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#3

 また同じ場所、焼け野原と化した青森に朝焼けと共にシナーが出現した。

 これまでとは一線を画すような神々しい姿をしている。

 それはこれが最後のシナーであるから。


「第7のシナー"傲慢のルシファー"だ」


 クラウスは意気揚々と説明をする。

 確かに醜い体に翼の生えたその姿は堕天使そのものだった。


「これまでにない強敵だぞ、どうするマリア?」


 アリアは歯を食いしばる。

 これ以上自分のせいで誰かを傷付けたくなかった。


「くっ……!」


 軍用機から飛び出し巨大な姿に変身する。

 そして朝焼けの中シナーに向けて拳を構えた。


『ハッ……』


 明らかに異質な人型のシナーは腕を組みアリアの様子を伺うように立ち尽くしている。

 隙だらけに見えて一瞬の隙も感じなかった。


「ヴヴヴン」


 謎の唸り声のようなものを上げながらただ立っている。

 しかし気のせいだろうか、その唸り声は徐々に大きくなっているような気がした。


『クッ……』


 それでも威圧感に押され動けないアリア。

 そのままジリジリと後ずさってしまった所でシナーが動いた。


「ヴォォォオオオオオ」


 凄まじい雄叫びのような轟音を放つ。

 大気が揺れ、アリアも思わず耳を塞いでしまった。


『ぐっ、でも……!』


 危険な相手である事を瞬時に察知し光の刃を二刀流で繰り出そうとした瞬間、ある事に気付く。


『あれ、刃が出ない……?』


 光の刃が手から出現しないのだ。

 これまでは念じればすぐに出せたというのに。


「ヴンッ」


 そう思っていた矢先、突然シナーがまた動き出す。

 なんとアリアがまさに出そうとしていた光の刃を出現させたのだった。


『な、何で……⁈』


 そのまま刃を構えるシナー。

 完全にアリアを捉えていた。


「ヴヴヴォォ……」


 狼狽えるアリアを見たクラウスは独り言のようにこのシナーの特徴を呟く。


「最後のシナーは全ての罪を司る存在だ、君の罪を宿す力は双子であるコイツからの借り物なんだよ」


 第7のシナー"傲慢のルシファー"の能力とは全ての罪を司る事であった、つまりアリアの能力は全て奪われ何も使えないという事。


『ウソでしょ……』


 光の刃を構えゆっくりと近付いて来るシナーを恐れて後退してしまうアリア。

 そして目の前まで来たシナーはまず軽く刃を振るった。


「ヴンッ」


『クッ……』


 今はただ避ける事に専念するアリア。

 この刃の切れ味は自分が一番よく知っている。


「逃げてばかりじゃないか、勝ってくれないと」


 モニターにて映像で戦闘を確認するクラウス。

 画面越しに見ていた守はとうとう我慢できなくなる。


「アリアさんっ!」


 軍用機を飛び出し肉眼で彼女の戦いを確認しに行くのだった。





 守が森の中に隠された軍用機から出ると木々の向こうに巨大化し必死に攻撃を避けるアリアの姿が。

 シナーの動きは段々とキレを増して行きアリアも避けるので精一杯だ。


「あぁっ……!」


 クラウスが"勝ってもらわねば困る"と言ったため殺す気はないのだろうが今にも殺されてしまいそうでヒヤヒヤする。


『クアッ……』


 守がそう思った矢先、シナーの刃による突きがアリアの頬に掠る。

 少しだけ血液が飛び散り木々に茂る葉を赤く染める。

 モニターで見ていたクラウスも顔を顰めた。


「何で反撃しないんだ?」


 それは守も抱いていた疑問だった。

 確かにシナーに隙は見えない、しかしそれを伺おうとする意思をアリアから感じなかったのだ。


『グゥッ……』


 そしてアリアは一点をひたすら守っているような姿勢を見せている。

 彼女の背後には避難所となっている学校があったのだ。


「まさか守ろうとしているのか?」


 モニターの画面を拡大するとそこから出て来る人々、その中にはアリアに豚汁をくれた女性の姿もあった。

 そんな人々が逃げ惑う姿を見てアリアは篤人たちを思い出したのだ。


「面倒だな、じゃあ先に始末するか」


 そのような言葉を聞いた研究員たち。

 彼らは少し顔を顰める。


「ほらやるんだよ、人が居なくなれば彼女も気にせず戦える」


 近くにいた研究員の肩を叩いて催促する。

 それに恐れてしまった研究員は仕方なくコンピュータを弄りシンを操作しシナーに指示を与えた。


「ヴォオオオオン」


 突然動きを変えるシナー。

 アリアは更に身構えてしまう。


「ヴゥゥンッ」


 突然彼女を無視して学校に向けて突っ込み始めた。

 予想外の行動に一瞬固まってしまうアリアだったがすぐに我に返りシナーを背後から抱き締めるように掴んだ。


『アァァァッ……!』


 締め上げるようにどんどん持ち上げ動きを完全に封じようと試みる。

 しかしシナーもやられるだけでなく当然のように抵抗した。


『やめてぇぇぇっ……』


「ヴォンヴォン」


 その際に振った刃がアリアの肩や足を少し切る。

 痛みに耐えながらアリアは何とか遠くへシナーを投げ飛ばした。


『デヤァァァッ……!』


 そのままシナーは勢いよく守たちのいる軍用機の方向へ飛んで行く。

 直撃ではないが衝撃が届き吹き飛ばされるくらいには近かった。


「うわぁぁぁっ!」


 思い切り吹き飛んでしまう守、怪我はなかったがかなりの衝撃が伝わった。

 アリアも投げ飛ばしてから方向を誤った事に気付く。

 他人を守る事に集中し過ぎてしまったのだ。


『守クン!』


 しかし守の心配ばかりしていられなかった。

 すぐにシナーは立ち上がりアリアに再度向かって行ったのだ。





 一方で軍用機も横転してしまい多くの研究員やオペレーター達が怪我をしてしまった、クラウスもその一人である。


「くっ、想定以上の馬鹿力だ……」


 あの距離からアリアがここまでシナーを投げ飛ばして来る事は想定していなかった。

 これも他人を想う故の力なのだろうか。


「ク、クラウス様……」


「ん?」


 すると研究員の一人が怯えたようにシンが眠っている方を指差す。

 そちらを見たクラウスは衝撃を受けてしまった。


「おいおいマジか……」


 そこには割れたガラスと溢れた薬液だけが残されておりシンの姿は無かった。

 なんと今の衝撃で逃げ出してしまったのだ。


「クソッ、何てこった!」


 明らかに気が動転し額から血を流しながら床を思い切り叩くクラウス。

 その様子に周囲の人々は怯えていた。


 ***


 そして戦い続けるアリア。

 シナーは光の刃以外にも罪の能力を使用して来る。


「ヴォン」


 腕が6本に増えた、そしてそれぞれの手にシャボン玉のような泡を持っている。

 憤怒のシナーと嫉妬のシナーの合わせ技だ。

 そのまま泡を投げ付けて来た、これに捕まれば身動きが取れなくなってしまう。


『クッ……』


 必死になって避けるがそのせいでシナー本体を見れていなかった。

 まるで避ける方向を誘導されたかのように敵の目の前まで来てしまう。


「ヴァンッ」


 そして思い切りアリアを6本の腕で何度も殴って行く。

 まるであの時のシナーのようであった。


『アッ、ガッ、ゴフッ……』


 そのままとてつもないダメージを受け吹き飛ばされてしまうアリアはまともに立ち上がれなかった。

 これは第1のシナー"怠惰のベルフェゴール"によるものだろう、奴は時間経過で力が強くなって行った。

 一番初めに戦ったシナー、弱いと思っていたが能力が合わさればここまで化けるのか。


『ア、グフッ……』


 そのまま体力を使い果たし負けてしまうアリア。

 胸にあるコアから卵が孵るように本体が現れる。


「アリアさんっ!」


 完敗だった。

 一同が唖然としているとシナーの様子が。


「ヴッ、ゴヴァァァァッ……」


 突然全身が痙攣を始めたのだ。

 そして随所から凄まじい光を放つ。

 横転した軍用機から見ていたクラウスは衝撃を受けていた。


「何だ、何が起こっている……⁈」


 そして変化していくデータの数値。

 それを見て意味を理解したクラウスは目を見開いた。


「なるほど、そういう事か……!」


 周囲の人々は更に怯えたような表情を浮かべクラウスを見ていた。


「罪が聖を撃ち倒したんだ……!」


 そしてそこにいた一同に振り返り喜びを伝える。


「これなら俺は聖王に……いや、聖王を超えた更なる偉大な存在へと進化できる……っ!」


 倒れたアリアや他の人々の心配など一切せずにクラウスは自分の目的を果たす材料が揃った事を喜んでいた。

 そしてその頃、守はアリアの所へ走り救急車を呼んだのだった。






 つづく

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