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#1

 M'sシステムの本部までやって来た守は遂に全てのトップである聖王と対面した。

 彼が全てを仕組んだ、というより今の状態を作り上げた人物なのだ。

 そう意識して彼の目を見るとその威圧感に圧倒されてしまった。


「どうしたイレギュラーよ、何か用があるのではないのか?」


 聖王の方から話を振ってくれた。

 なので守も我に返り聞きたかった事を思い出す。


「あのっ、アリアさんはどこですか……⁈」


 恐る恐る質問をした守に対してニヤリと笑った。

 そして求める解答を示すのだった。


「やはりマリアを取り戻そうと考えたか、良かろう」


 すると聖王は自らの周囲にホログラムのモニター画面のようなものを出現させ現状を解説し始めた。


「答えよう、セイント・マリアの現在の用途を」


 守は固唾を飲み込みながらその話を食い入るように聞くのだった。








Call Me ARIA. episode10








 聖王はホログラムのようなモニターを操作し守へ見せる。

 それはあるデータのようだった。


「返す前に君には知ってもらいたい。彼女が現在何をしているのか、そして我々にとってのゴールを」


 そのデータには七つのグラフが表示されておりそれぞれに数字が振られていた。


「我々、外なる理が何を求めているか分かるか? 何故罪を欲しがるのか。それは不完全な生命体が生み出す新たな概念を求めているからだよ」


 そこから外なる理の説明を始めた。


「我々は完全な生命だ、肉体を捨て概念と成った。これで不滅となったはずなんだがな、概念と成った我々が生きるエネルギーとして新たな概念が必要となってしまった」


 そのデータには宇宙のような光景が映されている。


「完全な生命とは裏を返せばそれ以上変わる事がないという事だ、そんな我々が新たな概念を生み出す方法として考えたのが不完全な生命を創る事だった」


 そしてモニターには地球で人類が進化していく様子が。


「見事に不完全な生命は互いを憎み合い"罪"という概念を生み出してくれた、それを糧とし我々は生きながらえる事が出来たのだ」


 それに対し守は質問を投げかけた。


「貴方たちが人類を創ったって事ですか……?」


 その問いに対し聖王は守がショックを受けているのを察したのか出来る限りの憐れみを抱いて答えた。


「その通りだ、我々の糧を提供するために創り出された存在……」


 次に映ったのは歴代のセイント・マリア達が祈りを捧げる様子。

 それは大勢の大人たちに囲まれ何の自由もない生活を強いられているように見えた。


「彼女たちが祈りを捧げる事で君たちは生存して来た、我々との等価交換だ。しかし君が彼女を誑かし世界の均衡は崩されてしまった……」


 口ではそう言っているがとても守を責めているようには聞こえなかった、続く言葉に答えがあるのかも知れない。


「しかしそのお陰か我々は罪に代わる新たな概念を知る事が出来た、それが大罪を倒す事により得られる"正義"。その化身となったシンを外なる理に届ける事が出来れば我々は安泰なのだよ」


「でもその代わり、この世界が必要なくなるんでしょう……?」


「あぁ、このままではな」


「え……?」


 聖王の言葉に守は思わず疑問を抱いてしまう。

 何かこの世界を維持する術があるとでも言うのだろうか。


「これまで我々が糧とした罪、そして新たな概念である正義。新たに生まれた後者の方が大きなエネルギーなのだ、正義は罪あってこそ成り立つものだからな」


「っ……」


「本来ならば早速正義を外なる理へ送りたいものなのだが、君によりセイント・マリアが更に新たなる概念を生み出す可能性に直面している」


「え、それって……」


 そして聖王は遂にアリアの現状を語り出す。

 まるで守を試しているかのようであった。


「待たせたな、マリアの現状を教えよう。彼女は現在シンの代わりにシナーを生み出し彼に取り込ませている、そのうちシンはマリアと同程度の存在となりその身を外なる理へ向かわせる力を得るだろう」


 モニターの映像にはかつてのシンのようにアリアが薬液に漬けられてその身に宿している罪を抽出されている様子が映されていた。


「アリアさんっ!」


 彼女の現状を知り慌ててしまう守。


「今どこにいるんですか……っ⁈」


 聖王を睨んで居所を聞き出そうとした守。

 すると聖王はしっかり答えてくれた。


「……彼女の居場所はここだ、ただ最後に言わせてくれ」


 モニターに館内の地図が映されアリアの居場所が表示される。


「私は試したいのだ。このままシンに委ねるか、マリアが新概念を生み出すか。この世界の命運は今かかっている」


 しかし守はその言葉を聞かぬまま走って部屋から飛び出して行ってしまった。

 何よりもアリアが心配だったのだろう。


「……世界より彼女自身を選ぶか」


 去って行く守の背中を見送ってから聖王は小さく呟いた。

 彼の胸は少し躍っているようであった。

 完全であるはずの外なる理、生きるエネルギーさえあれば良いと思っていた。

 しかしこの胸の高鳴りは何だろう、生まれて以降知らない感情が湧き出ているような気がする。


「……私も楽しみなのだな、罪を超えた新たな概念が生まれる瞬間が」


 そう言って聖王は施設内のある場所に連絡を入れた。





 聖王からの連絡を受けたのはかつてクラウスの下でシンから罪を抽出していた研究員たち。

 今は逆にアリアから新たな罪を抽出している。


「少年にマリアは明け渡すように、しかしそこから逃げる彼らを抽出したシナーを操り追えとの事だ……」


 聖王は彼らにも役割を与えていた。

 やはり守とアリアが新たなる概念を誕生させる所を見たいらしい。


「……聖王さまからの連絡は以上となる」


 聖王からの連絡を受けた代表の研究員が仲間たちに内容を報告する。

 暗い顔をした仲間たちに対し代表は心も代弁するかのように言った。


「何で俺たちこんな事やってるんだろうな、自分たちが生きる世界を守るためと思ったのにこんな……」


 彼らも彼らで現状には悩んでいたのだ。

 すると仲間たちも口を開いた。


「まだ子供な二人を犠牲にして来たのも……辛かったけどこの世界のためだって割り切って来たのに、聖王の気まぐれのためにやるのか」


「しかもそれでダメならこの世界は見捨てられるんでしょう? 尚更救いがないっす」


 彼らは普通に生きるこの世界の住人である。

 そのため外なる理に従い世界を見捨てるか否かの戦いに巻き込まれる事が不満だったのだ。


「はぁ、どうすりゃ良いんだ……」


 そんな風に悩んでいると研究室の扉が力強く開いた。

 向こうから現れたのは予想通りの少年である。


「はぁ、はぁ……アリアさん!」


 守は大切な彼女が漬けられている装置へ駆け寄り研究員にお願いをした。


「お願いですっ、ここから出してあげて下さいっ!」


「あ、あぁ……っ」


 その気迫に圧倒されてしまった代表は思わずコンピュータを操作し不覚にも聖王の指示通りにアリアを解放してしまった。


「代表っ!」


 他の研究員たちもまだ考えが纏っていなかったため少し焦るがもう遅い。

 装置の蓋は開かれ中に満たされた薬液は溢れた。

 そこから現れたのは少女の姿。

 アリアの体を守は思わず強く抱き締めてしまった。


「アリアさんっ!」


 自身の上着をその場で脱ぎアリアにかけてあげる。

 そしてアリアは守の腕の中で目を覚ますのだった。






 つづく

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