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#2

 早速モモの自宅アパートにやって来た一同。

 部屋に入った途端その光景に驚愕する。


「この通り、ちょっと散らかっちゃったんだ〜」


 照れくさそうに"ちょっと"と言うモモだがアリアと守は目を見合わせて言う。


「これはちょっとどころか……」


「かなり汚い……」


 これを片付けると言われれば確かにかなり大変な願いとなってしまう、モモはそこも考慮していたのだろうか。


「断捨離もしようと思ってるんだけどね? なかなか捨てれなくて……」


 そう言ってモモはある場所に視線を向ける。

 そこには数本のエレキベースやギター、そして小さめの機材などが置いてあった。


「すげぇ、マジもんのギブソンだ! ESPのもある!」


 守は思わず興奮してしまう、自分の持っているギターより遥かに良いものがそこにあったのだから。


「食いつき良いね、弾いてみる?」


「是非っ!」


 足の踏み場がないほどに物が散乱しているモモの部屋で守とモモは二人でセッションを始めてしまう。


「なかなか上手いじゃん、高一のあたしより上手いよ!」


「マジっすか、最高っす!」


 楽しそうに守はギター、モモはベースを演奏していた。

 スグルのバンド以来の誰かと合わせる演奏をして守は満足そうだった。


「〜っ」


 しかしモモと二人で楽しそうにしており蚊帳の外になってしまったアリアが自分の気持ちに気付き頬を膨らませる。

  守がモモに褒められた事で彼を認めたのはアリアだけではなくなってしまう、つまり彼女だけが特別でなくなってしまったのだ。

 嫉妬したのかそのまま手を叩いて二人を現実に引き戻した。


「ほら! 片付けやりますよ!」


 見事に現実に戻された二人は少し残念そうだったが仕方ないという様子だ。


「ちぇ、楽しかったのに」


「ねぇ?」


 仲良く顔を見合わせる二人に更にアリアは嫉妬を加速させてしまう。


「ほらほら退けて下さい、そこにもゴミ散乱してますから! 何でちゃんと捨ててないんですか?」


 ゴミ袋が辺りにはいくつか見える。

 酎ハイの空き缶やコンビニ弁当のパックなどしっかりゴミ袋に入れてはいるが部屋に残ったままだ。


「あーそれは時間までに起きれなくて……」


 確かにゴミ捨ては朝やるのが基本だ。


「ホラ、この仕事してたら昼起きて深夜に寝ること多いからさ……」


 言い訳ばかりして片付けようとしないモモにアリアは少し溜息を吐いてそそくさと動き出した。


「羨ましいくらいですよこんなに物があるなんて」


 ゴミを一箇所にまとめ出すアリアにより少し足場が増えた、それを見たモモは感謝をする。


「わぁありがとう、アリアちゃんの部屋って物少ないんだ?」


「……あんま買ってもらえなかったんで」


 モモの質問で少し過去を思い出したアリアは顔を顰める。

 守に関する嫉妬も少しは篭っており若干嫌味にも聞こえた。


「じゃあ続けますよ!」


 こうして三人は部屋の片付けを進めた。

 途中何度も守とモモは音楽に関する事で脱線してしまいその度にアリアが怒るのを繰り返し何とか大分片付いた。


 ***


 綺麗になった部屋、そして玄関には捨てるためのゴミ袋を集めている。

 守が最後のゴミ袋を運んでいた。


「いやーお陰で綺麗になったよ!」


 喜ぶモモだが一方で守はゴミを持つ手を痛めてしまった。


「ぐっ、いてて……」


 痛み止めの効果が切れて来たのだろう、更に動かした事で一気に右手に激痛が走ってしまう。


「そうだった、右手怪我してるのにごめんね?」


 慌てて守に駆け寄るモモは彼の背中を摩っていた。

 それを見たアリアはまた少し嫉妬してしまう。


「はいこれ痛み止め!」


 そしてモモを静止するかのように痛み止めを差し出し守に飲ませた。


「ありがとアリアさん……」


「うん」


 彼に感謝される事で少しだけ機嫌が良くなりそうなアリアを見たモモは何かを察する。


「ほーほー?」


 そして立ち上がりある提案をした。


「よし決めた!」


「え、何ですか突然?」


 二人の肩を組み抱き寄せモモは改めて感謝を伝える。


「感謝の印として今日は泊まってきな! 部屋も広くなった事だし!」


 そのアイディアに二人はそれぞれ違う気持ちを抱いた。





 モモの部屋に泊まる事となり夜になった。

 部屋の中央に置かれた机には何も学んでいないようにコンビニ弁当のゴミが置かれていた。

 そして今の時間は守がシャワーを浴びている。


「ねぇねぇアリアちゃん?」


「なんです……っ?」


 突然顔を近付けて来たモモに驚いてしまうアリア。


「守くんの事、好きでしょ?」


 まるで守と温泉に入った時の篤人のような質問をアリアに向けて放ってくる。

 その途端に顔を真っ赤に染め上げてしまうアリア。


「あはは顔真っ赤! 図星か!」


「な、何で分かったんですか……っ⁈」


 モモはアリアに自身の見たものを語る。


「守くんがあたしと仲良さそうにする度に突っかかって来たからねー」


「なっ……」


「でも安心しなさい、あたしは大人の女ですから。高校生に手ぇ出すような事はしないよ」


 水をグビっと酒のように飲みながら言うモモ。

 そこから更にアドバイスをした。


「ちゃんと気持ち伝えなさいな、後悔する前にね」


 その言葉の裏にある意味にアリアは気付かず質問をしてしまった。


「モモさんは後悔したんですか……?」


 そしてモモは意味深に答える。


「今まさにだよ」


 その言葉でようやく理解した。

 モモが後悔している理由、気持ちを伝えられなかった相手とは。


「あ、まさか……ごめんなさいっ」


 その相手はアリアが巻き込んでしまった人である事に気付きまた謝罪をする。

 少し複雑な気持ちになってしまった。


「このご時世だからさ、何があるか分かんないよね。だから伝えられる時に伝えときな?」


 しかしアリアは篤人とモモの関係性を奪ってしまった事を考えショックを受けている。

 その様子に気付いたモモは更に励ました。


「そんな気負う必要ないって、アリアちゃんは恋する"普通の女の子"なんだからさ!」


 普通の女の子という言葉、アリアがずっと求めているもの。

 それを事情の知らない人が言ってくれる、つまり側から見れば自分は普通に見えるという事。


「はい……っ!」


 アリアがそう言ったタイミングで守がシャワーから上がる。

 左手だけで髪を拭き二人の様子に違和感を覚える。


「え、何かありました……?」


 何かシリアスなオーラを放っているアリア。

 モモと話して何かあったのではと考える。


「その時が来たらこの子が自分で話してくれるよ」


 モモがそう言うので守は納得したがやはり気になってしまう所はあった。

 しかしこれ以上気にしても仕方がないので今は諦める事を選んだのだ。


 ***


 夜も遅くなり三人は寝る事にした。

 明日はオーディションもあるため早めに休むのだ。

 三人で川の字になって寝る中、アリアは真ん中で守とモモに挟まれていた。

 これはモモの計らいなのだろうか。


「ねぇ守クン、起きてる?」


「はい、まだ寝てません」


 まるで修学旅行の夜のように二人は布団の中で顔も合わさず天井を見つめたまま語り合う。

 モモは隣で寝息を立てているため二人の秘密も話せるとアリアは踏んだのだ。


「私、ちゃんと先に進めてるかな?」


「どうしたんすか急に?」


「私ね、早く普通の女の子になりたくなっちゃった。だんだん近付いてるような気がして楽しみなの」


「それは良かったです、元気になってくれて」


 アリアは嬉しさを噛み締めるように守に言う。


「私にはシナーと戦うセイント・マリアの一面もあるのかも知れない、それが責任なら……全部終わらせて自由を手に入れるんだ、普通に恋したりね」


 その言葉を聞いていると守まで嬉しくなってくる。

 しかし恋をするという言葉を聞いて少し胸が騒ついた。

 あの時、クラウスと戦う前。

 唇が触れ合った事を思い出し少し期待してしまう。


「あとはどうすれば終わらせられるか、M'sシステムとの決着をつけないと! そうすれば世界の崩壊も防げるかも知れないし……!」


 アリアが元気そうに話す中、守は少し羨ましそうにしていた。


「凄いっすよアリアさん、しっかり現実と向き合えて」


「えぇ〜そう?」


「俺なんか逃げたままなのに、親とかの現実から」


 アリアの成長に思わず自分と比べてしまう守は少し寂しそうにしていた、彼女が遠くに行ってしまう気がして。


「もっと見習わないとな、でもまだ怖いっすわ」


 はにかむように笑ってみせる守だがそれは誤魔化しだった、本当は悔しさが強いというのに。


「守クンなら出来るよ、私に道を示してくれた人だもん。だから一緒に自由になろうよ」


「そうっすか? がんばります」


 自分とアリアは釣り合っていない。

 窓から指す夜の光がアリアだけを照らしている様子に守は余計にそう感じた。

 思い描いてしまう未来はアリアが自分なんか忘れてもっと良い男と仲良くなってしまう事。

 守はひたすらそれが苦しかった。


「…………」


 その二人のやり取りをモモは寝たフリをしながら聞いていた、わざと寝息を立てているようにしたのだ。

 彼女も二人の話を聞いて複雑な感情を覚えているような表情を浮かべているのだった。


「私が次に向き合うべき存在……!」


 アリアはそう言いながらある人物を思い浮かべていた。

 その人と心の決着を付けるために。






 つづく

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