アリアに向けて異常なまでの殺気を放つシン。
彼は遂に目標だった憎きアリアを見つけ思い切り飛びかかった。
「うらぁぁっ!」
病室のベッドの上でアリアに馬乗りになるように跨りその細い首をキツく絞める。
「ぁがっ……」
頸動脈を圧迫され痛みと息苦しさが同時に押し寄せる。
一瞬で脳に酸素が回らなくなり意識が飛んでしまいそうになった。
しかしそこで守が動く。
「わぁぁぁっ!」
自分の座っていた椅子を持ち上げシンの頭部を思い切り殴ろうと試みる。
しかし命中する前にシンに気付かれてしまい両手で受け止められてしまった。
「あっ……」
次は守を強く睨むシン。
命の危機を感じたが解放されたアリアも動いた。
「ふんっ!」
思い切りシンの股間に膝蹴りを入れる。
予想外の抵抗にシンはベッドから床に落ちのたうち回った。
「あ、ありがと……っ」
「こっちがだよ……!」
守とアリアはお互いに感謝を述べ立ち上がり共に病室から逃げる。
シンが倒れている隙を突いたのだが彼らが病室を出てすぐにシンは立ち上がった。
「ふー、ふーっ」
そのまま彼も走り出し逃げた目標を追いかけるのだった。
***
病院内を思い切り走る二人。
意識せずに手まで繋いでいた。
「本当にアレ弟なんですか⁈」
「私も初耳だった!」
走りながらシンの正体について少し話題を出したがすぐにその会話は阻まれる。
背後から追いかけて来る足音が聞こえるのだ。
ヒタヒタとした足音で靴を履いていない事が分かる、確実にシンだろう。
「やばい来てますよ!」
「てゆーか……っ」
アリアは周囲に大勢の怪我人がいる事に気が付いた。
シンはその被害者たちを巻き込もうがお構いなしに壁や人にぶつかりながら進んで来る。
「あぁっ……」
すると足を怪我し松葉杖をついた人物と衝突し転ばせてしまう。
その様子を振り返り見たアリアは我慢が出来なくなってしまった。
「お願い人を巻き込まないで!」
そう言って急ブレーキをかけて立ち止まり振り向いた後、シンに向かって拳を構える。
「はぁっ……!」
そのまま勢い任せに突っ込んで来たシンに対し思い切り背負い投げを決めた。
「おおっ……!」
背中に衝撃が伝わったシンは一瞬理解に苦しむがすぐにアリアの言葉で目が覚める。
「戦闘訓練はずっとしてた、これくらい簡単だよ」
その言葉で舐めてかかってはいけない相手だと理解しシンは手を振り払い立ち上がる。
しかし対するアリアはこれだけで息切れしていた。
「ぐっ……はぁ、はぁ……」
目覚めたばかりなので本来はまだ安静にしてなければいけない。
無理に動いたため傷が痛んでしまったのだ。
「阿部マリア……殺すっ!」
そのまま低い姿勢で掴み掛かるシン。
傷付いたアリアは上手く抵抗できずに取っ組み合いとなってしまった。
「ぐっ、やめっ……」
わざとアリアの傷を狙うように攻撃を繰り出すシン。
それだけ憎しみが籠っているのだろう。
「少しは分かったか、俺の苦しみが……⁈」
そう言われてアリアは気が付く。
シンの苦しみ、直前までアリアはシンの記憶のような夢を見ていた。
「苦しみ、これが……っ?」
何かを思い少し考えるアリア。
その時、またこの世界に崩壊の兆候が。
「うわっ、また……!」
再び地震が起こり大きく揺れたのだ。
その拍子にアリアはシンを突き飛ばし何とか立ち上がる。
「クソッ……!」
それでもまだ地震は続き両者とも足元がおぼつかない。
なかなか距離を詰めれず決着はつかぬまま。
「うぉぉっ!」
揺れが収まったタイミングでシンが動き出す。
しかしアリアは傷が痛み動けない。
そこへ守が駆け付ける。
「やめろぉーっ!」
アリアとシンの間に割って入る。
止めようと右手を前に出した、そして。
「ぐぅっ……⁈」
思い切りシンは守の右手に噛み付いた。
とてつもない顎の力が守の手に加わり流血してしまう。
それだけでない、何か鈍い痛みも感じたような。
「守クンッ!」
自分を庇い怪我を負った守を見て声を上げるアリア。
体は動いた、無意識の内にシンを思い切り殴り飛ばしていたのだ。
「ごはっ……」
後退するシン。
すると丁度そこにある影が。
「動くなっ!」
このタイミングで先程の警官がやって来たのだ。
シンの危険性は分かったので念のため拳銃を構えていた。
「あぁ?」
銃口を向けられた事に腹を立てたシンはまず警官から片付けようとそちらに向かって爪を立てる。
それを見た警官はシンの危険性を改めて感じ、引き金にかかった指を強く引いたのだった。
「っ……!」
大きな銃声が響く。
その瞬間、シンの左肩からは真っ赤な鮮血が流れた。
慌てて傷口を押さえながら抱え込むシン。
「くそっ……」
慌てて走り出し警官から逃げるシン。
警官も追いかけようとするが怪我人などを気にしてはこれ以上発砲も追跡も出来なかった。
「だ、大丈夫か君たち⁈」
なので守やアリアに駆け寄り安否を気にかける。
するとアリアは無事だが守はかなり痛がっている様子だった。
「うぐぐ……っ」
シンに噛まれた右手を押さえながら震えていた。
アリアもその様子を見ながら罪悪感に震えている。
「そんな……っ」
そのまま警官は無線を使い仲間に連絡を取った。
シンは明らかにアリアを狙っていたため彼女を保護する事を提案したのだ。
☆
一通り騒動が落ち着いた後、アリアは近くの交番に移された。
複数の警官たちが保護してくれているが彼女は守の存在が気掛かりで仕方なかった。
「大丈夫? なんか飲むかい?」
「いいです……」
優しい警官が声を掛けてくれるがアリアは自分のせいで良くしてくれた人が傷付く事を恐れ拒絶してしまった。
その様子を見た警官は彼女が何を考えているのか少し察知して話題を振った。
「あの男の子なら大丈夫だよ、ちょっと右手にヒビ入っちゃったみたいだけど安静にしてれば1ヶ月もかからないって」
その言葉を聞いた途端アリアは目を見開く。
「え、ヒビ……?」
シンに噛まれた時だろう。
守はギターを弾く、オーディションだって迫っていると言うのに。
「うっ、うぅっ……」
度重なる試練に涙が出てしまう。
また自分のせいで他人が、その中でも特に大切な守が傷付いてしまった。
「守クンはギター弾くんですっ、オーディションだってあるのに……!」
泣き出したアリアに警官はすかさずティッシュを渡すが彼女の涙はいくら紙を使っても拭えない。
「また私のせいで良くしてくれた人が……!」
するとそこで聞き慣れた声が聞こえる。
「良くしてくれた人が何なんです?」
「っ⁈」
ハッと顔を上げるとそこには守の姿が。
ギターケースを背負い右手には包帯を巻いている。
「アリアさん、俺の気持ちで良ければ聞いて下さい」
こうして守はアリアに向けて自分の気持ちを語り出すのであった。
それが彼女にとってどのような救いになるのだろうか、彼らにどのような道を示すのだろうか。
つづく