目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

#3

 警官は気を遣って二人を外に出してくれた。

 しかし離れすぎないように護衛として一人を着けながら交番の隣にある公園に行く。

 そこのベンチに守とアリアは座っていた、街が壊れ電気が無いせいか星がよく見える。


「ねぇ、右手大丈夫なの?」


 アリアの隣で守はギターを生音で奏でている。

 彼女を安心させるために少し強がってみせた。


「大丈夫っすよ、弾く分には問題……いてっ」


 しかし弾いている内に痛みが右手を襲いピックを地面に落としてしまう。


「はいこれ」


「すんません……」


 落としたピックを拾ってくれたアリアに強がりがバレた事を謝りながら受け取るとまた弾こうとするが手が止まってしまう。


「っ……」


 アイデンティティでもあるギターが奏でられない守を見て更に申し訳なさが募るアリア。

 しかし守はそんな彼女の気持ちを察してか自分なりに励ましの言葉を伝える。


「自分を責めないで下さいよ、確かに俺は巻き込まれたかも知れないけど家出してここまで来たのは俺の選択ですから」


 ポロロンと軽くギターを鳴らしながら伝える。


「これは俺が俺の責任を放棄した問題です、だからアリアさんと同じっすよ」


 それでもまだ自分を責める事をやめられないアリア。

 守の優しさが沁みて逆に傷付いてしまった。


「でもオーディションはもう無理じゃん……」


 嘆くアリアに対して守はまた強がる。

 彼女を一時の間でも元気づけるために。


「いや行きますよ、痛くてもアドレナリン出まくれば我慢できるかも知れないし」


 そしてもう一つ行く理由があった。

 守はポケットからあるものを取り出しアリアに見せる。


「あとこれっす」


「これ、篤人さんのスマホ?」


 守がポケットから取り出したものは篤人のスマホだった。


「さっきこれに着信があって」


 守はその電話に応答した時の事を思い出していた。


____________________


 怪我の治療をした後、守が持つ篤人のスマホに一通の着信があった。

 画面に記された名前は"モモ"とあった。

 すぐにそれが誰かを理解する。


「……もしもし」


 自然と応答してしまっていた。

 すると電話越しの相手は守の声を聞き疑問を抱く。


『あれ、あっちゃんのスマホだよね……?』


 少しハスキーな女性の声が聞こえた。

 すぐに篤人に見せてもらったモモである事を理解する。


「はい、預かってます……」


『え、じゃあ今アイツは? 怪獣出たってニュース見て心配で……』


「っ……」


 言葉を失ってしまう守にモモは嫌な予感を察する。


『ウソ……』


 電話越しで姿すら見えないが守はモモの声を聞き反省を強く感じた。

 だからこそ伝えなければならないと思ったのだ。


「ごめんなさい、俺たちのせいです。あんなに良くしてくれたのに……」


 モモからの応答はない。

 恐らくまだ気持ちの整理がつかないのだろう。


「だからもっとちゃんと謝らせて下さい。自分に出来る反省がしたいんです……っ」


 そこで守は自分のやるべき事を理解したのだ。


____________________


 その事をアリアに伝えて自分のやるべき事を示す。


「東京へ行きましょうアリアさん、誠心誠意モモさんに謝罪するんです」


 その言葉を聞いたアリアは少しやるべき事を理解したような気がする。


「やっちゃった事は変わらないけどそこで後戻りするより先に進んだ方が良いと思うんです、そうでしょ?」


 守を見つめる瞳に少し光が宿った。


「うん……」


 完全に元気を取り戻した訳ではないが少しだけ心に温かい何かが灯ったような気がした。

 その気持ちが一体なんなのか、アリアは確かめるためにも守に問う。


「ねぇ、何でそんなに気にかけてくれるの? 私巻き込んでばっかなのに、何で?」


 すると守は少し顔を赤くしながら照れくさそうに答える。


「カッコ付けずに言うと自分のためっすよ、最高のロックやりたいからっす」


「どういう事?」


「まぁその理由いうとちょっとカッコ付けてるみたいになっちゃうけど……」


 恥ずかしがりながらも何とか理由を答えた。


「アリアさんのために弾いたロックが一番しっくり来たんすよ、学祭の時に……っ」


「え……」


「オーディションで最高のロック魅せてやりたいから是非アリアさんにも東京に来て欲しいんですっ!」


 勇気を振り絞りオーディションの観覧に誘う。

 守にとってロックとは親や環境に反抗するためのものだった、しかし今は大切な人に元気を与えるために演奏するものに変わったのだ。


「そっか……」


 その話を聞いたアリアは満たされたような表情を浮かべながらも少し考えた。

 そして自分なりに折り合いをつけた答えを出す。


「嬉しいよ。でも私このままじゃ行けない、また巻き込んじゃうから」


「そ、そうですよね……」


「だから……」


 ガッカリしたような守にしっかり想いを伝える。


「先にアイツをぶっ倒す! そしたらもうシナーはいなくなるから安心して旅できるよ!」


 守の瞳にも光が宿った。

 お互いがお互いの光を灯したのだ。





 二人は何とか警官の目を掻い潜って公園から外へ出た。

 そして歩きながら作戦を考える、ヤツはこれまでにない協力なシナーであり能力も封じられてしまうから。


「あの、戦闘訓練は受けてるって言ってましたよね?」


 病院でシンを生身で投げ飛ばした時に言っていた事を思い出した守は何かを思い付きアリアに問う。


「うん、能力なしでも戦えるようにって……今思えばアイツの対策だったのかな?」


 道中でアリアはふと上を見上げる。

 そこには巨大化した時の身の丈ほどある鉄塔が立っていた、一本だけではなく連なるようにいくつも。


「……これ使えないかな?」


 そして二人は作戦を思い付き覚悟を決めるのだった。


 ***


 一方でクラウスは横転した軍用機を元に戻した後、研究員たちと共に即席の拘束具を作った。

 その理由は"ある存在"を捕えるためである。


「ふぅー、手こずらせてくれる……」


 額の汗を拭いながらクラウスは例の捕らえた存在を見る、それは人間サイズにまで縮小した第7のシナーだった。

 アリアを倒した時に帯びた謎のエネルギーはまだ帯びたままである。


「ク、クラウス様……一体どうするおつもりですか?」


 研究員の一人が恐る恐る尋ねてみるとクラウスは彼の方を見てニコリと笑った。


「俺は聖王になるつもりだった、"この世界"では名誉ある称号だから……」


「っ……」


「だがコイツの力があれば俺は聖王なんて軽く超えた新たなる存在へと進化できる……! 罪に並ぶ新概念、その世界で支配者になれるんだ……!」


 武者震いが止まらないクラウス。

 そんな彼を見た研究員は恐ろしいと感じ別の震えを覚えるのだった。





 アリアと守は作戦を確認し準備をしている。

 そんな中でふと気になった事を守は聞いた。


「あの、クラウスって何考えてんすかね? 聖王にバレたらマズいみたいなこと言ってたし……」


 守は気になったのだ、クラウスも外なる理の存在ならこの世界はどうでも良いのではないかと。

 そしてクラウスの話題が出た事でアリアは顔を上げる。


「アイツは他人を支配したいだけ、上に立ちたいだけ。だからこの世界が無くなったら困るんでしょ、支配するものが無くなっちゃう」


 変身して戦うようにやる以前からクラウスとの関わりがあるアリアは彼の人間性を見抜いていた。


「何でそんな事……」


「孤独なんだよ、多分」


 クラウスは孤独だとアリアは言った。

 それにより守は少し元気になる。


「じゃあ気持ちなら俺たち負けてないっすね」


「うん」


「戦う時は俺を思い出して下さい。俺がアリアさんのために演奏して上手くやったみたいに誰かのためなら人って力出るんすよ」


 この守の言葉はアリアに深く刺さった。

 今まで自分は自分のために責任を放棄して結果人々を傷付けた。

 守の演奏のために戦えば、モモに謝るために旅をすれば。

 そのように意識を変えれば上手く行くのではないか、そう考えると勇気が湧いて来た。


「ねぇ自分の演奏のためって言ってたけどさ、そもそも何で私に聞かせたかったの?」


「え!」


 アリアに予想外の質問をされて驚いた。

 自分でもクサい事を言ってしまったと顔が赤くなる。


「い、言ったじゃないすか同じ気持ちだからって!」


 何か誤魔化すように言う守だがアリアにとってはその様子すら微笑ましかった。


「学祭の時"聞いて欲しい人がいる"って名指しされたからさ、ちょっと冷やかされたよね」


「あれは恥ずかしかったっすね……」


「でも嬉しかったよ」


「え……?」


 アリアは真剣に守の瞳の奥を見つめていた。

 守も思わず吸い込まれてしまいそうで。


「冷やかされた時、嬉しかった。普通の女の子みたいな気持ちになれたんだよ」


 何か凄くムードが出来ている気がした守はある予感を覚え少し身震いした。


「あはは、そりゃ良かったっすわ……?」


 恥ずかしくて目を逸らしてしまうとアリアが目の前に覗き込んで来た。

 顔が近い、これは期待して良いのだろうか。


「ねぇちゃんとこっち見て」


「……はいっ」


 どんどん近付いて来るアリアの顔。

 覚悟を決めた守は目を閉じる。


「……あれ?」


 しかしいつまで経っても触れ合う感覚は訪れない。

 恐る恐る目を開けてみた途端だった。


「んっ⁈」


 一瞬だけ唇に柔らかいものが触れた感覚が。

 その後アリアはすぐに守から離れてニコニコしている。


「えへへ、返事は終わってから聞くから!」


 そう言ってアリアはどんどん離れていく。

 そして木々の間に消えてから巨大化した。


『ハァッ!』


 それを見た守は気持ちを切り替え覚悟を決める。


「誘き出す作戦、上手く行きますように……!」


 祈りながらアリアを見つめていると木々が揺れ始めた、嫌な予感がする。

 こんなに早く現れると言うのか。


『いやぁ待ちわびたよ、遂に俺にひれ伏す世界が生まれるんだ!』


 なんと現れたのはクラウスの声を発するシナーだった。


『なっ、クラウスの声……⁈』


『その通り! 俺は新たな概念となる!』


 第7のシナーと同じ姿ではあるがオーラが明らかに違う存在が目の前に立ちはだかったのだった。






 つづく

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?