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#2

 何と逃亡した先の避難所で母親と再会したアリア。

 あまりに予想外であったため一瞬それがどういう意味なのか理解できなかった。


「何で、お母さん……?」


 必死に思考を巡らせようとするが何も考えられない。

 すると母がアリアの肩を思い切り掴んである事を伝える。


「マリア、逃げなさい」


 真剣な表情で伝える母を見たアリアは余計に訳が分からなくなり混乱してしまう。


「どういう事……⁈ 私を捕まえに来たんじゃないの? だからこんな事に……っ」


 周囲を見渡すように促す。

 母もそれに応えてからしっかりと自分の意思を伝えた。


「貴女が耐えられないから逃げ出したのは分かってる、それなのにこんな思いまでさせて……」


 母は今のアリアの気持ちも考えているようだ。

 そしていつものようにアリアにある言葉を伝える。


「ごめんなさい……」


「また謝って……っ」


 謝ってばかりの母に少し苛立ちを覚えるアリアだが母は続けた。


「でも聞いて。このまま貴女が戻ればこの世界は確実に終わる、"外なる理"が見捨てようとしてるの……!」


 また理解が出来ない発言だ。

 アリアが逃げ出した事で世界が崩壊に向かうのだから戻った方が世のためなのではないのか。


「何で、これも私のせい……?」


「だからこれ以上罪悪感に苦しんで欲しくない、逃げて生き延びる方法を探して……」


 母がそこまで言い掛けたタイミングで声を掛けられる。

 アリアにとってはこれも聞き覚えのある声だった。


「見つけてくれたんですね!」


 調子のいい男性の声、クラウスだった。


「〜っ!」


 母は焦ったような表情を浮かべる。

 クラウスはそのまま三人の方へ近付いて来て話した。

 すると守の方を見て少し首を傾げる。


「ん、君生きてたんだ。まぁいっか、どのみち結果はオーライみたいだし」


 心折れたアリアの様子を見て少し微笑むクラウスにアリアは疑問を投げかける。


「どういう事、守クンが生きてたんだって……?」


 怒りや憎悪などが溢れそうなアリアはそれらを必死に抑えながら問いかけた。


「君の心を折って帰ってきてもらおうって魂胆だったんだよな」


「それって……!」


 瞬時に意味を理解するアリア。

 守も同様でアリアの隣でショックを受けている。

 つまりクラウスは守を殺す気でシナーを出現させたというらしい。

 それに気付いたアリアは思わずクラウスを殴りそうになってしまうが周囲の目を気にして抑えた。


「おぉ怖。ていうか状況が変わったんだ、かなり深刻だから話したい」


 急にシリアスなトーンに変わるクラウス。


「ここじゃなんだから場所を移そうか」


 今はこのクラウスという男が恐ろしくてたまらなかった、なのでアリア達は大人しく彼に着いて行く事となる。





 やって来たのは先程までクラウス達のいた軍用機。

 案内された部屋に入ったアリア達は目を見開く。


「なに、これ……」


 そこには機械の中で薬液に漬けられた白髪の男の姿が。


「君は初めて見るんだよな、これが君が戦って来たシナーの根源だよ」


「え……っ?」


「全部コイツから抽出された罪なんだ」


 クラウスの説明が理解できない。

 ならば一体この男は何者なのか。


「誰なんだって顔してるね、教えてやるよ」


 遂にアリアに情報を公開する時が来た。

 しかし母は強く反発する。


「だ、ダメ……! 彼の正体は極秘で……」


 極秘事項である以上の隠したい理由があるように思えた、そのためクラウスは彼女に詰め寄る。


「元々お前の罪が招いた問題だろ? コイツがいなきゃさっさと俺は聖王になれたのによ」


 突然雰囲気を大きく変えて圧をかけてくる。

 母はこれ以上何も言えなかった。


「気を取り直してマリア、このシナーの事だけどね」


 またすぐに調子のいい笑顔に戻ったクラウス。

 そのまま衝撃の真実を語るのだった。


「彼はシン。君の双子の弟だ」


 明かされた真実を聞いていた母は俯いていた。

 対するアリアはというと。


「……え?」


 全く意味が理解できずに固まってしまっている。

 その間はただジッと弟と言われたシンの方を見つめていた。


「ゴポポポッ……」


 薬液に浸されたこの白髪の男がシナーであり更に弟であるとクラウスは言った、とうとうアリアは頭がパンクしてしまいその場に座り込んでしまった。

 慌ててアリアに駆け寄る守。


「アリアさんっ!」


 本気で彼女を心配している守だがその様子を見て呼ぶ名を聞いたクラウスは訂正をする。


「アリア? 違うよ、彼女の名はマリアだ。セイント・マリア、我々"外なる理"のために祈り続ける存在」


 また知らない言葉が出て来た。

 厳密には先ほど母が言ってはいたが耳に入っていない。


「外なる理……?」


 当然のように疑問を抱く守。

 それに対しクラウスは少し考えてから一言。


「君も既にこの件に纏わる重要人物だ、真実を知る権利はあるだろう」


 どうやらクラウスは事の真相を守に話すらしい。

 しかしアリアの母はそれを良しとしない表情を浮かべていた、しかし反論は出来なかった。


「外なる理。俺みたいなセイント・マリアを娶り聖王となる存在はね、この世の存在じゃないんだ」


 また更に衝撃的な言葉から説明が始まる。

 彼と聖王の正体を語り出したのだった。





 機械の中で薬液に漬けられるシンを背に自らの正体とそれを踏まえた現状を解説しだすクラウス。


「この世界は俺たち外なる理との取引のもと成り立っている。俺たちの世界は君たちの世界のエネルギーにより生かされ、君たちの世界は俺たちの世界からの干渉により生かされているんだよ」


「この世界のエネルギー?」


「そう、まさにそれが罪なんだ。本来セイント・マリアはこの世界に降り立った外なる理の者と交わる事で次のマリアを生む、マリアは人が持つ罪を浄化し外なる理へと送る力を持ってるんだ。それが繰り返される事で世界は存続して来たんだよ」


 そこでクラウスはアリアの母を見ながら言った。


「しかしこの先代マリアは大罪を犯した。現聖王に娶られ次代のマリアを生むはずだったと言うのに人間の男との間に子を宿したんだ、その結果均衡は崩れ去った」


 俯く母、そしてクラウスはシンを見上げる。

 そのままアリアを指差して告げた。


「そして生まれたのが君たち双子だ。大罪の呪いとして君たちはマリアが本来受け持つ力を分割して持たされた。聖なるマリアと罪のシン、これでは罪をエネルギーとして送る事が出来ない」


 段々と理屈が分かっていく。

 それと同時に少し吐き気もして来た。


「そこで君たちを戦わせ自分の力で罪を浄化しその身に宿す儀式を行った! それで順調だったんだよ、このまま行ってくれれば俺も君を娶り次の聖王になれたのにな……」


 彼らが今までやって来た事の理由は守も何となく理解した、しかし今はこれからどうすると言うのか。


「それで、これからどうするの……?」


 恐る恐る尋ねるアリア。

 するとクラウスは残念そうな顔を浮かべる。


「実はとんでもない事が分っちゃってね、このままだと君たちの世界は見捨てられる」


 突然のその言葉に二人は衝撃を受ける。


「どういう事っ⁈」


「まったく、君がシナーを殺したせいだ」


「えっ……?」


 呆れたような目で言うクラウスにアリアは疑問を抱く。


「シナーとはシンに宿る大罪を七つに分けて切り離した存在、シンであるがそれは彼の7分の1でしかない」


 難しい説明を始めるクラウスだが二人は聞き入っている。


「それが君に浄化されず殺された事によって宿る場を失いシンの魂に逆流した。逆にシン宿る事により7分の1でしかなかった力が1人分の力に増幅したんだ……!」


 先程見ていたコンピュータのデータを見せる。

 そこには確かに罪のエネルギーが規定値を越えているメーターが表示されていた。


「これを七つ全ての罪で行えばとてつもない罪エネルギーが得られる、罪を超えた新たな未知のエネルギーへと進化しつつあるんだ。そうすればもうマリアは用済みとなってしまう、その意味が分かるか?」


 嫌な予感がした。

 恐る恐るマリアは答えてみる。


「この世界を維持する必要がないから滅ぶ……?」


「その通りだ!」


 とてつもない事態に巻き込まれてしまった、守はただ息を呑んでいる。


「それだけは俺も避けたい、ようやく聖王となる資格を得たんだからその場が無くなるのはね……!」


 そしてクラウスはなんとアリアに手を差し伸べて来たのだ、驚くアリアに対し言う。


「だから協力してくれ、お互い世界が滅ぶのは避けたいだろ?」


 驚愕した目でクラウスの手を見つめるアリア、そしてそれを見守る守。

 そしてアリアがとった行動は。


「……え?」


 クラウスの手を弾いたのだ。


「都合のいい事言わないで、守クンのこと殺そうとした癖に! どうせ自分の事しか考えてないんでしょ……⁈」


 怒りと憎しみで震えるアリア。

 その瞳には涙が滲んでいた。


「……チッ」


 そしてクラウスは舌打ちした。

 そのままシンの方へ歩いて行く。


「仕方ない、また強引な手を使うしかないか」


 そしてシンの機械を操作するコンピュータを弄ったのだ、その途端に苦しみ出すシン。


「彼の悲しみや憎しみを聞け、そして身の程を知るんだな」


 そしてとうとうシンは動き出す。

 ガラスの中から膨大なエネルギーを発し更なるシナーを出現させるのだった。






 つづく

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