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#3

 自らの手で母を殺したシン。

 その体に突如として凄まじい力が宿る。


「なっ……⁈」


 以前クラウスが発見した正義の力。

 シナーが大罪であるアリアを倒す事で得るというその力をシンが宿したのだ。

 まるで母が大罪である事を示すかのように。

 そのまま撃たれた傷も癒えて行く。


「完成した、新たな概念を宿した者が! 大罪を殺し正義となったのだ!」


 嬉しそうに両手を広げる聖王。

 そしてシンとアリアを交互に見て言った。


「後はその力を外なる理に送るための準備をしなければ……!」


 しかしシンはショックを受けながらその場にへたり込んでいる、そして聖王に質問をした。


「……何をすれば良いんだ?」


 凄まじいオーラを放ちながら聖王を睨むシン。

 その問いに聖王も答え、何をすべきか示した。


「その力を使いセイント・マリアを捕らえよ。彼女の力が無ければお前を外なる理へ送る事は不可能だからな」


「……」


 そしてシンは決意を固め立ち上がる。

 そのままアリアの方をジッと睨み一言で答えた。


「……分かった」


 そのまま力を解放し巨大化していくシン、15mほどの巨人となった。

 その姿はセイント・マリアの男版のような、しかし完全に新たな存在だった。


「おぉっ! これが外なる理に降臨する新たな概念、秩序を生む存在である!」


 聖王も更に両手を大きく広げて喜んだ。



「その名も"ニュー・オーダー"!」



 シンが変身した新たなる概念であり秩序を生む存在は聖王により"ニュー・オーダー"と名付けられた。

 東京の中心に突如として姿を現した存在は街に住む者たちを一気に恐怖に叩き落とした。


「何で東京にまで⁈」


「逃げろっ、逃げろォォ!」


 慌てふためく人々の声はアリアの所まで届いている。

 しかし彼女の視線の先にはシンに殺された母の遺体が。

 今更どのような感情を抱けば良いのかわから分からない、しかし希望を絶たれたような気がしてしまったのだ。


「〜っ!」


 そのままアリアはシンに呼応するかのように変身をした。

 セイント・マリアとして戦う事を決意したのだ。


『ハァァァッ!』


 東京に現れた巨大な人型の生命体。

 2体のそれが争う場は地獄と化すのだろうか。





 轟音が聞こえたためライブハウスから外に出てきた守たちは恐ろしい光景を目にした。


「あぁっ……!」


 外に出ると既にアリアとシンが戦いを繰り広げていた。

 周囲の建物を破壊しながら東京の街を進んでいる。


「そんなっ、アリアさんっ!」


 思わず彼女の名を口にしてしまった。

 それを聞いていたのは隣にいたモモ。


「えっ……?」


 本来なら特に疑う所ではないだろう、しかしモモは昨晩の彼らの会話を寝たふりをして聞いていた。

 "セイント・マリアとして"というような言葉を聞き疑問を抱いていたのだ。


「(まさか……!)」


 しかしそんな思考回路も他所に戦いは続いて行く。

 アリアはシンを何度も地面に叩きつけるが彼の力は彼女を遥かに上回っていた。


『フンッ』


 一気に起き上がりビルの壁にアリアを思い切り叩きつけるシンはそのまま彼女の首を強く締めた。


『ァガッ……』


 しかし華麗にその場で回転したアリアは自らの首を掴むシンの腕に足をかけそのまま勢いよく投げた。


『グフゥッ……⁈』


 思い切り地面に叩きつけられるシンは受け身を取れなかった、背中に鈍い痛みが走る。


「流石、訓練させただけはある」


 聖王もアリアの素の戦闘力の高さに感心していた。

 しかし能力ではシン……いや、ニュー・オーダーも負けてはいない。


『負けて……たまるかぁぁぁっ!』


 シンは一気に力を解放し大量の泡を放つ。

 それはアリアの全身に纏わりつき動きを封じた。


『どぉぉらっ!』


 そして動けないアリアを思い切り殴り飛ばす。

 勢いよく道路を転がるアリアだが爪で地面を掴み何とか止まる。

 しかしシンはその時点ですぐそこまで迫っていた。


『ッ⁈』


『ハァッ!』


 腕を6本に増やし連続でアリアを殴りつける。

 その光景を見た守は思わず走り出しそうになった。


「ダメだ、アリアさぁぁんっ!」


 しかしその手をモモに掴まれ止められてしまった。


「どこ行くつもり⁈ 逃げるよ!」


 しかし守はこれまでずっと心配してきたアリアの所へ行きたいという気持ちを伝える。


「アリアさんが! えっと、外に出てたから……!」


 あの巨人が彼女である事は伏せた。

 しかしモモはそれも全て察していた、その上で答えたのだった。


「ダメだよ、君にどうにか出来る規模の話じゃない……!」


 守はただの高校生だ、あんな世界の命運を握っているような巨大な存在による戦いに何か出来るとは思えない。


「〜っ……」


 その言葉を聞いた守はショックを受けてしまう。

 しかし否定は出来なかった。


「違う、俺は今まで……」


 アリアとの旅、そしてその中で起こった戦いの事を思い出していく守だったがその中で自分は何も出来ていない事に気付いた。

 そして更にアリアの言葉も思い出す。



『落ちても受かっても世界は崩壊しちゃうよ』



 守にとって逃げ出す理由ともなったオーディションの結果がどうあれ彼女が抱える問題に影響はない。

 つまり自分はアリアに何も出来ていないという事を彼女自身から示されたようなものだった。


「そんな、俺は今まで……アリアさんに……」


 完全に落ち込んでしまう守。

 ギターケースを背負ったままその場に項垂れてしまうのだった。

 そして巨人同士による戦いは。


『ゥラァッ!』


『グハァッ……』


 アリアの体が倒れて胸のコアから彼女が出てきてしまう、つまり負けたのだ。


『ウォォォォッ!』


 更に正義のエネルギーを強めたシン。

 それを見た聖王も大いに喜んでいた。


「よし、セイント・マリアを回収。そのまま北海道に戻るぞ」


 部下たちを巧みに操りながらアリアの体を回収しやって来た軍用ヘリに乗せる。

 シンもそれを見て人間サイズの姿に戻り聖王の所へ向かって消えた。


「あぁっ、アリアさん……!」


 守にはその様子すら見えなかった。

 ただアリアが負けて消えた事だけを知り、その後がどうなったかなど知る由もなかったのだ。


「俺にどうにか出来る話じゃない……っ」


 ただ孤独にそう呟き自分の無力さを悟るのだった。





 その後、守たちは近くの避難所に案内された。

 モモやライブハウスにいた他の出演者たちも一緒だったが守は一人で隅っこにいる。


「っ……」


 ギターや機材を抱えながら一人で座り込んでいる守の所へ二つの人影が。


「守、探したぞ」


 なんとそれは両親だった。

 心配そうな顔をした父は優しく声を掛け、母親は力強く守を抱きしめる。


「父さん、母さん……」


 耳元で啜り泣く母の声を聞いた守はその抱擁を受け入れていた。


「さぁ、家に帰ろう」


 そして肩に手を置いた父に諭され守は決心を固める。


 ***


 後日、騒動が落ち着いたタイミングで別のライブハウスを借りたモモ達はオーディションの本番を行うのだった。

 リハーサルで見た様々なバンドを見て行く中で一つ疑問を抱いていた。


「守くんは……」


 そう、このオーディション本番に守が姿を現す事はなかった。

 彼はあのまま両親と北海道へ帰ったのだ。






 つづく

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