クラウスに押されているアリア。
鉄塔を使い近接戦闘を行う作戦は封じられてしまった。
『まだっ……!』
しかし鉄塔はまだ残っている。
アリアは後方にジャンプしクラウスの攻撃を避けた後、華麗に着地しもう一本の鉄塔を引っこ抜いた。
『やれやれ……』
懲りずに抗う意志を示すアリアに溜息を吐いてしまうクラウスは仕方ないとゆっくり歩みを進める。
激しく動くのではなくドッシリと構える事で逆に隙を無くそうと考えたのだ。
『っ……』
隙を見出す事ばかりに頼っていたアリアはその作戦がバレたと悟り少し焦る。
しかしその焦りを相手側に悟られぬようにしっかりと動きを見ていた。
『アァッ!』
『フンッ』
しかし目の前に迫られるまで隙は見当たらず仕方ないので攻撃を繰り出した。
しかしそれは簡単に片手で防がれてしまう。
『クッ……』
慌てて蹴りを繰り出し相手を押し出すが完全に自分の力では勝てない相手だという事は証明されてしまった。
またゆっくりと迫るクラウス、このままではジリ貧だ。
『無駄に時間を食うだけだ、もう諦める事だよ』
相手側も面倒に感じたのか説得を始める。
『別に殺す訳じゃない、取り込むだけさ。君はその目で世界を見続けられるんだよ?』
ジリジリと少しずつ後退をしながらアリアは問う。
『あんたが支配した世界なんてどうせロクでもないに決まってる……!』
するとクラウスは少し傷付いたような素振りを見せた。
『心外だなロクでもないなんて、外なる理の新時代だぞ? この下らない世界とは根本から違うんだよ』
『何、言ってんの……?』
『分からないか? もうこの世界に用はないんだ、罪を超えた新たなエネルギー源を俺は手に入れたんだからな!』
両手を大きく広げ誇らしげに語るクラウス。
『罪をエネルギー源に存続された世界なんてクズだ、俺は俺の持つ"罪を打ち倒す正義"をエネルギー源として外なる理に君臨する! そうすれば支配者になれるんだ!』
クラウスの言っている事が分からない。
しかし嫌な予感はする、アリアはまた質問をした。
『じゃあこの世界は……?』
すると当たり前であるかのようにクラウスは答えた。
『うーん、無理に破壊する必要はないから放っておく事にするよ。滅ぶまでの時間は好きに生きな』
『そんな……』
『じゃあお疲れ様』
そう言ってアリアの胸にあるコアを鷲掴みにした後クラウスは思い切りそのコアを体からもぎ取った。
『〜ッ』
そのまま倒れてしまうアリア。
コアを持ったクラウスは自らの口にソレを含んだ、まるで食事をするかのように。
『おぉっ、これもまた素晴らしい力……!』
一人で勝手に盛り上がっているクラウスを見て守は思わず叫んでしまった。
「アリアさぁぁーーーんっ!」
しかしもうクラウスは守に興味すら無かった。
ただ一人、アリアの力を完全に吸収する時を待っていたのだった。
☆
クラウスに食われたアリアは彼の中、エネルギーで出来た空間を彷徨っていた。
すると目の前に現れたのはクラウスの意識とも思える存在であった、彼の姿をしていたためすぐに分かる。
「見つけた。さぁ、俺と共に在ろう」
しかし当然の如くアリアはクラウスを拒絶した。
意識の中ですら彼から遠ざかろうとしたのだ。
「やめてっ、守クンも消しちゃうんでしょ……⁈」
「まぁこの世界が消えたら彼も消えるね」
「そんなの……それに外なる理だなんてっ」
未だにクラウスの話は理解が出来ない。
守のいる世界を捨ててまで得るものがそんなに素晴らしいものなのだろうか。
「彼らはエネルギーを求めてるから、より大きく新たなエネルギーさえあれば可能なんだよ」
そこからクラウスは空間の中に映像を表示して世界創造のシステムを説明し出した。
「この世界は外なる理との利害関係で成り立ってる、罪を向こうに送る事で存続させてもらってるって話はしたよね?」
「っ……」
「じゃあなぜ罪なのか、それを考えた事はある?」
一人で語るクラウスの話をアリアはただ聞いている。
「それは外なる理にはない概念だからさ、俺たちにはない新鮮なエネルギーを得る事で豊かになるって考えたんだよ」
そしてアリアの方を見てハッキリと言った。
「だからこの世界を創り出したんだから」
「っ⁈」
今の発言でアリアは衝撃を受けてしまった。
まさかこのために世界は創られた存在だとでも言うのか。
「ははは驚いてるね、この世界は俺たちの利益のためだけに存在してるんだ」
そこでクラウスがやろうとしている事とは。
「そして俺は罪を超えた新たなエネルギー、正義を手に入れた。シナーが"大罪を背負った君"を打ち倒す事で新たな概念が誕生したんだよ」
それでもアリアは新たな疑問を投げかける。
「罪を倒す事なら私がやった、それと何が違うの……?」
「話聞いてた? 俺が言ったのは"大罪"だ、普通の罪と違う」
アリアに少しイライラし出したクラウスは更に説明をしていく。
「君は使命を投げ出した母の大罪により生まれ更に君自身も世界を見捨てて逃げ出すという大罪を犯した、大罪に大罪が重なった君を打ち倒す事は大いなる正義と認識されたんだね」
これで説明を終えたクラウス。
彼は遂にアリアを取り込もうと試みた。
「じゃあ面倒な説明は終わったし君の力を頂くとするかな」
アリアに向けて手を伸ばしその顔面に触れる。
彼女のエネルギーを取り込み更なる存在へと覚醒しようと言うのだ。
「君の聖なる力は外なる理の力だ、それを取り込む事で新たな概念を丸ごと向こうに送る事が出来るんだよ」
そんな言葉も聞こえない。
アリアはただ吸収される中で守の事を思い出していた。
「あっ、守クン……」
せめて最後に彼のギターを聴きたかった。
自分が消えたらオーディションで彼は力を発揮できるのか、演奏を向ける相手が居なくなり上手く弾けないのではないか。
そんな事ばかりが気になってしまったのだった。
☆
アリアの気配が消えていく気がする、そう感じていた守は彼女を取り込んだクラウスの方を見てひたすら絶句していた。
「あ、あ……」
大きなショックを受けて地面に座り込んでしまう守は土や草に自分の涙が落ちて雫のように伝うのを見ていた。
「そんなぁ、アリアさぁん……っ!」
思い切り地面を殴ると涙の雫が弾け飛ぶ。
ただただ悲しみに触れていた、すると。
「……っ?」
背後からこちらに近付く足音のようなものが聞こえて来たのだ。
慌てて横目でそちらの方を見てみると意外な人物がそこには立っていた。
「……ここならよく見えるな」
なんとそれはシンだった。
更にアリアの母も一緒にいる。
「む……」
そしてシンは守の存在に気付き質問した。
「貴様、なぜ泣いている?」
「え……?」
「まさか阿部マリアのために泣いているのか?」
そんな質問をして来たシンだがそこから溜息を吐いた後、守の答えを聞かぬまま自分の言葉を更に続けた。
「ならば喜べ、クラウスからは助かる」
そう言ったシンは突然その瞳を赤く光らせた。
何か力を発揮すると言うのだろうか。
「ふんっ」
すると突然、クラウスが動きを変えたのだ。
『むっ⁈』
まるで錆びたロボットのようにギチギチと自由に動けない状態になってしまったのだ。
これはシンの力によるものなのだろうか。
「これはっ⁈」
守は思わずシンの方を見る。
するとシンは言った。
「話しかけるな! 集中している」
赤く光らせた瞳でクラウスの方をジッと見つめながら守に注意した。
「成る程な、暴食の力で阿部マリアを取り込もうと……」
シンの力はクラウスを更に蝕むように作用していく。
一体どのような原理で行われているのだろうか、しかし守にとってこれはまたとない喜びであった。
つづく