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#3

 7体全てが現れたシナーの軍勢にアリアは変身しても尚、苦戦を強いられていた。

 当然だろう、遅い来る6体のシナー達の奥にいるのは第7のシナーである傲慢のルシファーなのだから。

 アリアの力はあの時と同じように抑えられてしまっているのだ。


『ぐっ、こんなの無理だって……っ!』


 精神的にもまだ弱っている事もあり思わず弱気になってしまうアリアはシナー達に一方的にやられていた。


「戦いに集中できてない……っ⁈」


 側で見ていた守も彼女の様子を見て状況を察していた。

 そんな彼にシナーの魔の手が迫る。


「ギィィイインッ」


 嫉妬のリヴァイアサンの力により一度に多くのシャボン玉のようなものが放たれる。

 それはアリアだけでなく守にまで届いてしまいそうだった。


『ダメッ!』


 慌てて守の前に飛び出したアリアは彼を庇うように泡の攻撃を思い切り喰らってしまう。

 泡にその体を閉じ込められ更にリンチ状態に遭ってしまった。


『あがぅっ……』


 噛みつかれ殴られ蹴られ一気に大ダメージを負い更には吹き飛ばされ大きな柱に背中から叩き付けられてしまうアリア。


「ウゴォォォッ!」


 6本の腕をした憤怒のサタンがそこから更に突っ込んで来て拳を連続で叩きつけようとして来る。


『クッ……』


 アリアは直前で反応し何とかその攻撃を避ける事に成功した。

 しかしサタンの拳は柱に直撃しそこに大きな亀裂を走らせる。


「ヴォオオオオッ」


 尚も迫るサタン。

 それでもアリアは何とか奮闘しサタンに思い切り背負い投げを喰らわせる。


『ハァァッ……!』


 今度は逆に地面に叩きつけられてしまうサタン。

 少し報いる事が出来たと思うアリアだがそこで予想外の事態が起こる。


「え……っ⁈」


 なんとたった今サタンにより殴られた柱の亀裂が少しずつ大きくなり今にも崩れてしまいそうなのだ。


「やばい、柱が崩れたら……!」


 このままではこの広い空間の天井が崩落し守は巻き込まれて命はないだろう。

 そしてアリアもその事態に気付いていた。


『守クンっ!』


 慌てて駆け出すアリア。

 それと同時に天井も崩落を始めてしまった。


「うわぁぁぁっ……!」


 崩落する天井に巻き込まれる二人。

 アリアは守を庇うように崩れる天井の下敷きになってしまった。





 しばらく沈黙が訪れる。

 M'sシステム本部内にある地下の空洞は天井が崩落し下にいた者たちは巻き添えを喰らってしまった。


「うっ、うぅ……」


 煤だらけの顔で守は目を覚ます。

 気がつくと辺りは瓦礫に囲まれておりシナーの姿も見えなくなっていた。


「あっ、アリアさんはっ⁈」


 周囲を見渡しアリアの姿を探す。

 そしてすぐに彼女の姿を見つけた。


「だ、大丈夫ですか……っ⁈」


 アリアは瓦礫の下敷きになっていた。

 近くの鉄柱を広い梃子の原理で瓦礫を退かしアリアを救う。

 彼女に大きな怪我はなかったが精神がかなり弱っているようだった。


「守クンごめんなさい、せっかく来てくれたのに……っ」


「何で謝るんですかっ、まだ終わってないって……!」


 内心で諦めかけているアリアを見て悲しくなってしまう守、そのタイミングで離れた所から瓦礫が退かされる音が聞こえる。


「なっ⁈」


 なんとシナーは一体も倒れていなかった。

 瓦礫を退かし次々と立ち上がる。


「グォォォ……ッ」


 しかしダメージは負っているようで中々動くのが辛そうだ。

 それでもアリアが今はこの調子でなのでこのままでは当然勝ち目はない。


「私から出た罪なんだね、やっぱり罪には苦しめられるよ……」


 守の腕に抱きかかえられながらアリアは言う。

 確かに今対峙しているシナーは彼女から抽出された、いわば彼女の罪そのものと言って良い存在だろう。


「気付いたんだ、私だけ償って自由になっちゃいけないって……大勢傷付けて来たのにっ」


 守はアリアを抱えながら話を聞いている。


「それなのにっ、また守クンを巻き込んじゃって……ごめんなさい、君には本当に辛い想いをさせちゃった」


 彼との思い出を振り返るとかなり人生に辛い影響を与えてしまっていた事が分かる。


「私の身勝手に巻き込んで……今だって死ぬかも知れないのにっ、こんなの許される訳がないのにね……っ」


 その言葉を聞いた守は冷静にアリアに問う。


「それで償い切れないと思ったんですか……?」


 アリアも真剣に守の問いに答えた。


「これだけの罪が帳消しになる訳がない、だから何度でもシナーが出てそれに倒されちゃうんだ……!」


 アリアの半分自暴自棄になっているような声を聞いた守は一度彼女を目の前に座らせる。


「……っ?」


 そして向かい合うような姿勢をとり彼女に想いを伝えるのだった。


「俺、貴女がいない1ヶ月を過ごして色々思いました。凄い空虚な日々だった、でも貴女を思い出して音楽をやった途端にやっぱり俺の生きる理由は貴女だって思えたんです」


「えぇ……?」


「もし貴女が俺に罪悪感を覚えていて罪を償いたいって言うんなら、俺のために自由になって下さい。それが俺のために出来る償いです」


 しかしその言葉を聞いても尚アリアは悩んでしまう。


「でも罪はそれだけじゃない、私なんかに償い切れる量じゃないよ……」


 そこで守はモモと話した内容を思い出しそれを踏まえて言葉を紡ぐのだ。


「気付いたんですよ、罪には償う他にやらなきゃいけない事がある」


「何、それ……?」


「抱きしめる事です。確かに罪は消えないけど背負って苦しむんじゃない、抱きしめて自分の一部にするんですよ」


 モモが言っていた事に更に自分の見解を挟んだ。


「そうする事でそこから学んで次に活かせる、そして次に成功してこそ償いになると思いませんか?」


「守クン……っ」


「人が罪を犯すのは仕方ないですよ、かと言って大きすぎる罪はアレですけど……でも学んで次に活かす事で償えるって事は変わらないと思うんです!」


 そして最後にアリアに対する想いを伝えた。


「俺は必死に罪を償おうとする貴女が大好きです、だからこれからも俺の大好きなアリアさんでいて下さい!」


 守の告白とも受け取れる言葉を聞いたアリアは思わず涙を流してしまっていた。


「うんっ、ありがと……っ! 私も大好きだよっ」


「えっ」


 告白を返したアリアは守のリアクションを見ないまま涙を拭いゆっくりと立ち上がる。


「そうだ、私には最初から出来る事があった……! それをする意味がようやく分かったよっ」


 そしてアリアはシナー達に向かってゆっくりと歩き出しその姿を変えていく。

 もう一度巨大な姿へと戻ったアリアはシナー達を睨むのではなく優しく微笑みかけた。


『私に宿ってた本当の力、こういう意味だったんだね』


 そしてアリアは封印していたあの力を使う事を選んだ。

 それはまだM'sに管理されていた頃、罪を浄化しこの身に宿すために使った技。


『ハァァァ……ッ』


 初めは苦しいだけの力だった、組織からの押し付けで使っていた力を自分の意志で使う時が来たのだ。


「グオォッ……⁈」


 しかしシナー7体分の力は凄まじく一気に浄化する事は不可能だった。

 まだ抵抗するシナー達の力にたじろいでいると。


『ッ……⁈ 突然力が?』


 何故か急にシナーの力が弱まった気がした。

 このまま浄化できてしまいそうなほど相手の力は弱っている。


「何で……?」


 二人はその意味が分かっていなかった。

 しかしそれには明確な意味があったのだ。


 ***


 本部の研究室ではこの世界に生きる研究員たちが必死にコンピュータを動かしていた。

 指揮を執るのは代表の研究員。

 モニターにはシナーの力が表示されている。


「全シナーの弱体化完了しました!」


「よしっ、このままやってくれアリア……!」


 なんとシナーを召喚し操っていた彼らが遠隔操作でシナーを弱体化させていたのだった。

 その隙にアリアがやってくれる事を望んで。


 ***


 そのままアリアは浄化の力を強めて行きシナー達は光と成っていく。


『私の罪たち、一緒に生きよう』


 そう言ったアリアに罪たちが変化した光が纏わりついていく。

 そしてその光はアリアの姿を徐々に変えていくのだった。


「おぉっ、これは……!」


 モニターで様子を確認していた聖王も興奮している。

 そしてアリアが生み出した新たな概念をこう名付けた。


「これが罪を抱いた新たなる概念、"自由"だ!」


 白く輝く神々しい姿をしたアリアは罪を浄化しその身に宿し終えてその姿を人間のものに戻した。

 そして守へと歩み寄っていく。


「ありがとう守クン、これが本当の私なんだね」


「はい……!」


 力強いアリアの言葉を聞いた守は次の彼女の言葉を待った、そして彼女は更なる言葉を紡いだのだ。


「じゃあ行こう、もう一人抱きしめてやらなきゃいけない罪がいる」


 そして二人は歩き出した。

 先に進み、全てに決着をつけるために。





 そして歩き出したアリアたちはある部屋に向かっていた。

 そして大きな扉を開けると巨大な研究室のような所に出た。

 その部屋の中央に聳える椅子のような所に彼はいた。


「シン、来たよ」


 椅子に座るシンは凄まじいオーラを放ちながらアリアと守の顔を交互に見た。


「阿部マリア……いや、アリアと呼べばいいのか?」


 どこか寂しいような苦しいような表情を浮かべたシンはアリアの名を呼び自分との差を感じたのだった。






 Next, Final episode.


 つづく

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