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#3

 アリアを吸収しようとしている最中にクラウスは自身に起こる違和感を覚えていた。

 何故かアリアの吸収が止まり力が漏れ出しているのだ。


「何だ、力が弱まる……?」


 気付かぬ内に解放されたアリアはクラウスが違和感を覚えている様子を見て不思議に思った。


「ど、どうしたの……?」


 しかし苦しみ力を発揮できないクラウスを見てアリアは少しだけ希望を感じていたのだった。

 クラウスは既にアリアに構っている暇は無さそうだ。


「クソクソッ、誰だ⁈ 俺の邪魔をするのは⁈」


 すると意識に直接声が届いた。

 それは予想外の人物からのメッセージである。


『哀れだなクラウス』


 それは地上から赤い瞳により送られて来るメッセージであった。

 その人物とは当然ヤツである。


「まさかシンっ⁈ 何をしている⁈」


 シンという名前を聞いてアリアも驚いていた。

 そしてクラウスの質問に対しシンは答える。


『元よりシナーは俺から生まれた力だ、俺の意志が優先される』


「くっ……」


『しかし手強いのは確かだよ、そこだけは誇るんだな』


「なにっ⁈」


 "そこだけ"という言葉の真意。

 シンはクラウスの心中を見抜いていたのだった。


『阿部マリアの記憶から貴様を見て来た、何とも哀れなヤツだろうか』


「っ……」


『きっと心は空っぽなのだろう、だから他者を支配し喜びを得ようとした』


 図星だったのかクラウスは激昂してしまう。


「ふざけるなぁ! 何故お前にそんなこと言われなきゃならない⁈」


『すまないな、他者を憎む事しか知らない俺と同類に感じてしまったからだよ』


 そんな事を言われてしまったクラウスは自身の怒りの根本を思い出していた。

 外なる理の中での自分の立場は最悪だったのだ。


 ***


 その通りだ、俺は空っぽだ。

 正確に言うと良い思いがない、劣等感だけの存在なのだ。


 何故そんな俺が次の聖王に選ばれたと思う?

 聖王というのは外なる理が捧げる生贄だからだ、優秀とは程遠い者から選ばれる。


 しかし俺はそれでも良かった。

 人間界に行きそこで王となれるならばそれで。

 外なる理は俺の居場所ではなかったんだ。


 だからこんな所でやられる訳には行かない、良い思いを知らぬまま終わるなんて嫌だ。

 頼むセイント・マリア、俺を受け入れてくれ……!


 ***


「ぐわぁぁぁっ……!」


 力が奪われていく事に不快感を覚えるクラウスはアリアに向かって手を伸ばした。

 まるで彼女に助けを求めるように。


「クラウス……」


 徐々にクラウスの瞳も赤く染まって行く。

 ジワジワと苦しみが伝わっているようだ。


「あれ……?」


 そこでアリアは気付く、自分に力が戻っている感覚があるのだ。

 クラウスの力が封じられアリアに逆戻りしたという事か。


「あぁっ、助けてくれマリア……!」


 手を伸ばし必死に懇願するクラウス。

 しかしその手は一瞬で切り落とされた。


「へっ……⁈」


 目の前ではアリアが光の刃を構えている。

 力が戻った事にクラウスも気付いた。


「違う、私の名前はマリアじゃない」


 そしてその姿が変わって行く。

 意識の空間でも彼女は巨人の姿となった。


「アリアって呼んで」


 鋭い視線を送りクラウスを睨む。

 そのまま振り返りこの空間から出て行こうと走った。


「ふざけんな何がアリアだ! このクソ女、アバズレが! こんな事したって世界は救われない!」


 もう本性を隠さず暴言を吐きまくるクラウスはそこから先に進めなかった。

 シンの力が妨害しているのである。


「やめろ行くな、俺から奪うんじゃない……っ!」


 嘆きの声が遠く感じていくアリアはそのまま外へと飛び出して行く。


「うわぁぁぁぁっ!」


 断末魔のようなクラウスの叫びが虚空となった空間に響いていた。

 彼は外なる理にも人間界にも居場所を得られなかった。





 断末魔のような叫びは外側のシナーからも響いていた。

 その口から変身したアリアの姿が飛び出して来る。


『ダァァッ!』


 それを見た瞬間、守の表情は大きな喜びを見せた。


「アリアさんっ!」


 彼の隣でシンや母も共にその様子を見ている。

 特にシンは複雑そうな表情でアリアを睨んでいた。


『ゼヤァァッ!』


 そしてアリアは叫びながら狂っているクラウスに向けて光の刃を出現させる。

 そのまま勢いよく体を何度も切って行った。


『グッ、ガァァァッ……!』


 翼も腕も切り離され、残ったのは頭部のみ。

 アリアはトドメを刺すのを少し躊躇した、何故ならクラウスはどんな奴と言えど幼い頃から知っている者だから。


『ッ……!』


 しかしその躊躇いが命取りになると判断しすぐにクラウスの残された頭部まで切り落とす。

 そうする事により完全に相手は絶命したのだった。


「ぐっ、おぉぉぉっ……!」


 その途端、地上ではシンに罪が逆流し始める。

 守は当然の如く驚いていた。

 アリアも流石に凄まじいエネルギーに気付いた。


「え⁈」


『シンッ⁈』


 守の近くにシンがいる事に驚いたアリアだったがシンはこれ以上何もして来なかった。


「はぁ、はぁ……この力が欲しかったんだ」


 駆け寄って来る母を払いのけた後にそれだけ呟きシンはその場から去って行く。

 母も彼の後を追いかけた。


「待ってシン……!」


 その状況を上から見ていたアリアは理解できなかったがひとまず一件が解決した事を噛み締め深呼吸し守の所へ向かった。


「守クン!」


 変身を解き人間サイズに戻ったアリアは守の所に走って行く。


「アリアさんっ! おわっ」


 そのままの勢いで守に飛びついたアリア。

 守はそれに耐えきれず二人もろとも地面に倒れてしまった。


「はは、やりましたね」


「うんっ、私やったよ!」


 守が褒めてくれる事を喜びながらアリアは立ち上がり守も立つ。

 そして守は木に掛けてあったギターや荷物を手に取り、アリアに向けてこう言った。


「じゃあ行きましょうか」


「どこに?」


「決まってるじゃないっすか、東京!」


 最高の笑顔を向けた守に思わずアリアも目的を思い出し微笑んでしまう。

 ようやく二人は旅を再開できるのだった。





 アリア達が東京へ向かった後、シンと母はM'sの軍用機から盗んだ車両に乗り込んだ。

 一度シンを車で待たせ母は外で何かしている。


「はい、クラウス様の暴走でして……何も情報は掴めていません」


 公衆トイレの裏でどこかへ電話を掛ける母。

 そして電話を切った後、速やかに車に戻る。


「随分と長いトイレだったな」


 シンは母を問い詰めるように言う。


「裏切っちゃったわ、聖王さまの事」


 先程の電話は聖王に嘘を吐いた話をしていたらしい。


「ふん、俺に尽くしている事を強調したところでな……」


 エンジンを掛けて動き出す車の中でシンは窓の外を見ながら独り言のように呟く。

 運転している母はただ前を見ながら聞いていた。


「だがこれで邪魔者はいない、この手で姉を……!」


 母は少し複雑そうな顔をしている。

 実の息子の言葉と実の娘の命、その天秤に揺られているのだ。


 ***


 一方で守とアリアの二人は新幹線に揺られていた。

 美しい景色に見惚れていると時はどんどん進んで行く。


「わぁ〜綺麗……」


「キラキラしてますね」


 太陽の光が反射する海を見つめながら旅が再開された事を実感していた。

 守は怪我した右手とギターを交互に見ており、アリアはそれに気付いていた。


「右手痛い?」


「動かしたら痛いけど……着いてからは時間あるし病院行って痛み止め貰います」


 そのような会話を繰り返していると次第に景色は大きなビル群へと変わって行った。

 そのままほぼ定刻通りに二人を乗せた新幹線は目的地に到着したのだった。


 《東京〜、東京です》


 停車して流れる車内アナウンスで彼らの居場所が伝えられる。

 二人は顔を見合わせて急ぎ新幹線を降りた。


 そして片手に荷物、背中にはギターを背負い東京駅から外へ出る。

 すると眩しい陽光と共に画面でのみ見た事のある光景が視界に入り込んで来た。


「……っ」


 圧倒されてしまい声が出ない。

 しかしそれでも何とか振り絞った。


「これが、東京……」


 守とアリア、二人は遂に念願の東京へ到着したのだった。






 つづく

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