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#1

 マリアが反抗しシナーを殺した後、組織であるM'sシステムはこれまでで初めての残骸処理を行っていた。

 クラウスは現場に向かい職員たちが処理隊に協力を仰いでいる様子を眺めている。


「聖王さまぁ、これかなり手こずりますよ?」


 スマホで聖王に電話を掛ける。

 聖王は応答するが何やら忙しそうにしていた。


『あぁ、こちらもかなり手こずっている』


「やっぱそっちもっすか……?」


 クラウスは聖王側も手こずっている事を知っているようだ、そしてその様子とは。


「このままでは確実に目覚めるだろう、"シン"がな……」


 聖王がそう呟いた途端、彼の背後から物凄い音が。

 そこにあったのは以前彼らが見ていた円柱の容器で液体漬けにされている男。


「ゴボボボッ……」


 まるで沸騰したように薬液は泡を立てている。


「まさかもう目覚めるのか⁈」


 慌てて研究員を問い詰める聖王。

 その研究員は慌てながら答えた。


「生命が活性化していますっ、いつ目覚めてもおかしくありません……!」


 次の瞬間、思い切りガラスが割れる音が響く。

 円柱の容器が割れ中の薬液が溢れ出した。


「ごはっ……ふぅっ、ふぅ……っ」


 そこでは中にいた男がフラフラと立っている。

 まるで倒れまいと意気込んでいるようだ。


「め、目覚めたのか……シン」


 聖王もその様子を見て驚いている。

 その"シン"と呼ばれた男は聖王の方を睨んでまだ目覚めたての喉を震わせた。


「ここは何処だ、俺は……誰だ?」


 全裸のまま凄まじいオーラを放つそのシンという男は何か生まれた事を後悔しているような目を見せていた。








Call Me ARIA. episode3








 とある漫画喫茶の広めに設計された鍵付き個室の中、髪の乱れた守が目を覚ました。

 大きな欠伸をしながら伸びをする。


「ん〜っ」


 すると隣に自分以外の人物を発見する守。

 無料貸し出しされているブランケットを少し捲るとそこにはまだ気持ち良さそうに眠っているマリア……いや、アリアの姿が。


「うわ、もうこんな時間」


 パソコン画面に映る時間を確認して寝過ごした事に気付くがそこまで焦りはない。

 学校も何もかも投げ出して来たのだから。


「……っ」


 充電していたスマホには大量の着信とメッセージが届いていた。

 マナーモードにしていたとはいえ気付かないほど熟睡してしまっていたらしい。


「アリアさん朝ですよ、てか昼ですよ」


 アリアの体を優しく摩ると彼女はまだ眠そうにゴロゴロしている。


「う〜ん、眠いっ……」


 守の手を突っぱねて彼の分のブランケットも奪い取る。

 しかし守もそろそろ起きねばと考え彼女が起きそうな言葉を掛ける。


「アリアさん、せっかくの自由ですよ」


 彼らが求めたもの。

 それを示す言葉をかけた、すると。


「はっ、そうだ自由だ!」


 一気にガバッと起き上がり守と同じように寝癖だらけの髪を見せながらいきなり部屋を飛び出そうとする。


「待って、流石にシャワーとか浴びて準備しないと!」


「そうだ、こんな格好じゃ外出れない!」


 自らの髪を触り寝癖の酷さに気付いたアリアは守の言葉を聞き入れ準備を整える事にした。





 準備を整えた二人は漫画喫茶の料金を守の父から盗んだクレジットカードで支払い外に出た。

 眩い陽光が二人を突き刺す、ここは函館の街であった。


「凄い、着いた時は夜だったけど……」


「こんな感じなんすね……」


 初めてこの目で見る明るい函館の街に感動を覚える。


「凄い、海の香りが若干するね」


「確かに言われてみればそんな気が……!」


 実際は海から遠くはないが彼らの気分が高鳴っている事もあり気分的に海を感じていたのだ。

 そのまま二人は歩き出し函館の街の中心まで向かったのだった。

 ・

 ・

 ・

 まず二人がやって来たのは金森赤レンガ倉庫。

 テレビや本などで見た事がある光景であった。


「すげぇ、テレビで見たやつ!」


 二人は海の香りをより強く感じ歩き続ける。

 するとある店を見つける。


「ラッキーピエロじゃん!」


 函館のソウルフードとも言われるハンバーガー店だ。

 少し並んで注文し商品を受け取ると席についた。

 甘辛いソースが絡んだチキンのバーガーに特殊なソースのかかったポテト、そして名物のガラナ。

 二人は大口を開けてかぶりつき初めての美味を味わった。


「うま〜!」


 腹を満たした二人は移動していると路上ミュージシャンを見つける。

 その演奏を見ながら少ない現金を投げ銭しその人とも交流。

 守もエレキギターを繋いで共に演奏した。

 ・

 ・

 ・

 そして次にやって来たのはCMなどでよく見た八幡坂だ、木々が囲む坂からは函館の海が見下ろせる。


「こうやって見ると江別とかと全然違うよね」


「建物の感じとか色合いとか同じ北海道なのに」


 そこから見える函館の景色に街ごとの違いを感じていた。

 そんな二人は背後にある函館山の存在に気付く。


「ねぇ、あそこの展望台って有名じゃない?」


「夜に行きたいっすね、船は割と遅いから大丈夫ですよ」


 二人で函館山展望台の夜景を見る事に決めたのだ。

 そのまま時間は過ぎ、夜は海鮮で腹を満たした後二人は約束通り展望台に訪れる。


「うわぁ、これがなんとか三大夜景!」


 あまりの美しさに感動していると守は思わずアリアの横顔に見惚れてしまう。

 するとアリアもその視線に気付いたようで。


「ねぇ、景色見なくていいの?」


「えっ、あぁそうっすね……」


 どうにも歯切れが悪い守の言い方に疑問を抱いたアリアは少し質問をしてみた。


「……もしかして今更後悔してる?」


「そんなんじゃないっすよ!」


 守は正直に今の気持ちを伝える事にした、彼女を見ていた事とそこで感じた事。


「今のアリアさん見てると本当に普通に生きてる女の子だなって、誰も正体に気付きもしない」


「っ……」


 するとアリアは少し俯いてしまう。


「ごめんなさいっ、思い出させちゃって……」


「良いの、確かにそう考えると今は普通になれてるよね」


 そして守の先程の言葉にある返しをする。


「うん、逆だよ」


「逆?」


 そのままアリアは函館の夜景をバックに守に伝えた。


「普通の女の子としての私が正体なんだよ!」


 その言葉を聞いた守は思わず微笑んでしまった。

 彼女の笑顔を見ているとこちらまで釣られてしまう、まさにそれを実感していたのだ。





 そのまま二人は函館を発つため津軽海峡フェリーのターミナルへ向かった。

 22:05に出発する船を求めて彼らはチケットを購入しようとした。


「じゃあカードで」


 親から盗んだクレジットカードで支払いをしようとしたがそこで問題が。

 なんとパスワードの入力画面が表示されたのだ。


「え、パスワード? さっきは無かったのに……」


「買うものによるんじゃない……?」


 アリアと焦りながらも試行錯誤する。

 まず持ち主である父親の誕生日を入力してみた。


「うわ、違うみたい……」


「じゃあお母さんのは?」


 言われた通り次は母親のものを入れてみるがこれもまた違う、流石に窓口の案内人も心配したようで。


「お客様、大丈夫ですか?」


 その一声に更に焦りは高まる。


「え! だ、大丈夫です……!」


 なんとか強がってみせるがそれどころではなかった、二人はしばらく考える。

 あと一回間違えてしまえばカードは停止されてしまう。


「やばい、後ろ並んでるよ……」


 列が少し出来てしまう。

 彼らを待つ人は腕時計を確認していた。


「んん、無いと思うけど一か八か……」


 ここで守はもう一つ思い当たる数字を入力する。

 するとそこで。


「あ、通った」


 なんとパスワードが認証されたのだ、これにて支払いが完了し二人は何とかチケットを手に入れる事が叶う。


「はぁ〜良かった、焦らせないでよ!」


 乗り場に向かう道中でアリアは守の背中を叩いた。

 思わず声を出してしまう守だったがパスワードの真相に少し疑問を抱いている。


「何でパスワード……」


「ん?」


「俺の誕生日だったんだろ……?」


 なんとパスワードは守の誕生日だったのだ。

 何故かは分からない、両親は自分を道具のように扱っていたのに。


 そんな風に悩む二人を先程の列に並んでいたある男が見つめていた。






 つづく

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