは貴方が罪そのものである事は否定したよっ、でもそれは本当の貴方を見つけて欲しかったから!』
シンの心が徐々に揺らいで行くのが分かる。
『本当の俺っ⁈ それは罪として生まれた事だ!』
『お願い話を聞いてよ! 罪として生まれたのは私も同じ、でも私は見つけたよ!』
まだセイント・マリアとしてM'sシステムに戦わされていた時の事を思い出すアリア。
その時から憧れていた事、そして守と出会った事で確信へと変わった事。
『本当の私は普通の女の子っ! だから貴方だってきっと……普通の男の子、私の弟なんだよっ!』
守と一緒にいて気付いた事、函館山の夜景を見た時に話した事は間違っていなかった。
アリアの魂の叫びを聞いて思わず歯軋りをしてしまうシンは更に凄まじい攻撃を繰り出した。
『〜っ!』
『ぐっ……』
少し押され気味のアリアに揺れる想いを攻撃へと変えてぶつけて行く。
『そんな事がっ、あるものかぁぁぁっ!』
口ではそう言っているが脳裏に浮かぶのは母に服を買ってもらいご飯を食べさせてもらった記憶。
その時に感じた他者との繋がりが自分の求める肯定なのではないかと過ってしまう。
それでもシンはその事実を認めたくなかった。
『うわぁぁぁぁっ!』
凄まじい罪のエネルギーを一気に放つシン。
しかしアリアは罪を浄化する技を全力で放ちそれを相殺した。
『もう気付いてるんでしょ、本当の自分……!』
相殺されたエネルギーが弾け飛ぶ隙間から覗いたアリアが問い掛ける。
『そして一番それを否定してるのも自分だって……!』
シンの心はどんどん溶けていく。
しかし当の本人がそれを認めたくないのだ。
『そん、な……はずがぁ……っ!』
アリアの顔がよく見えない。
シンは無意識の内に涙を流してしまっていた。
「あとひと押しだ、魅せてくれセイント・マリア……いや、アリアよ……!」
その様子を見ていた聖王も昂りを抑えられない。
守もアリアが自分との行動の果てに答えを導き出した事に気付き感激していた。
「(俺、何も出来なくなんかなかった……! アリアさんのためになれてたんだ……!)」
その場にいる存在、シン以外の者は全員が自分自身を肯定できていた。
☆
気持ちが揺らぐシンを前にアリアは戦いの最終段階を確信する。
どうにも出来ない想いを爆発させるシンだがしっかり自分を確立させ自由の意味を見出したアリアにはもう敵わなかった。
『グゥゥアガァァッ!』
大量のレーザーや泡による攻撃を一度に放つがアリアはそれらに全て適切な対処をし防いだ。
泡は光の刃で切り裂き、レーザーは逆に泡に閉じ込めシンに跳ね返す。
『ハァァッ!』
始まった激しい反撃に対しシンはもう何も出来なかった。
『クソッ、ぐぅっ……!』
それでも抗い続けている。
まだ自分を信じられない、信じたくない。
これまでが覆ってしまうのが怖いのだ。
『ハッ、はっ……』
母が自分と向き合ってくれていたのなら、自分が自分を肯定できなかった事によりそれを感じられなかったのなら。
自分は何て事をしてしまったのだろう。
今でもナイフで母の胸を貫いた感覚を鮮明に思い出せる。
『ごめ、……んねっ……』
最期まで謝り続けた母。
その意図がようやく分かったような気がする。
お互い不器用だったのだ、自分を肯定できないから他人への肯定を伝える術が分からなかった。
『母さんっ……!』
思わず母を呼んでしまうシン。
そこにもうアリアへの攻撃意識は感じられなかった。
『行くよ、シン……!』
そのままアリアはニュー・オーダーの体の奥にあるシン自身の心を目掛けて手を伸ばす。
そしてその胸に手を当ててから全身で優しく包み込むように抱きしめた。
その瞬間辺りに眩い光が放たれ、シンとアリアの二人はまるで新たな秩序を生み出すかのように卵を模ったのだ。
☆
二人はアリアの罪を浄化する光の中で語り合っていた。
初めてアリアとシンは罪の子供ではなく純粋な双子の姉弟として向かい合ったのだ。
「これが……自由の光か?」
「そうだよ、私も知ったばっかだけど良いものでしょ……?」
「悪くない……だが俺は気付くのが遅すぎた」
周囲には二人の記憶が映像のように写されている。
そこでは多くの犠牲になった者たちの姿が。
「うん、本当は早いも遅いもないとか言いたいけど……この犠牲を否定する事になっちゃうから」
しかし一方でアリアも気付いた事がある。
「でも結果私たちは話し合えてる、全部が全部悪かった訳じゃないよね……」
「あぁ……」
シンは写されている情景に母と自分が旅をしている姿を見つけて少し後悔するような表情を浮かべる。
「傷付けた罪は消えない、だがそれが無ければ気付けなかったのかも知れない」
「だからそれを抱きしめて次に繋げるんだよ」
「……そうらしいな」
シンはただアリアの言った事に対して返事をしているだけに過ぎない。
しかしそれでもアリアの心にはしっかり彼が真実を理解しているという事が届いていた。
「本当よかったよ、ここまで来れて……」
儚げに呟くアリアへシンは尋ねる。
彼女の背後で写されている映像についてだ。
「あの少年のお陰か、彼に出会ってお前は変わった」
「うん、本当の私を見てくれた人だよ」
「今なら見分けられるだろうか、本当の俺を見てくれる人を……」
「きっと出来る、すぐに出会えるよ」
そしてシンに向かって手を伸ばすアリア。
「だから行こう、一緒に!」
その手をシンは取り、共に新たなる世界へ向かうのだった。
***
外のM'sシステム本部内では守と聖王が卵のような姿と化した二人を見つめていた。
するとその卵のような存在は突然光だし動き出す。
「何が起こっている……?」
興味深そうに眺めている聖王の隣で守は微笑んでいた。
「帰って来たんですよ」
その瞬間、その卵にピキピキと亀裂が入る。
少しずつ中から光が漏れ出し孵化しようとしているのが分かった。
「ははっ!」
守は大喜びで走り出す。
そして遂に卵は割れ、中から二人が飛び出して来た。
「ぷはっ……!」
アリアとシンが手を取り合いながら卵から孵化したのである。
「アリアさぁーんっ!」
走る守はそのままアリアの方へ向かう。
それに気付いたアリアも守を受け入れた。
「守クンっ!」
二人は強く抱擁を交わす。
その様子を近くでシンが見つめていた、彼も優しく微笑んでいる。
「凄い、これは……!」
モニターで様子を見ていた研究員たち。
その代表がデータを見て声を上げる。
「彼女たちは完全に"分離"された、その上で卵のようなものは残っている……つまり!」
他の一同もその意味を理解し高揚している。
「永久機関が完成したんだ……!」
外なる理へ送るエネルギーはもう二度と尽きない。
そのようなものがこの世界に存在するため消す訳にもいかない。
つまりアリア達が苦しまずとも世界は続いていく事が確定したのだ。
「おぉっ!」
研究員たちはみな喜んでいる。
それは聖王も同様だった。
「これが自由か、想像以上だ……」
そして彼らに挨拶もしないまま振り返り去っていく。
「また会おう英雄たち、我々とこの世界の繋がりがある限りな」
そして聖王は居なくなった。
ただその場にはこの世界に生きるべき者たちのみが残された。
寧ろ全ての存在がこの世界で生きるべきなのである。
次回、エピローグ。