篤人の葬式が始まった。
お経の声が聞こえる中、守はずっと篤人の両親が気になって仕方がない。
そして最後に喪主である篤人の母親がスピーチをする時間が設けられた。
その言葉を守は食い入るように聞くのである。
「意地になっていました、親の言う事を聞かずに夢を追いかけた息子が夢破れた時に突き放して……だから息子は友人を頼り東京に向かいました」
篤人が東京に向かう事となったきっかけについて語る。
「その結果怪獣災害に巻き込まれて……初めはその友人を責めました、しかし虚しいだけでした。自分の罪を見て見ぬ振りしているような気がして……」
守の隣にいるモモも歯を食いしばっている。
「息子は確かに私を頼って来たんです、それなのに意地になって拒絶したから……受け入れてあげてればって後悔が止まりません……っ!」
そして篤人の母は参列者にメッセージを残す。
「この中にもし大切な人を受け入れられずに距離を取っている方がいるなら……どうか受け入れてあげて下さい、後悔する前に」
その言葉を聞いた守は少し考える。
今自分が受け入れて向き合うべき存在は誰なのだろう。
いや、もう既に分かっている気がした。
向き合うべき存在は守にとって大勢いるのだ、それを理解しつつ自分でも受け入れる準備をするのだ。
***
葬儀の後、棺に入った篤人の遺体を見ていた守。
いくら綺麗にしても損傷の激しい部分は隠しきれていない。
その間モモは篤人の両親に守の事を説明していた。
「そう、篤人はあの子を助けて……」
「はい、自分と同じ境遇だって重ねたみたいですね……」
そのまま篤人の母は守の方へ近付いて行き話す。
「えっと、守くん……?」
「はいっ……」
話しかけられた事に驚いた守はまず母に謝る事にした。
「あ……す、すみません……俺のせいで……」
「さっきも言ったでしょ、私が受け入れなかったからこうなったのよ。だから自分を責めないで」
彼女の優しく微笑む表情を見て胸が痛くなる守。
次に彼女が言いたいであろう言葉を予測できていた。
「聞いたわ、あなたも親と喧嘩して家出したって」
「はい、正直今も上手く行ってません……」
「信じられないかも知れないけど子供を愛してない親なんて居ないわ、不器用で表し方が分からなかっただけ」
そして優しく守に伝えた。
「ちゃんと素直に話してみたら伝わるから、頑張って」
そのようなやり取りを終えた守。
帰り道に電車の中でモモと少し話していた。
「俺、帰ったら親と話してみます」
「お、遂に覚悟決まった?」
「はい、そしたらまたアリアさんとも……」
その言葉を聞いたモモは少し考えた。
そして守に告げた。
「あたしさ、1週間は札幌にいるから。また話聞かせてよ、アリアちゃんの事とか気になるしさ」
「はいっ……」
このまま守は家に帰り両親と話し合う事を決めたのだ。
☆
家に帰った後、守は自分の母に事情を話した。
すると母は話し合う事を了承し父が帰るまで待とうと言った。
そのまま父が仕事を終えて帰って来たタイミングで守と両親が会話をするのだった。
「父さん母さん、俺のこと本当に心配してくれてたの……?」
「当たり前じゃないか、ただ俺たちは不器用だった……」
そしてこれまでの守との接し方を反省しながら振り返って行くのだった、勉強をさせた事など。
「心配すぎて過保護になってしまった。将来のために勉強させようとし過ぎて色々制限してしまったり……」
その結果どうなったかはよく分かっている。
「お前の大切なものを奪ってまで……そりゃ不審に思うのも無理ないよな」
ようやく両親から本心を聞けた守。
少し安心して彼自身も心を開き始めた。
「俺だって素直じゃなかった。ちゃんと勉強と音楽も両立させれば何も言われなかっただろうに、変に反抗したりしちゃったから……」
「守……」
「だからお互い様だよ……」
母は瞳に涙を溜めている。
ようやく息子と本心で語り合えたのが嬉しいのだろう。
「でも今更それを後悔しようとは思わないんだ。やっちゃった事は変わらないし、だったらどう反省して生きていくかって考えた」
そして両親に今思っている事を伝える。
「俺、好きな人がいるんだ。一緒に旅に出た人」
アリアの顔を思い出し両親にも彼女の存在を話す。
「その人は俺の音楽に救われたって言ってくれた。だから天狗になっちゃったんだと思う、その人のためにギターを弾いてる自分がカッコよく思えて……」
そこで篤人の母の言葉を思い出す。
「でも自分に解決できない事を見つけると落ち込んじゃって……そんなの彼女を想えてるって言えないよね、結局彼女のために生きれる自分が好きだったんだ」
そして今の生活も思い出す。
「彼女と離れて思った。自分ってこんなに何もないヤツなんだ、彼女がどれだけ俺を輝かせてくれたか。だったら俺も彼女を輝かせられるような人になりたい……っ!」
決意を固めた表情で両親を見る。
そして強く宣言した。
「もう一回彼女と向き合ってみるよ、どうなるか分からないけど挑戦したいんだ」
そう言った守を両親は強く抱きしめる。
その瞬間、ある謎の意味が分かった気がした。
「(クレカのパスワードが俺の誕生日だった意味、ちゃんと愛してくれたからなんだな……)」
愛していても伝え方で関係は変わってしまう。
それを理解したからこそ守はしっかりとアリアに向き合う事を決めるのだった。
☆
翌日、守は喫茶店でモモと話していた。
アリアとしっかり向き合う事をシナーなど世界との関係は伏せて伝える事にしたのだ。
「良かった、ちゃんと向き合う事にしたんだ」
「はい、だから音楽も再開しようかなと思って。まだ右手は痛いけどスグル達にお願いして今度のライブに参加させてもらう事にしました」
そう言ってライブのフライヤーをスマホ画面でモモに見せる守。
「この日ならまだ札幌にいるでしょ? 是非来て下さいよ」
モモも客として誘う事にしたのだ。
「良いね行くよ、アリアちゃんに告白する決意表明みたいな感じだ?」
「ま、まぁそうですね……っ」
顔を赤くしながら言う守にモモは思わず笑ってしまう。
「ははは、好きならちゃんと向き合わなきゃだもんね。そしたら世界も救われるかも」
その発言で守は一瞬だけ固まってしまう。
何故モモが事情を知っているかのような発言をするのだろうか。
「え、なんで……どういう意味ですか?」
「あたし知ってるよ、君たちが世界を股にかけた戦いをしてる事。寝てる振りして聞いちゃった」
「あ、マジか……」
少し落ち込んでしまう守。
篤人の事を責められるかも知れない、そう思い覚悟を決めた。
「大丈夫だって、あっちゃんの事なら恨んでないよ。君たちの気持ちは分かるって話したじゃん」
「あ、モモさん……」
笑って許してくれるモモの姿を見て感謝が止まらない。
「それに君たちはしっかり罪を償おうとしてる、前みたいに責任を放棄しないでちゃんと罪を抱えようとしてるんだよ」
「はい……」
「それだけでかなりの成長だと思うけどね」
モモの発言に救われた守。
そのまま彼女は更に続ける。
「多分あの怪獣って罪の何かなんでしょ? 話聞いてる限りさ」
「は、はい……」
「罪は倒すものじゃない、抱きしめるものなんだよねきっと」
その言葉が守の心に強く刻まれた。
アリアにもきっと伝えるのだ、彼女にとっても必要な言葉だろうから。
「そうですね、それをアリアさんに伝えて一緒に償います」
「よし、その粋だ!」
向かい合った先から手を伸ばし守の肩を強く叩いたモモ以上に心の強い人を知らなかった。
だからこそ守は彼女の言葉を信じ、遂行する事を固く決意するのだ。
つづく