クラウスの声を発するシナー。
アリアにはそれが予想外であった。
『まさかそこにいるのクラウスっ⁈』
『その通りだよ、コイツに俺の魂を宿したんだ!』
その会話は守にも聞こえていた。
しかし意味が全く分からない。
「魂を宿すって……⁈」
原理が意味不明だった。
しかしクラウスがシナーとなりその力を振るっているという事は間違いないだろう。
クラウスはこの世界の者ではないと聞いた、だからこの世の理が通じない事だって出来るのかも知れない。
『あとは君の力さえ手に入れれば……!』
そう言ってクラウスはアリアに攻撃を仕掛けて来た。
アリアも防御をし戦いが始まった。
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Call Me ARIA. episode6
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アリアとクラウスの戦いが始まった頃、近くの森の中には怪我を負ったシンの姿が。
銃弾に肩を貫かれたため休息していたのだ。
「くっ、戦いが……っ」
シナーが出現した事を肌で感じていた。
しかし怪我のせいで動こうにも動けない。
「っ……⁈」
すると近くの茂みからガサガサと音が鳴った。
警戒したシンはそちらを睨む。
しかし現れた人物を見てシンは意外に思った。
「シン、私よ……」
それは自身の母親であった。
手には救急箱を持っている。
「何だっ、何をするつもりだ……⁈」
M'sシステムの者である母を警戒し肩を押さえたまま後退するシン。
しかし手に持たれた救急箱を見て一瞬警戒が解かれた。
「怖がらないで、怪我してるでしょ」
そう言って母も手に持つ救急箱を見せた。
そのままゆっくりと近付きシンに応急処置を行おうとする。
シンも敵意がない事を確認し母に従った。
「……っ」
不本意ながらも母に包帯を巻いてもらうシン。
その間ずっと挙動不審であったが母の言葉を聞き少し彼女の方を見た。
「ごめんねシン、私のせいで……」
その言葉に対しシンは質問をする。
「何を今更、そうやって謝る事しか出来ないのか?」
「え……?」
「マリアの記憶で見た、ヤツにも謝っていたな」
そのままシンは自分の母に対する恨みを伝える。
「母であろうと俺は軽蔑する、後悔し謝るだけの存在など……っ」
「ごめんなさいっ、あっ……」
謝る事を咎められた事にさえ謝ってしまう母にシンはとうとう溜息を吐いた。
「その事はもう良い、それで一体誰の味方をするんだ……?」
母が記憶の中でアリアにも同じ事で謝っていた事を思い出し、更にM'sシステムでクラウスの下についていた事も思い出した。
その上で自分を治療し謝罪する母が誰の味方なのか分からないのだ。
「……私は贖罪をしなきゃいけない、ただそれだけ」
まるでアリアと同じような罪悪感を覚えながら言う。
そこに先はあるのだろうか。
「……ふん、贖罪をしているつもりなのか」
そして応急処置が終わりシンはすぐに立ち上がる。
「言っておくがお前の行動に俺は何も喜びを感じていない、寧ろ不愉快だ」
「っ……」
「そのような自己満足の贖罪など何の意味もない」
シンがそう言うと母は少し俯きながら考える。
そしてある質問をした。
「じゃあどうすれば貴方を喜ばせられる……?」
必死に答えを求める母にシンは冷酷な答えを示す。
「姉だ、俺の姉を殺させろ。そして俺をこんな目に遭わせた奴らも皆殺しにする」
そんな答えを聞いた母は流石に首を横に振った。
「それは……っ! そんなこと許されない……!」
しかしシンも反論を行う。
「贖罪とは罪が許される事では?」
今の自分の発言からも更に何かに気付いたようで。
「そうだ、そうすれば俺の存在も許される……!」
そこから母にある提案をした。
これがこの世の命運を握る事となる。
「力を貸せ、贖罪の機会をやろう」
こうしてシンと母は遂に行動に出るのであった。
☆
一方でアリアとクラウスは激闘を始めていた。
手に入れたシナーの力を存分に振るうクラウスは徐々にその姿を変化させていく。
『おぉ、これが力か!』
シナーの姿が徐々に人の形のように変化していく。
それはまるでクラウス本人であるかのように笑った。
そのまま更に力を振り絞りアリアに攻撃を仕掛けて行く。
『くっ、相変わらず力は出せない……!』
第7のシナーがベースとなっているのだろう、罪を司る力は何一つ発現しなかった。
『もう諦めろ! この状態の俺に勝てる訳がない!』
しかしアリアは思い出す。
先程の守の言葉、"戦闘訓練をしていた"という自分の経験を。
『(もしあの訓練が7の対策なんだとしたら……!)』
そのままアリアは後退し背後にあった身の丈ほどの鉄塔に触れる。
少しパチパチと電気が伝うのを感じた。
『もう後が無いぞ?』
アリアが何をするのか分かっていないクラウスはそのまま攻め続けようと近付いて行く。
『私を舐めすぎっ!』
しかしそのタイミングを見計らいアリアは思い切り鉄塔を引っこ抜いた。
そのまま野球のバットの如く思い切り振る。
『ふごっ……⁈』
それはクラウスの顔面にモロにヒットし遥か後方へ思い切り吹き飛ばしたのだった。
これが守と共に考えた作戦、武器を使うという原始的なものであるが力が使えない以上は非常に効果的だった。
『貴様ぁっ、調子に乗るなよ……』
予想外のダメージに顔面を押さえながら少し本性を露わにしてしまうクラウス。
『乗れるほど余裕は無いよっ……』
何とか一撃入れられたものの鉄塔は非常に重かった。
これを振り大きな一撃を更に入れるにはまた隙を見抜かなければならない。
その手間を考えると少し面倒に感じた。
『潰すっ!』
再びクラウスが動き出す。
しかし先程と動きが違い近接格闘をメインに仕掛けて来た。
『何のつもり……っ⁈』
鉄塔を盾のようにして防いでいる中ですぐにクラウスの意図を理解する。
重たいクラウスの攻撃に鉄塔が少しずつ歪んでいるのだ。
『やばっ……!』
慌ててクラウスを突き飛ばし腹部を鉄塔で突く。
ようやく二撃目を入れられたが鉄塔は既にボロボロであった。
『はぁ、はぁ……』
息切れをしながら少し考える。
そしてボロボロになった鉄塔を半分に叩き折った。
『二刀流なら……!』
半分に折った鉄塔を両手に構えて二刀流の姿勢になる。
するとクラウスも動いた。
『ならばこちらも』
そう言って腕を6本に増やした。
そこから更に全ての手に光の刃を出現させる、つまりは六刀流という事だ。
『ウソでしょ……』
それでも覚悟を決めたアリアは突っ込んで行く。
二刀流に構えた鉄塔でも6本の刃の前では敵わないだろう、なのでアリアはまず一本目を思い切り投擲した。
『フンッ!』
『小癪な!』
簡単に切り裂いてしまうクラウスだがその隙を見たアリアは思い切り飛び蹴りを入れる。
『グッ……⁈』
その衝撃で仰向けになり倒れてしまうクラウス。
上にはアリアが立っていた。
『ハァァァッ!』
持っていたもう片方の鉄塔を思い切り胸部に叩きつけた、一度だけでなく何度も死ぬまで叩くつもりだ。
しかしその程度でこのシナーは死なない。
『ドォッ!』
光の刃を思い切りアリアの足に向けて振ったのだ。
『アッ……⁈』
寸前の所で気付きジャンプして避けるがそれが隙になってしまう。
『ピヤァァァッ!』
クラウスは口からレーザー光線を放ったのだ。
ギリギリで鉄塔に命中させたため直撃は避けられたがそれでもかなりのダメージがアリアを襲う。
『グアァァッ……⁈』
その様子を下から見ていた守。
彼はアリアが必死に戦う姿に胸を打たれていた。
「アリアさぁぁぁん!」
そのまま倒れてしまうアリアと逆に起き上がってしまうクラウス。
少しはダメージを与えられたもののまだまだ力の差は凄まじかった。
『これくらいで差は埋まらないよ』
首の骨を鳴らし余裕を見せるクラウス。
果たしてアリアに勝つ術はあるのだろうか。
つづく