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#4

 守とアリア、そして篤人たち大人組が楽しそうにしていた。

 今は守とアリアの学祭での映像を鑑賞している。


「へぇ、やるなぁ!」


「高一でこりゃ将来有望だ!」


 中年たちは絶賛していた。

 そして篤人も。


「たまげたな、学生の頃のモモを思い出すよ」


 今はオーディションの審査員をやっているというモモ。

 彼女に近いという言葉は何よりも嬉しかった。


「マジっすか、最高の褒め言葉っす!」


 そんな風に楽しく話していると突然地震のような揺れが一瞬だけ起こる。


「地震っ⁈」


「でも一瞬だぞ……?」


 現地である青森県民の中年たちは地震だと思っているようだ、しかし北海道民である若者三人は違う。

 この一瞬の爆発のような揺れに覚えがあったのだ。


「ウソだろ……?」


 あまりの衝撃に酔いが覚めた篤人は信じられないというような表情をしていた。

 そのまま視線をアリアに向ける、彼女を心配しているようだ。


「なんで……?」


 当のアリアも恐れている。

 現実が信じられずに震えていた。


「外に出よう!」


 篤人が立ち上がり一同を外に出す。

 温泉から出ると外は朝日が昇り始めていた、その明るさに照らされた巨大な影が一つ。


「ギャオォォォンッ……!」


 それはまさにシナーであった。

 頭がまるで人食い花のような風貌をした怪物がこの青森県にまで出現したのである。


「何で……ここは青森だろ⁈」


 中年たちは驚愕していた、北海道にしか現れなかったシナーが突然ここ青森に現れたのだから。

 その言葉を聞いていたアリアは突然罪悪感に襲われる。


「私のせいだ……!」


 一瞬で理解した、M'sシステムが自分を誘き出すために仕掛けているのだと。

 しかしここまで大掛かりな事をやるなんて、そんなに切羽詰まっているのだろうか。


「とりあえず車乗って!」


 一同は慌てて篤人の車に乗り込む。

 すぐさま発車しようと篤人はエンジンをかけるが。


「あ、ギター! ……くそッ」


 守は温泉のロッカーにギターや機材を置いて来てしまった事に気付く。

 発車する前に車から降りて走り出した。


「守クンっ!」


 アリアは手を伸ばすが中年は彼女を車の中に引き込む。


「危ねぇ! 今外に出るんじゃねぇよ!」


「でも守クンが……!」


 中年はアリアを押さえながら篤人に問う。


「あんちゃん、どうする⁈」


 悩む篤人。

 しかしそのタイミングで。


「ギャァァァスッ!」


 シナーが口からレーザーのようなものを放ち手前の建物が崩れる。

 その瓦礫が車の目の前まで降って来た。


「クッ……」


 車に乗る守以外の命を確認した篤人は歯を食い縛りながら車を発車させる。

 きっと後悔する事になるだろう、しかし死んでしまえばそれすら出来ないのだ。


「そんなっ!」


 アリアは走る車から温泉を振り返る。

 そこには守が入っていった、シナーもそこに近付いている。


「(どうしよう、私が変身すれば助けられるかも知れないのに……!)」


 考える、とにかく考える。

 自分はセイント・マリアとしてシナーと戦う力がある、それでもここにはその使命を捨てて来たのだ。


「……ッ」


 そして彼女が出した決断とは。

 この姿のまま車から飛び出す事だった。

 幸か不幸か瓦礫だらけだったのでスピードは出ておらず怪我はせずに済んだ。


「おいっ!」


 篤人たちの車から降りて走る。

 しかし覚悟は半端だった。


「(守クンを失いたくないっ、でも変身は……!)」


 中途半端に考えながら走る。

 そして温泉の建物に逆戻りした。





 建物の中では守がロッカーに預けていたギターや機材を回収し外へ戻ろうとしていた。

 何とか外へ出るがすぐ目の前にはシナーの足が。


「ひっ……」


 自分で選んだ道なのは分かっている。

 しかしいざ死が目の前に来ると恐ろしかった。


「守クンっ!」


 そこへなんとアリアが走って来たのだ。

 息を切らしながら守に飛びつく。


「アリアさんっ⁈ 逃げたんじゃ……」


「置いていける訳ないでしょ!」


 そう言われて周囲を見渡す守だったが大人組の姿や車はそこにはない。

 完全に子供だけで取り残されてしまった事を知る。


「……ごめんなさい、俺の勝手で」


「仕方ないよ、大切なギターなんだし」


 そして二人は共に手を取り合い走り出す。

 ギターや荷物があるため少し重たい守は何とかアリアに食らいついていた。

 彼女が変身しない事に何も疑問は抱かない、この旅の目的を共有していたから。


「はぁっ、はぁ……あっ」


 すると思い切り転んでしまう。

 アリアは勢い余って少し先に進んでしまった。


「守クンっ!」


 そのタイミングでシナーに吹き飛ばされた車がこちらに飛んで来る。

 このままでは守にぶつかってしまいそうだった。


「くっ……」


 そのままアリアは守に手を伸ばす。

 しかしこれでは意味がない。

 変身はしたくない、それでも体が勝手に反応してしまった。


『ハァァァッ!』


 徐々に体が巨大化していく。

 そのままアリアは巨人、セイント・マリアの姿となり守に迫る車を防いだのだった。


「なっ、アリアさん何で!」


 彼女が変身したくない事を知っていた守はその行動に驚き、申し訳なさまで感じていた。


『……ハッ』


 振り返った後、守に向けて頷きシナーの方へ歩いていく。

 予想外の戦いが始まる、アリアの背中の様子を守は緊張した面持ちで見つめていた。





 シナーは花のような顔を大きく広げてアリアに食いつこうとする。

 それに対しアリアは下から首を掬い上げるように掴んだ。


「ゥゴッ……」


 そして何度も蹴りを入れて行く。

 しかしシナーも黙っているだけでなく腕を使い抵抗して来た。

 アリアは何とか避けるがその拍子に首を押さえていた手が離れてしまう。


「ガウッ」


 そしてアリアに向かって先程のレーザーを放つ。


『グゥッ……⁈』


 しかしアリアは丸い泡のようなものを手から出しそのレーザーを中に閉じ込めていく。

 これもかつて取り込んだシナーの力なのだろうか。


『オォォォッ……』


 少し押されているが何とかレーザーを全て泡の中に閉じ込めた、そのまま思い切り投げつける。

 シナーも慌ててもう一度レーザーを放ち対抗しようとしたがすんでの所で爆発し大きく吹き飛ばされてしまった。


「ガギィィッ……」


 爆炎が晴れた後ジリジリと起き上がるシナー。

 そのまま怒りを露わにするかのような姿勢を見せた。


「ギュゥオォォォッ!」


 なんと周囲を焼き尽くすようにレーザーをめちゃくちゃに放ち始めたのだ。


『ッ……⁈』


 アリアは近くにいる守を気にかける。

 彼を守らねば。


『アァッ……!』


 守を庇ったため少しレーザーが背中に掠ってしまう。

 それだけでも非常に痛かった。


「アリアさんっ!」


 守は自分を庇って怪我をしたアリアを見て叫ぶ。

 しかしこれくらいで彼女は負けない。


『フゥゥゥ、ハァッ!』


 なんとか起き上がり先程の泡をシナーに向かって投げる。

 するとシナーは全身がその泡に包まれてしまった。

 そのままアリアが指を動かすとこちらにシナーが引き寄せられて来た。


『フンッ』


 引き寄せられたシナーに向かって右手から出現させた光の刃を突き立てる。

 それはシナーの腹部に貫通しそのまま絶命させた。


『ハァ、ハァ……』


 何とか勝利したアリアだった。

 しかし周囲を見てみるとそこは焼け野原になってしまっていた。


「アリアさん……」


 急死に一生を得た守はアリアと共にその光景を見つめているのだった。





 変身を解いた後、アリアと守は焼け野原一帯を歩いていた。

 建物が崩れる音、そして人々の悲鳴がずっと響いている。


「これ、私のせい……?」


「そんな事は……!」


 信じたくなかった。

 組織が自分を追い掛けて来た結果だなんて、しかし他に理由が考えられない。


「大丈夫ですって……っ⁈」


 必死にアリアを慰めようとする守は前方にあるものを見つける。

 アリアもそれに気付いたようで恐る恐る近付いてみた。


「え、これって……」


 見覚えのある車が思い切り潰れている。

 車種やカラー、ナンバーまで全て見覚えがあった。


「ウソだ、ウソだろ……?」


 アリアは立ち尽くしたまま呆然とし動けない。

 代わりに守が周囲を調べる。

 そして遂にあるものを見つけてしまった。


「あ、あ……そんなっ」


 それは車の割れた窓から上半身だけが飛び出し血まみれになりながら絶命している篤人の遺体だった。


「〜〜っ」


 ……アリアはただ声にならない悲鳴を上げていた。






 つづく

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