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#1

 アリアは救急車で病院へと運ばれた。

 守もずっと側についていたが病院がまだ機能していた事に驚いた。

 彼女は怪我が酷かったため先回しで治療室に運ばれたのだった。


「何であんな所にいたの?」


 応急処置を一通り終えて眠りにつくアリアを見ていると看護婦に声を掛けられた。

 確かにシナーが暴れた中心にいたのだから気になるだろう。


「温泉にいて……」


「そこは昨日の件で立ち入り禁止よ? 本当は何してたの?」


「っ……」


 アリアの正体は明かしてはならない。

 そのため守は黙ってしまった。


「とにかく親御さんに連絡するわ、番号を教えて」


 そう言われてしまうが拒絶する事も出来ず自宅の番号を紙に書いて看護婦に手渡す。

 すると彼女は廊下に出て電話をした。

 話がつくのが聞こえる。


「話したわ、北海道から家出して来たのね」


「はい……」


「こんな遠くまで……親御さんが迎えに来てくれるそうよ」


「え……?」


 なんと看護婦は守の両親がここまで迎えに来てくれると言ったのだ、家出をする事を容認した両親が何故だろう。


「くっ……」


 複雑な気持ちになってしまった守はアリアが安定した事もあってか少しその場を離れ病院の外に出る。

 周囲ではアリアとシナーの戦いに巻き込まれたであろう人々が嘆いていた。


「うわぁぁぁっ……」


 まさに今、守の目の前で懸命な処置の結果家族を亡くしてしまった者が報告を受けていた。

 医師も看護婦も大変そうだ、かなり疲弊しているのが分かる。


「くっ……」


 自分がアリアを焚き付けてしまったからという原因も大いにあるだろう。

 責任を感じ歯軋りをしながら外へ出た。



『もし変えてしまったらその責任は重いぞ』



 父親の言葉が脳裏に浮かぶ。

 アリアも自分も環境を変えたからその責任が降り注いでしまったのだ。

 その責任に押し潰されそうになった守は誤魔化すように外でギターを取り出しアンプには繋がず生音で奏で始めた。


「うぅ寒っ……」


 風が吹き始め手が震える。

 このままではまともに演奏も出来ない、そう思ったタイミングで目の前に人影が。


「あ、えっと……」


 人影を察知し顔を上げる守。

 誰かと思いその顔を覗き込み正体に驚愕する。


「え……⁈」


 その顔には見覚えがあった。

 一瞬だったが忘れはしないこの特徴。

 細身の体に白髪、そして幸の薄そうな表情。

 それはM'sの軍用機で薬液に浸かっていたシンであった。


「阿部マリアはどこだ?」








Call Me ARIA. episode5








 突如として守の目の前に現れたシン。

 ギターを持った守に圧を掛けるように尋ねて来た。


「阿部マリアはどこかと聞いている」


 その瞳には怒りや憎しみが溢れていた。

 もしこのまま案内すればアリアが殺されてしまうかも知れない。


「な、何で俺に……?」


 ひとまず守は何故自分に尋ねるのか聞いてみた。


「記憶を見た」


「記憶……?」


「罪を通して流れて来た阿部マリアの記憶だ」


 それは逆流した罪と共に見えて来た意識。


「だからここにいるのは分かっている、お前も知っている。案内しろ」


 ひたすら上から圧を掛けて来るシン。

 ただその全身を見た守は立ち上がり彼に指摘した。


「とりあえず服は着ないと、辿り着く前に止められますよ……」


 シンの姿は機械から出て来たままでありつまりは全裸だ、このままでは病院に入った時点で止められアリアの所にまで辿り着けない。

 そのチャンスを何とか活かす事にしたのだ。


「なんか服ないか探して来ますね……」


 そう言ってシンをその場に留め病院の中に入って行く。

 シンが素直に動かないのを見ながら守は来ていた警察に声を掛けた。


「あの、外に全裸の人が……」


 すると警察官はすぐに動いた。

 単独で心配だったが相手は丸腰で全裸だ。

 すぐにシンを見つけた警官は彼に声を掛ける。


「あのーすいません、風呂入ったまま逃げた感じですか?」


 一応まずは優しく声を掛ける。

 しかしシンは無言だ。


「一応こっちに毛布ありますんで、ひとまずそれで……」


 そう言いシンの手を掴む警官。

 そのタイミングでシンは動き出す。


「フンっ!」


 思い切り警官の顔面を殴り飛ばすシン。

 警官は訳が分からず鼻血の出る顔を押さえていた。


「えっ、何するんだ!」


 尚も追撃しようと迫るシンに慌てて警棒を出す。


「止まれ! それ以上近付くと……」


 それでも守は心配だった。

 シンは例の怪獣であるシナーの大元だと聞いた。

 ただの警棒による打撃が効くのだろうか。


「うわぁっ!」


 恐れた警官は目の前まで迫ったシンの頭を思い切り警棒で殴った。

 守はこれだけではダメだと思ったが意外にもシンはその打撃によりあっさりと気を失ってしまった。


「……あれ?」


 頭から少量の血を流し呆気なく倒れたシンは目の前が病院な事もありそのまま治療室へ運ばれた。





 シンとアリア、この二人はそれぞれの病室で眠っていた。

 互いに少しずつ魘されながら夢を見ている。


「うぅっ……」


 シンの夢に流れて来る映像、それはアリアの記憶だろうか。

 守にも言っていた記憶、まさにそれを見ながら魘されているのである。

 目の前には自分とよく似たシナーという存在、それにより傷付けられていく体。

 夢の中での記憶だと言うのに鮮明に伝わって来た。


「はぁ、はぁ……」


 対するアリアはシンの記憶を見ている、断片的だが何となく何が起こっているのかは把握できた。

 それはまだ幼い頃、生まれながらに存在を否定されたシンは隔離されていた。

 そして人として扱われているとは思えぬシナーを生み出すための実験を受けさせられた。

 何度も薬液に漬けられ電撃を浴びせられ、その度に体はボロボロになって行く。

 そしてそれでも自分は報われる事がなく憎しみはアリアに向いて行く事となるのだ。


「ーーーはっ」


 そして共に目が覚めたシンとアリア。

 アリアが寝ていたベッドの横には守の姿があった。


「あ、起きました……?」


「え……?」


 まだ現実の状況は把握できない。

 夢との狭間で少し困惑していた。


「(今のは夢……? それともシンの……)」


 起き上がり頭を抱えてしまう。

 すると守が心配したように無理やり寝かせて来た。


「まだ寝てないとダメですよ、ナースコールしますね」


 看護師を呼び出しアリアが目覚めた事を伝える。

 そのまま医師の検査もあったがまだ安静にしていた方が良いとの事だ。


 ***


 病室に戻ったアリアは守と話していた。

 一度現状の把握をしておきたかったのである。


「それで俺の両親がこっちまで迎えに来るって……」


「そっか……じゃあもう帰りなよ」


 まだまだ巻き込んでしまった責任による心の傷は癒えていない、なので旅を終わらせ守の事も帰らせようとする。

 責任を投げ出すという事そのものを恐れてしまったのだ。


「でも俺、正直まだ家には帰りたくない……」


「何言ってんの……君はやっぱり無関係なんだから巻き込まれる前に帰った方が良いって」


 自分のせいで他人を巻き込み死なせてしまった事をずっと引き摺っている。

 ましてや守がそうなってしまう事を考えると胸が引き裂かれてしまいそうだ。


「アリアさんはどうするんですか? 戻ったら世界滅ぶって……」


「私は何とかする、とりあえず今は動けないから回復するまでにどうするか考える」


「そんな……」


 守は一人で考える。

 何故自分はここにいるのか、旅をしようと思ったのか一度原点に回帰し考えた。


「俺、ロックやりたいんです。親とかに縛られない自由なロックを……」


 しかし今はその自由というのが引っかかっていた。


「でもその自由ってこんな……っ」


 被害を思い出し思わず口を押さえてしまう。

 アリアもその様子を見て少し哀れんだがそのタイミングでナースから部屋に内線が。


「あ、もしもし……?」


 内線に応答すると看護婦が焦った様子で知らせをする。


『阿部マリアさんの病室ですよね、すぐ逃げて下さいっ!』


 訳が分からない。

 意味を理解しようとした間に病室の扉がガラッと開いた。


「えっ」


 そこに立っていたのは上裸で病院服のズボンだけ履いたシンだった。

 息を荒立てながらアリアを睨んでいる。


「見つけたぞ、阿部マリア……!」


 凄まじい殺気を放ちシンはアリアを捕捉した。

 完全に殺すつもりで近付いて行くのだった。






 つづく

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