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#3

 数日後、ライブが始まった。

 舞台袖で守は自分の出番を待っている。

 ステージでは既にスグル達のバンドが演奏をしていた、一度バズった事もあり客はそこそこ来ていた。


「ふぅ……」


 深呼吸をする守は覚悟を決める。

 そして遂に自分の出番が訪れる、痛み止めを飲んだ後にギターを抱えてステージの上にあがった。


「っ……」


 ライブハウスのステージに立つのは初めてだ。

 照明が熱く眩しく、初めは目が慣れなかった。

 しかし徐々に慣れて行くと観客の姿が見える、その中にモモもいた。

 だからこそ守はもう一度覚悟を決めてまずスピーチをするのだった。


『こんにちは、神崎守です』


 マイクに向かって話しかけた途端に観客は一斉に守に注目した、次の言葉を待つ中で守は一人ひとりの顔をしっかり見た。


『ちょっと暗い話になっちゃいますが俺が今日ここに立っている理由を聞いて下さい』


 もう一度軽く深呼吸をしマイクに向かって語り出す。


『俺は自由になりたかった、だから向き合うべき事から逃げました。両親だったり好きな人だったり、その人達の気持ちを考えず自分ばかり優先してた』


 モモも守の様子を見守っている。


『その結果何もかも失って……そうしないと気付けなかったんです、どうすれば良かったのか』


 そして脳裏に浮かぶのは両親の姿。

 更には篤人の遺体と向き合う彼の両親の姿も。


『それでも……今更だけどその人達は受け入れてくれた、だからまだ遅くないって思えたんです』


 最後に向き合うべき相手、アリアの姿も思い出す。


『俺は罪を犯しました、でもまだ償える。まだ向き合うべき人がいる、自由になるのはそれを果たしてからだ』


 そしてギターの音量を上げ、音をチェックし構える。

 演奏の準備に入ったのだ。


『これは俺の覚悟の証です、今の話を踏まえて聞いてくれると嬉しいです』


 その言葉と共に照明が一度暗くなりドラムのカウントが行われる。

 メンバー全員が一斉に楽器を掻き鳴らしたと同時にもう一度照明が点いた。


『イェアッ!』


 ギターを掻き鳴らしながらマイクに向かってシャウトする守。

 彼の頭には愛する者の普通の笑顔が。

 アリアが自由を謳歌する姿が自分目線で映っていた。

 こうなれば右手の痛みなど関係ない、固定をしているガーゼを破壊してしまいそうな勢いで守はギターを掻き鳴らしていた。


「(やっぱ凄いよ君……!)」


 彼の演奏を見ていたモモは圧倒されていた。

 前のリハーサルの時から確かに才能はあると思っていた、しかしアリアや他の人との向き合い方や自由の意味を理解した守の演奏はまた格段にレベルが上がっていた。

 込められた魂の強さと言えば良いのだろうか。


『ありがとうございましたっ……!』


 演奏が終わった後、来てくれた客に全力でお辞儀をする守に一同の拍手は止まらなかった。





 守は今になって右手が少し痛んだ。

 左手で押さえながら少しはしゃぎ過ぎたと笑ってしまう。


「いってぇ〜」


「大丈夫〜?」


 モモは笑いながら痛みに悶える守を見ていた。

 一方で自分たちの出番が終わった後、スグル達は打ち上げの話をしていた。

 当然ながら守も誘う話をしていると彼は答える。


「なぁ、神崎も打ち上げ行くだろ?」


「ごめん、俺これから行く所があるんだ」


 その言葉を聞いたスグルは事情を察する。

 守のスピーチから考えられる事、それは向き合いに行く事だろう。


「お? まさかあの人の所か?」


 突然肩を組んで来て小声で尋ねるスグル。

 まるで学祭のために練習していた時のようだった。


「まぁそうだな……」


 かつてスグルはアリアのあばずれた噂を聞いて敬遠していた、しかし今は好意的にも見える。


「そうか、頑張れよ」


「うん……」


「前はその人のこと否定しちまったのごめんな、お前が言ったように俺はお前と向き合うよ」


 以前の事を謝罪し更に守の言葉をも理解してくれたスグル。

 すぐに守は感謝を覚え彼と固い握手を交わした。


「ありがとう、祈っててくれ」


 そして守はある事を思い付く。

 背負っていたギターをスグルに手渡したのだ。


「これは?」


「ちょっとまた長旅になるかも知れないから預かってて欲しいんだ」


 それは守の覚悟そのものだった。

 渡されたギター越しにスグルは守の熱い気持ちを感じている。


「……分かったよ、じゃあまた学校でな!」


「あぁ!」


 去ろうとして振り返る守。

 そんな彼の背中にスグルが語りかけた。


「神崎! またすぐにライブあるんだ、そこにも出てくれるか⁈」


 次のライブへの誘いだった。

 それを聞いた守は一度立ち上がり背中を見せたままサムズアップをし約束をしたのだ。


「よっしゃ」


 こうして守はライブハウスを後にした。

 そのまま駅へと向かって行くのだった。


 ***


 駅に向かう道中はモモと一緒だった。

 なので彼女と少し話している。


「本当に一人で大丈夫?」


「はい、これは俺の問題なので」


 そして篤人の葬式の件にも感謝をする。

 そのお陰で気付けたのだから。


「篤人さんの葬式に誘ってくれてありがとうございます、それが無かったら……」


「ううん、君は自分で気付けてたと思うよ。だって心から大好きな人がいるんだもん」


 モモは自分が篤人の両親と向き合えた事と重ねて守を励ます。


「うん、そうっすよね」


 そして駅に辿り着いた後、守との一時の別れを告げる。


「じゃあ待ってるからね、次のライブまでなら私もいるからさ」


「はい、絶対帰って来ますよ」


 モモは守が向かう所を理解していた。

 だからこそ危険も熟知していたのだ。


「うん、やっぱ良いよ君! 今のアリアちゃんに必要なものが分かってる、これなら次のライブでアリアちゃんもイチコロだね!」


「はい。最初は同じ逃げる気持ちだったけど途中から向き合おうとした彼女とすれ違って、でも今はまた同じ気持ちです」


 こうして守は切符を買いモモに別れを告げある場所の最寄駅まで向かうのだった。





 夜も遅い中で守は一人覚悟を決めて電車に揺られている。

 周囲には疲れて寝ているサラリーマンやOLの姿が。

 その者たちと比べても守の様子は少し異様に見えた。


「はい、お願いします」


 電車を降りた後はタクシーに乗り行ける所まで乗せていってもらう。

 運転手のおじさんは守がこんな時間に向かう場所を聞いて驚いていた。


「はい、ここで良いです」


「こんな時間に高校生がM'sシステムに何の用だい?」


 守がやって来たのはM'sシステムの本部だった。

 大きく聳え立つ研究所のような建物に守も少し驚いている。


「何やってるかよく分かんない会社だけど親御さんでも働いてんのかい?」


 お金を払い降りた守は運転手に一言で伝えた。



「好きな人を……ついでに世界も救いに行くんです」



 少しカッコつけてしまったが後悔はしていない。

 何故なら今の発言に何も間違った所は無いのだから。

 そのまま守はM'sシステムの本部に入りアリアを探すのだ。

 彼女はきっとここにいる、居なくても何か情報は手に入るだろう。

 その想いで無謀にも正面から入るのだった。





 M'sシステム本部に入った守。

 既に組織に顔は割れているためいきなり攻撃されるかも知れないという覚悟で入り口へ。

 すると受付のような所があった、そこにいる何か普通とは違うチェック係のような者に声を掛ける。


「あの、アリアさんは……セイント・マリアって言ったら分かりますか?」


 すると受付らしき女性は守の顔を見ながら何かパソコンに映る情報を照らし合わせている。

 そして恐らく守が真相を知る者だと理解したのかインカムで連絡を始めたのだ。


「例の少年です、向こうから来ました」


 そしてしばらくすると奥の扉が開き黒服の男性が数名現れた。

 そして何故か守を歓迎するような素振りを見せたのだ。


「神崎守さま、聖王さまがお待ちです」


 そして奥へと案内されて行く。

 その道中で謎の研究所のような空間を移動し最奥へとやって来た。

 一際大きな扉が開かれるとそこには巨大な部屋が。

 中央には玉座のようなものが聳えておりそこに座る人影があった。


「では我々はこれで」


 黒服はその言葉と共に部屋から出て行った。

 扉が閉められ玉座の人影と二人きりになってしまう。


「待っていた、イレギュラーよ」


 その言葉と共に玉座の影は立ち上がり守の前まで歩いて近付いて来た。

 その姿が徐々に露わになって行く。

 そして守の前に立った彼は背が高くガッシリとした体型で白い長髪を靡かせている年老いた風貌だった。


「あなたが聖王……?」


「その通り、私がセイント・マリアの父になるはずだった現聖王。"ジョセフ=プロフェット"だ」


 遂に対峙した守と聖王。

 彼らは何を語り、世界をどう導いて行くのだろうか。






 つづく

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