マリアと語り合った次の日、守は少し機嫌が良くなり軽い足取りで登校できた。
校門前ではまたスグル達のバンドがビラ配りをしていた。
機嫌が良くなっていた守はそれを快く受け取る。
「どうした、今日はご機嫌だな?」
「いや別に〜?」
明らかにニヤニヤしている守の様子を不思議に思いながらもスグルはビラ配りを続ける。
そして守は教室に向かい席についた。
「ははっ」
そしてイヤホンをしスマホの作曲アプリで昨日作った曲を聴きその完成度に思わず笑みが溢れる。
タイトルには『思いのままに』という言葉、早くマリアに聴かせたくて仕方なかった。
「え、マジかよ……」
すると廊下の方からザワザワと声が聞こえて来る。
教室にいた一同は気になったのか外に確認しに行くので守も教室から顔を出してみた。
するとそこには驚きの光景が。
「え……」
そこにいたのはマリアだった。
自分の教室に向かおうと廊下を歩いているようだが。
一同が騒ついているのはその姿。
顔にはアザが見え、首には手で絞められたような跡が。
何より彼女が非常にショックを受けた様子なのだ。
「マ、マリアさんっ! どうしたんですか……⁈」
思わず教室から飛び出してしまった守は彼女に問う。
すると彼女はゆっくりと振り返り、儚げに答えた。
「……その呼び方、やめて」
それからもう誰の目も見ないままマリアは先に行ってしまった。
訳が分からない守はその場に立ち尽くしてしまう。
彼女に聴かせたかった曲があったと言うのに。
☆
Call Me ARIA. episode2
☆
それから授業が始まるが守は全く集中が出来ない。
頭はマリアの事でいっぱいだったのだ。
「こら神崎、当ててるぞ」
「はいっ……」
先生に当てられている事にも気付かず、そして解答も間違ってしまっていた。
全く授業が耳に入らない、それほどまでに彼女を心配しながら昼休みまでの時を過ごした。
そして遂に時間は昼休み。
守は一目散に教室を飛び出し屋上へと向かった。
「マリアさん!」
思い切り屋上の扉を開けるとやはりこの間の場所にマリアは座っていた。
しかし以前のような開放感を覚える姿ではなく縮こまってしまっている。
「だから言ったじゃん、その呼び方やめてって……」
そう言われながらも彼女の隣にやって来た守はそのまま腰掛けた。
「何でですか、名前なのに……」
彼女の要望の真意を問うと少し歯痒そうにマリアは答えてくれた。
「マリアは聖女が代々受け継ぐ名前。最悪な使命を象徴してるようなものなの」
「代々って……」
「もちろんこんな公に戦ってるのは私だけ。……私だけ半端者なんだって、だから成熟するまで鍛えるみたいなこと言ってた。シナーって怪獣もそのために自作自演で出現させられてるの」
世間の想像しているより事態は複雑で闇が深いと感じてしまう守は必死に理解しようとしたがどうしてもまだ脳が理解を拒んでいるようにも感じた。
「しかも倒しちゃいけないって、浄化してその力を取り込む事で成熟するから。そうしないと世界は滅ぶって脅されてね、勝手すぎるよ……」
シナーがこれまで光って消えて行くのはそういう事らしいがまだ守は理解できない。
とりあえず頷く事にしてみた。
「そ、そうなんすね……」
まだ恐怖が少し大きく、変なリアクションになってしまう。
「無理に理解しなくて良いよ、君には関係ない事だから知らないままで」
守の様子を察したマリアは突き放すような言い方をしたため当の守は焦る。
「いやいや聞かされた以上は何も知らないって訳には行きませんよっ、あの被害が自作自演とか色々……っ」
「そう?」
「ただビックリしたってだけで……」
そして守は遂にずっと気になっていた事を問う。
「てかそのアザとかどうしたんすか……⁈」
するとマリアは"やはり聞くか"と言わんばかりの反応を見せ辛そうに言った。
守はただ前からシナーは出ていないのにアザだらけなのが気になっただけ。
「……言いたくない」
明らかに極秘な情報は話してくれたマリア。
それでもまだ話したくない事とは一体どれほどの事なのだろうか。
守は語りたがらない彼女の表情を見て胸を痛めるのだった、そして同時に彼女を元気付けたいと強く思うのだ。
☆
その日の放課後、塾まで少し時間があった守は学校内のある場所に向かっていた。
そしてバンドの練習音が聞こえて来る扉を開ける。
「え、神崎?」
そこにいたのはスグルたち陽キャのバンドだった。
明らかに女子ウケ狙いのような曲を演奏していた所を一度止める。
「急に烏滸がましいかも知れないけど……頼む!」
守は彼らのバンドに突然強く頭を下げて懇願した。
当然戸惑う一同。
「ど、どうした……⁈」
「俺を入れて一曲だけやってくれないか? もう曲は完璧に出来てるんだ……!」
なんと今回だけバンドに入れてくれとの申し出だ。
当然メンバー達は急に言われた所で難しいと考える。
「無理じゃないか……? もう学祭まで時間ないし」
「うん、それに神崎は自分のバンドあるんじゃないの?」
守の事情は知らない。
ただこのキラキラしたバンドに突然彼が加わると言うのもイメージが崩れかねない。
「俺みたいなのが釣り合わないのは分かってる、でもどうしても聴いてほしい人がいるんだ……!」
マリアの事を思い浮かべながら必死に想いを伝える。
するとスグルが守に近付き今の言葉の詳細を聞いた。
「その人って女?」
「え、まぁうん……」
恥ずかしげに頷く守を見たスグルはニヤリと笑った。
「良いじゃん、俺らも尺余ってて悩んでたし。そんな長くない曲ならいけんじゃね?」
スグルのフォローもあり何とか彼らと演奏する事が可能となった。
他のメンバーも渋々だが了承してくれる。
「まぁ一旦聞いてみようか」
「そうだね、それから決めよう」
その意見もあり守の曲を一同で聞いてみる事となった。
・
・
・
そして曲を聴き終わった時。
一同は驚きの声を上げる。
「すげぇ、これ本当に神崎が作ったの?」
「元々軽く書いてた曲に昨晩アレンジ加えて……」
「って事は一晩でこのクオリティ⁈ マジかよ!」
「難しくもなさそうだし尺考えても行けそうだな!」
メンバー達もノリノリで応えてくれる。
遂に守の新曲を演奏する機会に恵まれた。
「ん、ニュース?」
するとここで守のスマホに通知が。
帯広方面で第5の怪獣が出現したとのニュースだ。
スグルが真っ先にリアクションを見せる。
「また怪獣かよ、最近スパン短くねーか?」
ニュースを知った守は一人マリアの心配をした。
彼女はいつも以上に苦しそうだった、やはり何か表面からは見て取れない真実があるのだろうか。
☆
守はスマホのニュース映像でマリアの戦いを見る。
そこでは彼女が変身した巨人とこれまでより遥かに凶悪そうなシナーが戦っていた。
『グハッ……』
苦戦するマリア。
首の長い恐竜のような姿に人間の腕が6本生えているシナーはその6本の腕を使いマリアを連続で殴って行く。
「ヴォオオオオッ!」
『ゥグゥゥゥッ⁈』
何とか踏ん張っているマリアに今度は尻尾による攻撃を叩きつけた。
背後のビルに激突し崩壊させてしまうマリア。
「ヴゥグホホホッ」
嘲笑うかのようにマリアを見下ろすシナーは更にまた多くの腕で殴ろうとして来る。
そこでマリアは反撃に出た。
『クッ……』
右手で手刀を作る。
すると光の刃が出現した。
それを見た守は声を上げる。
「えっ、これって……!」
映像をニュースなどで見返したから覚えている。
この刃は前回戦ったシナーが使っていたものだ。
何故同じ技をマリアが使えるのだろうか。
『フンッ』
守が考える間もなくマリアはその刃を振り翳しシナーに斬りかかる。
その切れ味は凄まじく6本ある腕のうちの2本を一瞬で切り落としたのだ。
「ヴァギャァァァッ……!」
悲鳴を上げながらボタボタと血液を垂らすシナー。
その隙にマリアはフラフラと立ち上がる。
『トラァァァッ!』
必死になり突っ込んで行くが上手く力が入らないのか痛みに悶え暴れるシナーの振り回す尻尾にやられてしまった。
『ガハァッ……』
そのまま再度起き上がれなくなってしまう。
その隙をついたのかシナーは逃げようと地面を掘り出した。
「グッ、ゴホォッ……」
マリアは何とか立ち上がって追いかけねばならない。
シナーに向かって手を伸ばすが立ち上がる気力がもうないのだ。
『アッ、ハァッ……』
そのままマリアはやる気が失せたように項垂れてしまった。
シナーの方はマリアの気力が無くなったお陰で逃げ切る事が出来たのだ。
つまり初めてシナーを逃してしまった事となる。
『グゥッ……』
そのまま倒れてしまうマリア。
以前正体を知った時のような状態になり守は焦る。
「そんな……」
初めてマリアが負けた。
しかし何より守が気掛かりだったのは彼女がわざとシナーを追わなかったように思えた事だ。
それが本当なら一体なぜ、彼女はシナーを逃すような事をしたのだろうか。
ただこの場には異様な重苦しい空気が漂っていた。
マリアは何のために戦えば良いのだろうか。
つづく